2300年のカレンダー
自分が死んだ後のカレンダーを見るのが好きだった。
スマホのカレンダーアプリ。
あれでずっと先の未来の日付を眺めるのだ。
例えば2300年。
私は絶対に死んでいるし、私のことを知っている奴も皆死んでいる。
それを見ていると、なんだか落ち着くのだ。
カレンダーは私の命日から先も続いている。
自分が死んだ後も世界は問題なく続いていく。
だから私一人がいなくなったって大丈夫だ、と思える。
私に勇気を与えてくれる。
私の部屋にあるカレンダーには2024年12月24日から先がない。
1ヶ月くらい前に破り捨てた。
そして今日はクリスマスイブだ。
私はビルの屋上にいた。
ビルの屋上から、浮かれた街を眺めていた。
見下ろしていた。
靴を脱ぎ、目を瞑り、足を踏み出そうとしていた。
しかし……。
この期に及んで私は死ぬことが少しだけ怖くなったらしい。
気づけば一歩後ろに下がっていた。
ふと、2300年のカレンダーが頭に浮かんできた。
あれは私に勇気を与えてくれる。
死んでもいいよと背中を押してくれる。
それと同時に、自分の部屋にある、明日の日付がないカレンダーのことも脳裏をよぎった。
そういえば、もうカレンダーを捲ることもないんだな。
そう思うと、寂しくなった。
考えを振り払うように激しく頭を振る。
決意を新たにするため、私はスマホを取り出し、カレンダーのアプリを開いた。
2300年を見る。
しかし、いつものように勇気を得ることはできなかった。
私は酷く焦り、叩くように画面をスクロールした。
どれだけ先の未来のカレンダーも、私の背中を押してくれることはなかった。
私は未来に裏切られたような気持ちになり、途方に暮れた。
その時、ほんの思いつきで画面をスクロールした。
今度は未来から現在へと遡り、2024年12月のカレンダーを見た。
しばらく見ていなかった2024年12月25日の枠を見て、捨てたと思っていた人生が、私次第でまだ続けられることを悟った。
私は通販サイトで2024年のカレンダーを検索した。
……。
売っている。
まだ生きていてもいいよと言われた気がした。
数日後。
もう師走も末だというのに、私の部屋には買ったばかりの新しい2024年のカレンダーがぶら下がっていた。