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ショートショート9月〜4回目

悪人と善人

作者: たかさば

 ある国で、悪人が悪意を撒き散らしておりました。

 ああしてやる、こうしてやる…、憎しみを叩きつけて、暴力的に過ごしておりました。


 自分の感情を撒き散らすのは、とても心地の良いことでした。

 毎日感情の的を求めて、街を徘徊しておりました。


 ある日、激しい感情の衝突がありました。


 悪人の感情の塊は、誰かの心をぶち抜きました。

 悪人は、自分の悪意が人を殺せる事に気が付きました。


 悪人は、自分の悪意でたくさんの人を殺しました。


 やがて、周りに誰もいなくなったので、殺せる誰かを求めて徘徊するようになりました。


 悪人が消えた町には、悪人がいたという伝説が生まれました。

 悪人がいたという伝説を胸に、街に住む人たちは穏やかに暮らすようになりました。



 ある国で、善人が愛を撒き散らしておりました。

 ああしてあげないと、こうしてあげないと…、思い込みを押し付けて、陽気に過ごしておりました。


 自分の感情を撒き散らすのは、とても心地の良いことでした。

 毎日感情の的を求めて、街を徘徊しておりました。


 ある日、激しい感情の衝突がありました。


 善人の感情の塊は、誰かの心をぶち抜きました。

 善人は、自分の善意が人を救える事に気が付きました。


 善人は、自分の善意でたくさんの人を救いました。


 やがて、助けて欲しい人に囲まれて身動きができなくなったので、救いを求める人を探して徘徊するようになりました。


 善人が消えた町には、善人がいたという伝説が生まれました。

 善人がいたという伝説を胸に、街に住む人たちは穏やかに暮らすようになりました。



 ある国で、普通の人たちがおとなしく暮らしておりました。

 こうしてやる…、ざまあみろ…、憎しみを叩きつけられて、過ごしておりました。

 こうしてあげる、これが良いよ…、思い込みを押し付けられて、過ごしておりました。


 ああしたい…こうしたい…、望みを飲み込んで静かに過ごしておりました。


 誰かに感情を撒き散らされるのは、とても心地の悪いことでした。

 毎日誰かの感情を受け止めながら、あてもなく街を徘徊しておりました。


 ある日、激しい感情の衝突がありました。


 悪人と善人が出会って、お互いの心をぶち抜いたのです。


 悪人は、自分の悪意が善人を殺せない事に気が付きました。

 善人は、自分の善意が悪人を救えない事に気が付きました。


 普通の人たちは、黙って見ていました。


 悪人は、自分の悪意がしぼんでしまった事に気が付きました。

 善人は、自分の善意がしぼんでしまった事に気が付きました。


 普通の人たちは、黙って見ていました。


 何人もの人を殺してきた悪人は、ただの人になって普通の人に混じりました。

 何人もの人を救ってきた善人は、ただの人になって普通の人に混じりました。


 普通の人たちが暮らす街に、普通の人が2人増えました。


 普通の人たちは、何事もなかったように、いつもの暮らしに戻りました。


 どんな人も、いつかはただの人になるという伝説が生まれました。


 いろんな人がいるという当たり前の事を胸に、街に住む人たちはみな、穏やかに暮らしているそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとも言えません。普通ならもっと賞賛する言葉が出てくるのですが、この作品の素晴らしさをどう表現していいのか自分でも分かりません。作品の内容が抽象化されているように、私の考えも抽象的でつか…
[一言] いや、まぁ、分からぬでもないですw  寓話と言うか、「大人の童話」と言った読み味でした〜♪
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