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演劇の街

「ペルダンの周辺に、魔物が増えているらしい。ちょうどいいから、君たちで調査をしてきてくれ。」

「え?なんですか。」

「ペルダンは、王都の東に位置する街だ。サタケも魔法の基礎はできてきたから、いい力試しになると思うんだ。ダイア君のどんな言語も理解できるという能力も確認してみたいしな。」


俺は1週間ほど魔法の訓練を続け、多少魔法が使えるようになっていた。

単純に肉体を鍛えられたのと肉体強化の魔法を習得したことで、垂直跳びで2メートルくらい飛べるようになった。

「魔物ってのは俺たちで戦えるようなもんなんですか?」

「まあ、ミーヒャがいるから大丈夫なんじゃないか。私も行きたいところだけど、私が王の元を離れるわけにはいかないからな。」

俺は小柄な赤髪の少女を見た。確かに魔法の勉強をし始めてこいつがそれなりの魔法使いということは分かったけど…。

「……弱そうなんだよなあ。」

「失礼だな!!僕は1級魔法使いだぞ!」

実際、凄いんだろうけどこいつが言うとお手軽に取れる資格のように聞こえる。

「あなたが来なければ、私が言語を解析出来ることを確認はできないのでは?」

ダイアが口を開く。

「私の使いのピークを送る。頭のいい鳥だから、君たちのことを上空から見守らせるよ。」

「そうですか。ちなみに、これは労働だと思うのですが、報酬は出るのですか?」

よく聞いてくれたな。危うくブラック労働をさせられるところだった。

「うん、そうだな。よく考えたら君たちこの国のお金持ってないだろうし、報酬は考えておくよ。じゃ、そういうことで、明日の朝出発だ。ペルダンまではだいたい半日くらいで着く。車はこっちで用意しておく。」

明日かよ、急すぎるだろ。車で半日ってまあまあ長旅だぞ。

ん?ていうか車って馬車かなんかのことか?


翌日、宿舎を出るとすでにキャンリーさんが俺たちを待ち構えていた。彼女の後ろには屋根付きの馬車のような車が停まっている。馬はいない。

「おはよう、諸君!よく眠れたかい?まあ、サタケとダイア君の初仕事ということでね、君たちには特別に私の魔導車を貸してあげることにしたんだ。」

「魔導車?」

「魔道車は魔力で走る乗り物だよ。こいつは最高の車さ。最高時速200kmは出る!見ろこの輝く車体を!アルバル製で職人ザダイが造ったものだ。魔力効率は少しだけ悪いけど、この車に乗れるってのは、正直君たち、…ついてるぜ。」

なんかテンションが怖いんだが。車オタクなのかこの人。

「キャンリー、これって、運転するの僕だよね?」

「そうだね。2人は魔道車に乗ったことないだろうし。ミーヒャ、私はあなたのことを信頼してるから、この車の運転を任せるんだよ。」

そう言うとキャンリーさんはミーヒャの両肩をガッシリ掴んだ。

「普通の魔道車で良かったのに…。」



「ここに魔力を込めると、動くんだ。半日の移動となると、けっこう魔力を使うから1人で運転するのは大変なんだよね。ケンイチは運転できないの?」

「いや、俺がいたとこにも同じような乗り物はあったけど、運転はしたことねえな。操縦したことあるのはダチョウくらいだ。」

元の世界では自動運転の車しかないため、サーキットなどの遊び以外で車を運転する機会はなかった。

「じゃあ、やめとこう…。ダイアは魔力を使えないみたいだしなあ。」

「大丈夫ですよ、あなたは数えるほどしかいないという1級魔法使いなのでしょう?」

「そうそう、1級魔法使いならこんなものに使う魔力大したことないだろ。」

「こいつら……。」

不満げなミーヒャの運転で、俺たちはペルダンというまちに向かった。


「ペルダンって街はどんな街なんだ?」

「ペルダンは、演劇が有名な街なんだ。レスティアでは、レスティアに生まれたらラウディの建築、インガルの絶景、ペンドラの演劇、それとヴァングライン王の城を死ぬまでに見ろって言葉があったくらいだ。かつてはこの国中の人がここの演劇をみにきたくらいだよ。っておい、くつろぎすぎだろ!」

最初は流石に悪いと思ってちゃんと座っていたが、出発してすぐにエナが寝始め、だんだんと退屈した俺も後部座席の広い車内で寝転んでいた。

「かつては?」

「…呪いがあったからね。言葉がわからない演劇なんて見に行かないだろ?見に来る人が減ったら張り合いを無くしてペンドラの演劇も盛り下がってるみたい…。」

当たり前だが、一つの国の言葉がバラバラに分割されたら文化的、経済的な被害は甚大なものだろう。話半分に聞いていたが、この国は実はかなり危機的な状況なのかもしれない。


「だから、エナとケンイチにはめちゃくちゃ期待してると思うよ王様も。」

それならもっと丁重に扱われても良いと思うんだが。

「…リア王も、昔はペルダンの演劇に見に行くのが好きで、私も一緒に連れてってもらったことがあるんだ。レスティアは、本当に平和な国だったんだけどね。……だから、先代の王様を恨む人がいるのも、ちょっとだけ、分かるな。誰にも言っちゃダメだよこれ。」

横を見ると、ダイアが目を覚ましている。

「今の言葉、バッチリ記憶させていただきました。ミーヒャさんが先代国王を侮辱するような人間であったとはがっかりです。これは帰ったらすぐに…。」

「お前はどの立場なんだよ!」

急に先代国王の信者になりやがって。

「単なる冗談ですよ。」

「言うな、そんな冗談は。」

演劇の街か。この世界の演劇を見れるとしたら楽しみだな。



休み休み車は進み、日が暮れる頃にペルダンに着いた。車を街の外れに止めて俺たちは街の中に入っていった。

「車、あんなところに泊めて大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。ああいう高級車は盗んだり傷つけたりすることはそこらの人間じゃほぼ不可能だから。はあ、もうクタクタだよ。調査は明日にして、宿を探そう。」

「ああ、そうしよう。悪いな、ずっと運転してもらって」

そもそもミーヒャの魔力が枯渇した状態だと、俺は大した魔法は使えないし、戦力は実質ダイアの腕力だけだ。魔物がどんな生き物か知らないが戦える状態ではないだろう。

「いいよ、私しか運転できないんだから仕方ない。」

「しかし、…夜だからってのもあるかもしれないけど人通りがだいぶ少ないな。」

まだ深夜というほどの時間はないが、美しく整備された街並みにポツポツとしか人はいない。

「魔物が出るからかもしれないな。僕も久しぶりにきたけど、前は夜はいろんなところで演劇をやっているからいつだって賑わっていた。」

「ミーヒャさん、あれが劇場ですか?」


エナが指差した方には、いかにも格式の高そうな立派な建物があった。太い石柱が幾重にもアーチを作り、それが2階3階と重なっている。その中心のアーチの前には、二体の石像が立っていた。元の世界でいう悪魔みたいな姿をしている。

「ああ、懐かしいな。子供の頃はこの石像が怖くって、リアは泣いちゃったんだよ。」

あのドSなお姫様のそんな姿想像できないな。

「石像といえば、この世界にはガーゴイルっていう石像に擬態する石の体を持った魔物もいるから気をつけてね。」

「ガーゴイルとは、我々の世界ではむしろ悪魔を模した石像のことを呼ぶのですが。わかりました、気をつけましょう。」

そう言うと、エナは腰に携えた剣を抜き、目の前の石像をまっ二つに叩き割った。

「いや、何してるんだお前!」

ミーヒャと同時に叫ぶ。

「何って、擬態している可能性があるならまずはその可能性を潰すべきです。」

キョトンとした顔でこっちを見る。

「いや、ここは伝統あるペルダンの劇場だよ!?ただでさえ王都の人間はよく思われてないのに、こんなとこ見られたら。」

まあ、幸いあたりに人は少ない。すぐにこの場を離れればなんとかなるか。


「#$%&'()(&$$00)=%$###!!」

こちらを見ている男が叫んだ。言葉はわからないが明確に俺たちに敵意を向けている。

「'&%$%&()'('&%&!!」

「$%&('&%%%$!」

「$&'($#$0)('%$%&!!」

めちゃくちゃ広まってる…。さっきまで全然人いなかったのになんでこんなことになんだよ。

「ああ、どうしようどうしよう。一旦ここから逃げるしかないか!」

「逃げたら余計に悪い印象を与える気がしますが。素直に謝るべきでは?」

クソっ、なんでこいつこんな冷静なんだ。

「言葉が伝わらねえんだから謝るのも無理だろ。ここは一旦逃げてダイアに言葉を解析させる方法を考えよう。まだ顔は見られてないかもしれないしな。」

身体強化の魔法を使い、加速してその場を去る。

「休めると思ってたのに…。」

ミーヒャがそっと嘆いた。


とにかく人がいない方へと逃げた結果、全く人通りがなく、街頭もついていない街の外れまで来てしまった。

「ラビ!」

ミーヒャがつぶやき明かりが宙に浮かぶ。

「もう僕は明かりを点けるくらいの魔力しか残ってない。とにかく今日は休もう。」

「ああ。しかしこのあたりは人が住んでいないのかな。建物からも人の気配がない。」

「…地方から来た人のための宿屋街だったのかもしれないね。観光客が来なくなって寂れてしまったのかも。」

なるほど、それならこのあたりで泊まることはできるか。

「ミーヒャ、あれも劇場でしょうか。」

さっきほど立派ではないが、同じような造りの建物がある。

「たぶん、そう。ここは劇場があちこちにあるから。」

そして劇場の前にはここにも悪魔のような石像が立っていた。

「エナ、もう壊しちゃダメだよ。」

「壊しませんよ。元はと言えばミーヒャがあんなタイミングでガーゴイルの話をするからいけないんじゃないですか。」

「僕のせい!?僕だって急にあんなハッスルプレーする人がいるなんて思わないよ!」

喧嘩する2人の後ろで、石像が少し傾いた気がした。

いや、そんなわけないよな。

「ミーヒャ避けろ!!」

突如として石像が動き、持っていた槍でミーヒャを殴りつけようとした。俺の声に反応したミーヒャはギリギリで頭を腕でかばう。

「嘘でしょ!」

まずいぞ、ミーヒャは戦えるほどの魔力は残ってないはずだ。俺とダイアでなんとかしなきゃいけない。

「ティームズ!!」

1週間ほど訓練して馬くらいなら操れるようになったこの魔法は、少し自信があった。が、ガーゴイルには全く通用せず動きを止めることもできない。

「ケンイチの魔力じゃ、魔物を操るのは無理だ!」

ガーゴイルから距離をとったミーヒャが叫ぶ。そんなこと言われたって魔物を止めれるような魔法なんて俺は使えない。

「シャッ!」

卒然、俺の目の前をハイキックが通り過ぎた。ガーゴイルは軽く吹き飛ばされる。

「あの女と戦っていたおかげで、戦闘の際の動きが最適化されたようですね。」

その蹴りはダイアが放った蹴りのようだ。つええ。なんだこのアンドロイド。てかハイキックて、武器が使えないからしゃーないけど。

「エナ、後ろ!」

ミーヒャが叫ぶ。ガーゴイルはもう一体いたようだ。エナは振り返らずに裏拳を放ち、ガーゴイルを倒した。

「だから私の言う通りだったじゃないですか。危険な可能性を早めに潰しておかないとこうなるんです。」

いやそもそもお前が石像破壊してなかったらこんなとこまでこなくて良かったんだが。


「凄いねダイア、ガーゴイルの体はかなり硬いのに、素手で倒しちゃうなんて。」

「私の体は超合金でできていますからね。そんなことより、この建物の内部で、人の声がしますよ。」

「劇場の中で?ガーゴイルが目の前にいる劇場に人がいるのかな。」

「私の耳は100m先の会話も聞き取れますから間違いないです。」

そう言うと、ダイアは勝手に劇場の中に進んでいった。

「気をつけてよ。中にも魔物がいるかもしれない。」

扉の中には人はいなかったが、ホールは綺麗で明かりもついている。

「確かに人がいそうだね。でも受付の人間もいないな、流石に演劇をやってはいないと思うけど…。」

「こっちですね。」

ダイアが進んだ先は、舞台のあるホールだった。ドアを開けると、舞台に照明が当たっている。

舞台の中心には女の子が1人立っていた。言葉はわからないが、彼女は確かに演劇をやっているように見える。

暗くてよくは見えないが、客席はかなり埋まっている様子だ。

「まずいな、上演中だったか。またここでも嫌われちまうぞ。」

声を潜めてそう言うが、客席は俺たちに気づいた様子はなかった。

「…上演中というか、ケンイチ、気がつかない?」

ステージ上の女の子が、演技の合間にチラッと、確かにこっちに視線をやった。

「観客席に座ってるのは、全部人間じゃなくて魔物だ。」







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