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誰がゴングを鳴らすのか?〜転生チートVSシワシワネーム、ファイッ

ツイッターでちょっと思いついたネタでいきました。

※名前につきまして、不快に思う方がいらっしゃいましたらお詫びいたします。

 

「あなたを呪ってやりますわ、グランモルト・ロマンサー!わたくしを捨てたことを一生後悔なさい!!」


「ハッ!やれるもんならやってみろ!英雄の子孫たるこの俺に、お前のチャチな呪いなんか効くわけねえけどな!!」


 ……王国随一の権力を誇るオーランド公爵家のティーサロンで、一組のカップルが破局した。


 方やエリスベル・オーランド公爵令嬢。

 オーランド公爵のひとり娘で、婿を取って爵位を継ぐ予定だった16歳。


 方やグランモルト・ロマンサー侯爵令息。

 建国の英雄の血を継ぐロマンサー侯爵家の三男で、オーランド公爵家に婿に入る予定だった17歳。


 ふたりは幼なじみで政略的な婚約者同士であったが、ある日のお茶会で突然、グランモルトが素っ頓狂なことを言い出した。


「この世界は前世でやったゲーム《熾天使セラヒムは暗闇に嗤う》の世界だったんだ!俺は攻略対象のひとりに転生したんだ、ぜってぇヒロインに選ばれてみせる!」


 ……聞かされたエリスベルは、ポカーンとするしかなかった。


「は?何なのですかその話は?それにその言葉使い……突然どうされましたの??」


 戸惑うエリスベルの前で、グランモルトはひとりで盛り上がっている。


「まあそんなわけなんでな!エリスベル、悪役令嬢のお前とは結婚できない!俺は可愛い可愛い聖女のヒロインちゃんと結ばれて、聖騎士になるんだ。俺との婚約は破棄ってことで、よろしく頼むわ!」


 満面の笑顔で言い放つグランモルト。

 エリスベルは自分の顔色が変わるのがわかった。屈辱と怒りでだ。


「……はあああ?!何を言い出しておられますの、このスットコドッコイ!!なにが悪役令嬢ですか!!わたくしをバカにしてますの?!」


 ―――こうして婚約破棄のゴングが鳴り響き、冒頭のやり取りに繋がったのである。


「フフフ……愚かなる元婚約者め、我がオーランド家に伝わる呪いの力を思い知れ……!」


 エリスベルは、妖しく輝く魔法陣を前につぶやいた。


 ちなみに婚約破棄については、両家で話し合った結果、破棄ではなく解消になった。


 本来ならば爵位も低く、わけのわからないことを言い出して一方的に破棄を迫ったロマンサー侯爵家側が有責なはずだった。

 しかし、もともとこの縁談は財政的な問題でオーランド公爵家側から申入れたものであり、すでに両家の間で事業協賛金のやりとりがあったため、その分を慰謝料替わりとして手打ちとなった。


 それに納得いかなかったのはエリスベルである。


 彼女はおおいに憤慨し、宣言通り、祖母から教わった恐ろしい呪いをグランモルトにかけることにした。


「グランモルト・ロマンサー!このわたくしを侮辱した報いを受けるがいいわ……!」


 全ての呪文の詠唱を終えたエリスベルが命じると、魔法陣の光は増し、やがて空中に散華した。


 果たして、その呪いの効果とは―――


 ◆◆◆◆


「ヨシ!悪役令嬢との婚約もなくなったし、俺だけがフリーの状態でヒロインと会えるぞ!」


 無事?婚約解消になったあと、両親からコテンパンに説教されても、グランモルトはどこ吹く風だった。


 彼は今王立貴族学校の一年生だが、婿に入る先がなければ、卒業と同時に平民落ちすることになる。


 しかし、グランモルトの脳内には危機感などまったくなかった。


「ヒロインと結ばれれば、国から聖女の伴侶として『聖騎士(パラディン)』に任命される。そうすりゃ一生食うに困らねえし、ヒロインとイチャイチャし放題だぜぇ……!」


 夕食後にベッドに入り、グランモルトはグヘヘと下卑た笑いを漏らした。


 彼が前世の記憶を取り戻したのは、自分のクラスに編入生が入ってくることを友人づてに聞いた、その瞬間だった。


 目まぐるしく前世の記憶が脳裏に蘇り、今の自分が乙女ゲー《熾天使(セラヒム)は暗闇に嗤う》、通称『してクラ』の攻略対象として転生していることに気付くまで、そうかからなかった。


「異世界転生キターー!!しかも大好きな神絵師がキャラデのゲームの攻略対象とか、転生ガチャ大当たりじゃねえか!!」


 思わず快哉を上げる。

 ゲーマーだった前世の彼は、絵さえ可愛ければ乙女ゲーだって手を出した。特にこのゲームは、ヒロインが好みどストライクすぎてたまらんかったやつだ。


「孤児だったヒロインが聖なる力に目覚めて、魔法学園に中途編入してくるんだよなあ……攻略対象は王子とか宰相の息子とかだけど、他のヤローはみんな婚約者(ライバル)持ちだ。俺のルートの悪役令嬢(エリスベル)は排除済みだし、英雄の子孫たるイケメン騎士候補生の俺が言い寄れば、オチねえオンナはいねえ!」


 グランモルトは己の勝利を確信し、握った拳を天にかざした。


 ゲーム内では、聖女たるヒロインと、彼女が選んだ聖騎士の力により、悪しき魔王軍は壊滅し、世界は救われる。

 大団円のあとに待っているのは、『ふたりは末永く幸せに暮らしました』というエンディングだ。


「うひひっ、異世界転生バンザイだぜ!!魔物なんざ転生チートでコテンパンにしてやんよ……!アレだな、こりゃタイトルは『勝ち組人生ゴチになりまぁす!〜美少女ヒロインは俺の嫁〜』とかに変えないとダメだなあ!あ〜、嫁に会うのが楽しみ楽しみ、グワッハハハハハ!!」


 薔薇色の未来を想像し、ご満悦で高笑いをするグランモルトに、寝室の側で控えていた使用人たちは顔をしかめた。


「やだ、またグラン坊ちゃまがベッドで笑ってるわ……」


「ほんとにどうしちゃったのかしらね、前は品行方正な騎士候補生様だったのに……」


「旦那様と奥様はもう匙を投げたみたいよ……遠征に出てる跡継ぎ(エリオット)様が帰られたら、グラン坊ちゃま、お屋敷から追い出されちゃうかも……」


 使用人たちはこそこそと話した。


 そんな自分のビミョーな立場も、元婚約者のエリスベルの怨嗟も知ることなく、グランモルトはのんきに高いびきを上げるのだった。


 ◆◆◆◆◆


「こんにちは、ノブヨ・レーベリーと申します。皆さま、どうぞ仲良くしてくださいね!」


 その日、グランモルトの通う魔法学院のクラスに、編入生が来た。


「うっわあ……すごい美少女だな!良かったなグラン、お前聖騎士目指すとか騒いでたじゃん、婚約なくなったんだし遠慮なくアタックして……え?おい、グラン?」


 先生に注意されないよう小声でグランモルトに話しかけた隣の席の友人は、グランモルトの様子に驚愕した。


 彼は―――グランモルトは、机に突っ伏していた。

 ぶるぶると体が震え、何やらブツブツと呟いている。


「……ぇが……ッ……」


「ど、どうしたグラン、具合い悪いのか?」


 友人が心配して声をかけるも、反応は鈍い。


「……名前が……ヒロインの名前がっ……前世の俺の、ばあちゃんの名前ぇ……ッ!」


 グランモルトは泣いていた。


 脳内には懐かしの祖母・島本(しまもと)のぶ()さん享年98歳との思い出が走馬灯のように蘇る。

 ばあちゃんっ子だった前世の彼は、『しょうらいはのぶよばあちゃんとけっこんするー』なんて宣言して、家族から微笑ましく見守られたものだ。


(確かにそんなこと言ったけどさ……よりによって、なんでその名前なんだよぉ……!)


 確かにヒロインにデフォルト名は設定されてなかった。だから、どんな名前でも仕方ない。仕方ないのだが。


(ダメだ、どうしてものぶよばあちゃんの顔が浮かんでしまう……)


 グランモルトはなんとかヒロインとの仲を深めようと接触を図ったが、途中で心が折れてしまった。


 特に、清掃の時間にヒロインがぞうきんを絞る仕草にバブみならぬババみを感じてしまい、もうダメだった。

 外見は彼が一目惚れしたキャラデそのものの美少女だったのに……。


 結局、グランモルトがまごまごしている(孫だけにw)うちにヒロインは王子とフラグを立ててしまい、とっとと未来の王子妃となった。


 いわゆる王子妃ルートである。


 当然、聖騎士の称号は王子のものとなり、グランモルトの将来設計は音を立てて崩れ去った。


(は?嘘だろ、攻略失敗とか……俺はこれからどうしたら……?)


 グランモルトが途方に暮れていた頃、遠征に出ていたロマンサー侯爵家長男・エリオットが帰宅した。


 エリオットは英雄の子孫の名に恥じることなく武勇に長け、若くして国立魔王討伐軍の副将軍を務めていた。

 今回も魔物の出現の報を聞き、数ヶ月に渡る遠征に出ていたのだが、彼は領地に戻るや、くだらない妄想で婚約を解消したグランモルトに怒りの雷を落とした。

 それから間もなく、父母の同意のもとに、グランモルトは屋敷から叩き出されてしまったのだ。


(ひどいや父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんまで……。なんで?どうしてこうなった……?!)


 グランモルトは頭を抱えた。


 幸い、転生チートがあったため、なんとかギルドに登録し、冒険者として身を立てることができた。


 しかし、どうしても「可愛いなぁ、お付き合いしたいなぁ」と思った女性とは、うまくいくことはなかった。


「名前ですか?キクヱ・タヒェリと申します」


「あああああ小学生のとき世話になったおばあちゃん校長先生の名前ぇぇぇ」


「タマミ・ホグエイです」


「友だちのとこのいつも美味しい羊羹くれるばあちゃんの名前ぇぇぇ」


「サダコ・カヤーコですわ」


「きっと来るぅ、やばいもんとやばいもんが合体しちゃってるうう」


「ピンコ・スガコ・ハッピーイージーだよっ☆」


「ああああもうダメだあああああ」


 ……なんと、気になる女性の名前が全て、前世で関わりのあったばあちゃん(?)と被るという悲運に見舞われたグランモルト。


 前世でのシワシワネームも、この世界ではふつうにあるタイプだったため、彼がいかに嘆こうとも、周囲の理解を得られなかった。

 結果、誰ともいい感じになれないまま、彼は孤立していく。


 ……そう、これこそが、オーランド公爵家に伝わる恐るべき呪い……『好きになる女の名前が全部シワシワネームになる』という呪いだったのである……!!

(なんかシワシワネーム以外も混ざってるけど)


 ちなみにこの呪いは、口伝によるとオーランド公爵家初代当主の聖女が編み出したもので、「ある日突然婚約者が『アクヤクレイジョウガー』とか『イセカイテンセイガー』とか『ギャクハーガーチーレムガー』とか言い出した時にかけると効果的」となっている。

 他にも「好きになる女の声が全部ニンジャハットリクンになる呪い」などがあるらしい。とても恐ろしいでござる、ニンニン。


◆◆◆◆◆


 ………それからしばらく経って。


 聖騎士に任命された王子と聖女のヒロインが率いる討伐パーティーが、見事魔王を討ち果たしたとの報告が王都にもたらされた頃。


「すまん、俺が悪かった……もう俺が結婚できそうな(名前の)女性は、君しかいないんだ……頼む!婚約を結び直してくれぇぇ!!」


「あらあらあらあら、オーホッホッホッ!!どの口が言うのかしら?!愚かなる元婚約者さま、おとといいらしてくださるかしらぁ!?オーホッホッホッホッ!!」


 ………かつて婚約破棄のゴングが鳴ったティーサロンで、楽しげに高笑いを上げる公爵令嬢と、その膝元に土下座する元侯爵令息(貴族籍剥奪済)の姿があったという。


 そのあと、ふたりがどうなったかって?


 はてさて、再婚約の(ゴング)が鳴り響くことがあったかどうかは、お釈迦さまでもご存知あるめえ!




 完

読了いただきましてありがとうございました!

最初恋愛カテゴリでアップしましたが、読み直してみてやっぱりコメディ寄りだなと思ったので、ジャンル移動しました…。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず・・・転生がなんの利点にもなってないという点でタイトルの転生チートは誤りなのではと愚考いたしますがいかがでしょうか?
[一言] 声が忍者ハットリくんになる呪いはつらいなあ。 せめてチンプイなら(中の人は同じ)。
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