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レスティアの姫

「$%&'())0('&%$#%&'()。」

ダイアが何か言うと、ミーヒャは目を丸くした。ダイアは俺に近づき、なにか小さな装置を手渡した。

「なんだこれ。」

「翻訳機です。耳につけてください。私が解析した情報が全て入っているので、私が理解した言語は全て日本語に変換して聞こえますし、あなたが話す言葉は全てこの国の人間の言葉になります。この国の言葉は完璧に解析できたわけではありませんが、情報が増え次第アップデートをします。」


俺は、恐る恐るその装置を耳につけた。ダイアの言った通り、店主のイカツイ男の声が鮮明に聞こえてくる。

「おい、あんた。金は持ってるんだろうな!憲兵に突き出すぞ。他所の国のもんだか知らねえけど、本は開いたら買うのがここのルールなんだよ!」

めちゃくちゃ怒られてるじゃねえか。

「だから僕はずっと言ってたんだよ!気づいてただろ!」

……お前は僕っ子だったのか。


本の代金をミーヒャに立て替えてもらい、俺たちは店を出た。

「改めて、僕はミーヒャ。君たちはこの国の人間かい?とにかく、君たちのその言葉を翻訳できる魔法はすごいよ。」

「君たちではなく私の力です。そして魔法ではありません。」

「魔法じゃないの?じゃあ……どうやったんだ? ものすごく頭がいいの?」

…魔法?ダイアは気にすることなく会話を続けた。

「だいたい合ってますね。」

「とにかく、君たちは知らない言葉でも話せるようになれるんだろ?

 すごいよ!是非、この国の王様に合ってくれ!!」

「王様?」




近づくほどに、その城は威圧感を増していった。20XX年の地球でも、宙に浮く建物というのは存在していない。街の人たちはその浮いている城を日常として受け止めているようだ、これは日頃から浮いているのだろう。

「…この世界には、魔法があるのか?」

「魔法があるのって、君たちは魔法がない世界からきたのかい?いったいどこの人間なんだ。」

「俺たちは、地球っていう、まあ異世界からきたものだ。」

「ちなみに、正確に言うと私は人間ではありません。」

「人間じゃない?魔人かなにかかい?角は生えてないみたいだし、亜人種にも見えないけど。」

「私は人工的に作られた人間。アンドロイドです。」

「人工的に!?魔法使いが使役するゴーレムみたいなものかな…。」

「だいたい合ってます。」

「いやそれでいいのかお前。」

説明が困難と判断したのかダイアはゴーレムという例えをあっさり受け入れた。

「じゃあ、ケンイチがダイアを作ったってこと?」

ミーヒャが尊敬の眼差しで俺に問いかける。

「いや、俺じゃない。」

「じゃあ、ケンイチはいったい何者なんだ?」

「俺は、…別に普通の人だよ。」

「そうか……。」

ミーヒャは残念そうにそう答えた。別に良いだろ!普通の人間でも。

「しかし、あれだけの大きさの城を浮かせるなんて魔法ってのは凄いな。」

「そうですね。現代の技術でもあれだけのサイズの物体を浮かし続けるのは不可能だと思います。魔法、気になりますね。」


宙に浮いた大きな地盤には西洋風な巨大な城が立っている。高く聳える柱が左右対称に配置され、クラシカルな作りの城に迫力を与えていた。

「この壁は意味があるのか?城が浮いてるのに。」

城の下にまで行くと、一応、城の敷地を示すように3メートルほどの塀が宙に浮く城を中心にあった。

「この壁を基準に魔障壁が張られているんだよ。壁自体に大して意味はないけど。立ち入っちゃいけない境界だ。」

「で、ここまで来たけど、お前はこの城に入れるのか?よく考えたらお前が何者なのかもわからないけど。」

「はあ、僕ほど王様に信頼されてるやつはいないよ。そもそも僕は王様の命令でリアンまで行ってたんだ。」

リアンはあの狼たちの土地だろうか。

ミーヒャは得意げにそう言うと、門の前に立つ武装した衛兵に話しかけにいった。衛兵の1人が指笛を吹くと、どこからか鷲のような立派な鳥が、スーッと滑空して衛兵の腕に降り立った。

「城に用があるときはこの子に手紙を渡すんだ。」

ミーヒャは服から取り出して紙を宙に放ると、宙に浮いた紙にスラスラペンを走らせた。呼び寄せられた鳥は脚にがっしりと手紙を掴みんで城へと飛び立ち、即座にその姿を黒点に変えた。


「王様か…。」

ミーヒャの口ぶりだと、俺たち(ダイア)の能力はこの国では極めて重要なものらしい。まあ元の世界でも100年前にダイアがいたらどこでも重用されるだろうし、当たり前かもしれないが。牢獄から始まった異世界生活だったが、もしやここから華やかな生活が待っているのだろうか。


「あっ、もう来てくれた。」

ミーヒャが宙を指差した。そこにいたのは使いの鳥ではなく、あまりに自然に宙を闊歩する長身の女性だった。

金髪の長い髪を風に流し歩くその女性は、ミーヒャと同じような襟付きの外套を着ている。ミーヒャがきているのは赤の外套だが、彼女の外套は紫色だ。

「この2人か。なるほど、見慣れない格好だな。」

門の前に降りたった女はそう言うと、遠慮なく俺たちの全身に視線をやった。

思っていたよりも背が高く、俺よりも背が高い上に、クッキリとしたその視線に、近くにくるとかなり圧を感じる。

「こんにちは。言葉がわかるのかい?」

「ええ、分かります。」

「どこから来た?」

「…日本です。」

「どこだ。」

「…地球です。」

「分からないな。ミーヒャによると、初めて聞いた言葉を翻訳できると。」

「ええ、できます。」

「あなたが出来るわけじゃないでしょう。」

ダイアが口を尖らせる。

「面白いな。まあいいや、とりあえず王に会ってもらうか。ついて来て。」

あっさりそう言うと扉の中に俺たちを招き入れた。


壁の内側は、とても城とは思えないほど殺風景だった。枯れ木がいくらか生えているくらいで、とても王の居住地とは思えない。ただ一つ目を引くのは、土地の真ん中にぽっかりと巨大な穴が開いていることだ。

「私はキャンリー・ハートリーフォック。キャンリーでも、フォックでも、ハートリーでも、呼びやすいように呼んでいいよ。」

長身の女性は、くるっと振り返って思い出したようにそう自己紹介をした。

「佐竹健二です。…こっちはダイア。」

興味なさげなダイアの分まで自己紹介をする。

「このお城、すごいですね。地盤ごと浮いているんだ。」

「王様の魔力で浮かせているんだ。うちの王様の魔力は図抜けているからね。」

「浮いてるのは確かにすごいですが、私たちはどうやってあのお城まで行くんでしょうか?」

ダイアがもっともな疑問をぶつける。城に通じる道はどこにもなかった。

「こっちだよ。」

キャンリーさんが向かう先には5メートル四方くらいの石畳の台があった。4隅には鳥の石像が飾られている。


彼女についてその台に登ると、急に台が上空へと登り始めた。

「うわっ。」

驚いて思わずダイアにしがみついてしまうが、邪魔臭そうにすぐにその腕を振りほどかれた。

台が上昇するに伴い、上空に1本の道が構成され始める。もともとあったものが隠されていたのか、それとも毎回これが構成されているのか、どちらにしろすごい仕掛けだ。

「来賓の際にはもう少し華美な仕掛けになるんだよ。」

驚く俺の表情を見て、少しだけ得意げにキャンリーさんが言った。現れた橋は車が2、3台通れそうな幅があり、しっかりと欄干もついている。よく見ると城は階層が三つに分かれており、今回の橋は一番上の階層に繋がっている。王の住んでいる場所なのだろうか。

「一応言っておくけど、王に無礼な口を利かないように。死にたくなければ。」

王様、怖い系なのかよ。勝手に気の良いおっちゃんをイメージしてたから、そんなこと言われると緊張してくるな。

「お前に言ってるんだぞ、気をつけろよ。」

ダイアに釘を刺す。こいつは基本が敬語だけど、どうやら人に敬意を表すことなんてなさそうだからな。



橋の先には、城の下とは違い、見事な庭園が広がっていた。キャンリーさんは城へは向かわず、庭園の中を進んで行く。

俺たちは彼女に大人しくついていったが、途中から武装した兵隊が背後に付いているのに気が付いた。

「王がもう来てるみたいだ。変な気は起こさないでくれよ。」

キャンリーさんの視線の先には、庭園に似つかわしい大理石のような素材のテーブルと椅子があり、そこには小さな女の子が座っていた。フォックさんと同じ、美しい、柔らかなブロンドの上に、ティアラが載せられている。そしてその服装は街の人間とも兵士とも明らかに違う白いドレスだった。

「お姫様か。この国の。」

俺たちに気づいた様子の少女は気怠げな目でこちらを見た。

「姫ではない、このお方がレスティアの当代国王、リア・ヴァングライン様だ。」



「連れて来ましたよ。彼らがミーヒャの言う異国人たちです。」

王だというその少女は俺たちを見て、そしてミーヒャに視線を向けた。

「詳しく説明してミーヒャ。」

「はい、リアンに調査にいった時、調査隊のみんなとはぐれてしまって、狼人族に捕えられてしまったのですが、その時同じ牢屋に捕まっていたのがこの2人です。最初は私の言葉を理解していなかったのですが、何度か私の言葉を聞くうちに、レスティアの第一言語を断片的に理解するようになったんです。今では完全に第一言語で会話ができます。」

「…ふーん。?何か話してみなさい。」

その言葉は俺とダイアに向けられたようだ。

「話してみなさいと、命令していますが、私はあなたの命令を聞く義務はありません。むしろ、あなたは私のこの頭脳を求めているようですからあなたの方が頭を下げて頼むべきではないでしょうか。」

王とはいえ人間に命令されたのが癪だったのか、なぜか急に早口で突っかかる。

「けっこう。確かにここの言葉は話せるようね。でもミーヒャ、そもそもこの人たちが王都の出身という可能性もあるんじゃないの?確かにこんな人たちを見たことはないけど、私に会うためにあなたを欺いてた可能性は?。」

幼い少女にエナの煽りは届かず、完全にスルーされた。

「お言葉ですが、その質問に意味があるとは思えません。私たちが彼女を欺いているとしたとしたら、ここでその質問をされたところで彼女にそれを確かめる方法はないのですから。」

「意味はあるわ。ここで注意を喚起することで、彼女に記憶の中のあなたたちの言動におかしな点がなかったか確かめる契機になるでしょう。あなたのその発言の方にこそ意味があるとは思えないのだけれど。」

リア王の余裕ありげな発言に、ダイアは不満げな顔で引き下がった。

人工知能が論破されるなよ。

「まあいいわ。嘘をついてるようには見えないし。私はミーヒャのことも実は信用しているから。」

そう言うと、王は立ち上がった。背丈は140cmを少し超えたくらいだろう。見た目から察すると日本でいうと小学生か中学生くらいの年齢だろうか。

「異世界の人間、いいじゃない。

 私があなたたちに教えてあげる。この国のこと、この世界のことを。」










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