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#000 プロローグ 幼き日の記憶

【無能な働き者と魔女】は日常と非日常(バトルあり)が入り混じるお話です。

興味があればご一読下さい。


作品がよかったと思いましたら評価お願いします。続きを書くやる気が出ます。

コメントや感想も頂ければ嬉しいです。

「雨は明日まで降るのか」

 渋谷スクランブル交差点前に信号待ちをしている一組の家族がいた。

 男性はビルに備え付けられた目の前の大きなビジョンに目を向ける。

 リアルタイムに配信されるニュースや天気予報、広告が流れるそのビジョンに映されていた天気予報を見て憂鬱になっていた。

 時刻は18時過ぎ、本来なら暗闇が街を支配するはずだが、建物のライトや色鮮やかな看板のネオン・車のライトなどにより、街は昼間と変わらない程の明るさを保っている。

 家族の周りには多くの若者や、観光で来たであろう大きなキャリーバックを引きながら歩く外国人・夜の仕事に向う人・ただただ目的もなく歩いている人・仲間同士で集まって騒いでいる者など、様々な人達が集まり、渋谷はいつもと変わらず活気づいている。

「パパ機嫌悪いの?」

 小さな娘は問いかける。

 その言葉を聞いた男性は、表情に出ていたかと慌てながら柔らかい表情へと変えていく。

 娘の名前は[花咲 千春](はなさき ちはる)小学2年生になったばかりの可愛らしい女の子。

 男性は千春の父親で母親を含め3人家族だ。千春は小さな傘を差し、小さな長靴を履いている。

 傘を持っていないもう片方の小さな手は、父親の大きな手を握っていた。

「今日は千春の誕生日だから嬉しいんだよ。な、ママ?」

 父親は娘の反対側に立っている妻に話を振る。突然の振りに驚くも「そうよ」と娘の顔を見ながらにこやかに答えた。

 二人の言葉を聞いた千春は安心したのか、嬉しそうに信号が青になるのを大人しく待っている。

 しかし、千春の周りにいる人達の楽しげに話をしている姿に、千春も気になるのか周りをキョロキョロと見回す。

 外人も多く、日本語以外の様々な言葉が飛び交い、興味をそそられる。

 言葉を理解することは出来ないが、聞きなれない言葉を耳にし、首をかしげる。千春はどんな話をしているんだろう?と想像を膨らます。

 そんな千春は自分の事を見る誰かの視線を感じた。

 視線の先に顔を向けると、目に映ったのは、スクランブル交差点の中心で、空に浮かぶ人ではない何かを目撃する。

 腰くらいまである長い金色の髪、全身白い服を着た人の様に見えるが、顔にあるはずの目や鼻、口がなく妖怪野箆坊(のっぺらぼう)の様な姿だった。

 人では無い何かの周りには、ノイズが走っているかのように、目に映る映像が断片的にザザザと揺れ動いている。

 千春は今までに見た事のない姿を見て、どう理解していいのか解らなかった。

「千春どうしたの?」

 母親は千春が何かに困っているのか、それともこの人だかりに不安がっているのかと思い問いかける。しかし返って来た言葉は回答ではなく質問だった。

「あのねママ、道路の真ん中に誰かいるの」

 千春はあそこだよと指を指す。

「え、交差点の周りには誰もいないわよ?」

「あれ~?いなくなっちゃった」

 千春はもう一度同じ場所を見ると姿は消えていた。不思議がる千春を見た父親は、千春にいたずらをしようかと考えた。

「ここで亡くなった人のお化けかもよ~」と、千春を怖がらせ様とする父親。その言葉を聞いた千春は身震いし、母親に抱き着く。

「この子たまに怖いことを言うのよ」

「ハハハ、子供の時なんてそんなもんだ」

「ママ、今日はどこ行くの?」

 千春は恐怖を和らげるかの様に、母親にこれから向かう目的の場所がどこなのかを問いかける。

 母親はすぐさま頭を切り替えゆっくりと答えた。

「今日は千春がまだ行ったことのないご飯の美味しいお店に行くのよ。そのお店には千春の大好きなハンバーグがあるの。何種類ものソースがあって食べ比べが出来るよ」

 母親は嬉しそうに千春の問いに答える。

 千春はその答えを聞いた瞬間、目を輝かせた。周りの視線なんて気にも留めず、小さな腕を勢いよく空に突き上げ、「やったー!」と声にならない万歳をする。

 その喜びは、小さな体のすべてからあふれ出しているようだった。

 二人の親はその光景を見て自分の事の様に笑顔になる。

 他人から見ても、羨ましくなる程に千春の家族はとても幸せそうだった。

 そんなたわいのない話をしていると信号が青になりスクランブル交差点の中心に向かって多くの人々が歩き始める。


 * * *


 ハァハァと息が荒くなりながらも、ビルとビルの隙間や、狭い路地裏を駆け抜ける一人の成人女性がいた。

 服装や見た目はいたって普通の女性となんら変わらない。

 だがその後ろには、漆黒のローブに身を包んだ者達が彼女を追っていた。

 彼女は追ってから何かを守るかのように、懐に隠した大切なものをぎゅっと抱え、全力で疾走していた。

 足元の水たまりを避ける事無く踏みつけるたび、激しい水しぶきが音を立てて周囲に散る。

 冷たい雨に打たれながらも障害物を縫うように彼女は逃げる。

 身体には、擦り傷や切り傷が無数に走り、血がじわりと滲み出していた。

 痛みは彼女を苛み、息をするたびにその苦しみが心に鋭く突き刺さる。

 それでも、徐々に距離が縮まる感覚、を背後から強く感じながら、無我夢中で目的もなく、裏路地を右へ左へと敵を撒く様に道なき道を突き進む。

 途中ゴミ箱に当たりゴミを撒き散らかしながらも、彼女は立ち止まることなく、追手を巻くように逃げ回った。

 とうとう細い裏路地が途切れ、大通りへと飛び出してしまった。

 周りを見ると人、人、人だらけ。不味いなと心の中でそう呟きながらも、立ち止まっている余裕はなく、追っ手から逃げるために人混みをかき分けながら再び走り始める。

 しかし、混雑した大通りでは避けきれないこともあり、時折通行人と肩がぶつかる。

 「おい、あぶねーじゃねーか、まてやコラー」

 そんな罵声が背後から飛んできても、彼女は一切振り返らない。

 ただ懐に抱えた大切なものを守るために、ひたすら前へと進んでいく。

 やがて、背後の気配が薄れていることに気づいた彼女は、恐る恐る後ろを振り返ってみる。

 ――追っ手の姿はどこにもなかった。

 胸を圧迫していた緊張が一瞬だけ緩む。

「ハァハァ、ま、巻けたのかな?。なら今のうちに距離を稼がないと」

 彼女は疲れた体にムチを打ちながら、また人がいないビルの裏路地へと入っていく。

「ちょっとだけ休憩」と言いながら、ビルの物陰に隠れ、壁に寄りかかり疲れた体を少しだけ休める。

 そんな彼女の姿を、ビルの屋上から冷ややかに見下ろしている黒ずくめ達は、彼女が人気のない路地へと足を踏み入れたのを確認すると、その場の空気がわずかに変わった。

 彼らは互いに目を合わせるだけで意思を伝え合い、次の行動に移る準備を整える。その短いアイコンタクトの後、全員が一斉に首を縦に振った。

 無駄な声も、余計な動きもない。

 長い間培った訓練による完璧な連携で、黒ずくめの一団は静かに、しかし確実に行動を開始した。

 彼女がまだ気づいていないことを確信しながら、影のように忍び寄る準備を整えていく。

 まだ狙われているとも知らない彼女は、無我夢中に走っていた為、息が上がり、足元がふらつく中で、ポケットからスマホを取り出した。

 小さな手が震えながらも、今自分がどこに居るのか確認する為に、電源を入れすぐ様、画面をスワイプし、地図アプリを起動した。

 スクロールして、地図上で自分の現在地を確認する。

 その目は焦りと疲れが入り混じっているが、素早く指で画面を指し示しながら周囲の環境を探る。

「ここは渋谷、駅が近い!。人の多い方がアイツらも手が出しづらいだろうし、……危険だけど電車使ったほうが良いかも」

 彼女はこのまま逃げ切り、目的の場所へ向かうための作戦を考える。

 その間に、焦る気持ちを抑えながら息を整え、落ち着かせていく。

 彼女は震える片手を胸に当て、荒く鼓動する心臓の鼓動を感じ取った。

 彼女は息を大きく吸い、フゥと深いため息を吐き出す。

「――落ち着いて、大丈夫」

 狭い裏路地の隅に身を潜めながら、彼女はゆっくりと身を乗り出し、慎重に大通りの様子を窺う。

 顔をほんの少しだけ覗かせ、その視線を通りの向こうへと向けた――その時だった。

「鬼ごっこは終わりかな?」

 彼女は突然背後から人の声が聞こえ、ゾクッとした悪寒が体を巡り、鼓動が一気に早まる。

 驚きと不安が入り混じるなか、反射的に振り返ったその先には漆黒のローブに身を包んだ者達が立ちふさがっていた。

 彼らの姿は闇に溶け込むように不気味で、まるで地面から生えてきたかのように現れている。

 無言のまま彼女をじっと見つめる彼らの気配は、逃げ場のない絶望感を彼女に突きつけていた。

 懐に隠し持つ大切なものを守るように、彼女の手が思わず強く握りしめられる。

「魔女ともあろう御方が、魔法も使わないとは。我々も舐められたものですね。それとも魔法が使えないのでしょうか?」

「魔女狩りどもめ、ストーカーのようにしつこく追ってきやがって。ローブで隠してもバレバレだよ」

「女性としての言葉使いがなっていませんね。この格好をしているのは、あなたに正体を隠すためではない。魔女の魔法から身を守る為の物。貴女の組織には怖い魔女が多いですからね」

 彼女は魔女狩りに対し、声を荒立てながら自身の恐怖心をかき消す。

 恐怖を感じる事は闘いに置いて必要なことだが、度を過ぎれば体が動かなくなり足かせになってしまう。

 魔女狩りに捕まればどんな目に合うのか痛いほど知っている。

 だからこそ魔女狩りは魔女にとって”恐怖の象徴”でもある。

 警察?――そんなものに頼れるわけがない。来たとしても魔女狩りにやられるだけだ。

 だからこそ、彼女に選択肢はない。それに仲間に迷惑はかけられない。

 逃げるか、一人で抗うか。そのどちらかしかない現実が、冷たくのしかかる。

 彼女は今の状況が不味いと感じ、すぐにでもその場から大通りへ逃げ出そうと足を動かした。

 しかし、すでに遅すぎた。

 魔女狩り達の一人が魔法を使ったのかと感じる程素早く、彼女との距離を一瞬で詰め手を伸ばす。

 彼女が振り返った瞬間、左手一本で彼女の首を掴んだ。

 その衝撃で、彼女の両足が完全に地面を離れ、空中に浮かぶ。

 首にかかる圧迫感がすぐに息を詰まらせ、目の前が暗くなりかけた。

 呼吸ができない、その恐怖が彼女の体を硬直させ、心臓の鼓動がさらに速く響く。

「さあ、尋問を始めましょうか」


 * * *


 千春は道路に貯まった水たまりを見つける度に飛び込む。

 溜まった水は上から大きな衝撃を受ける。

 逃げ場を失った水は周辺にはじける音と共に飛び散った。その行動を行う度に母親は「止めなさい」と伝えるも、「楽しいんだもん」と答え、止める素振りをしない。

 長靴を履いている為に濡れることはないが、困った子ねと想う反面、母親の母性本能と言うべきか子供の行動1つ取っても、可愛いと思えてしまう。

 その結果、それ以上怒る事もなく自由にさせてしまっている。

 千春達は109を通り越し道玄坂の奥へと向かって歩いて行くと、道路を挟んだ左右には様々なお店が立ち並び、飲食店からは美味しい匂いが立ち昇る。

 それに、音楽やネオンの光、人々の話声、車の音、様々な刺激が五感を刺激していく。

 その光景に慣れていない千春は新しい刺激にワクワクが止まらず顔を上下左右に動かし、目に入る物全てに興味を抱く。

「ママ、これなんて読むの?」

「これはねUNIQLO(ユニクロ)って読むのよ」

「へー、何屋さん?」

「服屋さん」

「じゃあ、これはー?」

 千春はまだ全ての漢字や英語が読めない為、気になった看板や文字、知らないものがあればすぐ母親に質問を投げていく。

 そんなやり取りをしながら歩いているとしぶや百軒店(しぶやひゃっけんだな)と書かれた看板が目に入る。

 家族は躊躇なくその看板の方へと吸い込まれるように細い路地に入っていく。車が1台しか通れない程の狭い道だが夜と言う事もあり、人でごった返していた。

「ママ、あの人達なんで首に看板を掛けているの?」

「あーあれは、パフォーマンスの一環よ」

「ただ、立ってるだけなのに?」

「そう、今それが流行ってるのよ」

 母親は看板の内容を目にし、答えに困る。

 苦し紛れな答えを千春に伝えると、少しでも早くその場から距離を取る様に早歩きになる。そのスピードに置いていかれた父親は手を引っ張られる事で気が付いた。

 「ママ歩くの早くない?」

 「そんな物見てないで早くお店に行くわよ、予約時間過ぎちゃう」

 父親の行動に少しイライラしつつも、目的の店へと歩みを進めていく。

 二人のやり取りが理解できない千春は頭の中でグルグルと考えを巡らすも結局は分からず諦める。

 それよりも予約時間が過ぎるという母親の言葉に気が向き、ハンバーグの事を思い出す。

 母親のスピードに合わせる様に少し小走りになりながら目的地へと進んでいく。

 だが、千春は何か違和感を感じてその場でピタリと歩みを止めた。

 千春はビルとビルの間に目を向けると黒いローブを被った人と女性の姿を見た。

 裏路地は薄暗く見えずらいが争っているようにも見えた。千春はイヤな感覚を覚え、後ろから追いかけてきた父親に声をかける。

「あ、パパあのね、あそこで誰か喧嘩してるみたいだから助けてあげて」

 千春はお願いと父親に伝える。娘のお願いを断れるはずもなく指差す細い裏路地を覗いてみる。

「誰もいないよ?本当に誰かいたの?」

 裏路地以外の場所や、辺りを見回しても喧嘩をしている人は見つからない。なら裏路地に入って確認しようかとも思ったが、薄暗い場所に入るのは少し抵抗がある。

 迷った末、今回は裏路地には足を踏み入れず外側だけに留めた。

「あれー、誰かいたんだけどなー」

 同じ場所を千春が見ても誰もそこにはなかった。

 街の中を歩いている他の人々の振る舞いからも、争いが起きている感じが全くなく平和そのものだった。

 千春は首をかしげるが母親の呼び掛けに答えるかのように走って向かった。

 普段と異なる光景を目にした千春は、体の奥底から沸き上がる謎の不安に襲われる。不安を払拭し、安心を得るために追いつき様、母親の手に抱きつく。

「千春どうしたの?強く抱きついたら痛いよ」

 ニシシと笑い誤魔化す千春は父親の手も握り二人の間に囲まれ安心するが、突然携帯電話の着信音が鳴り響く。

 父親はポケットからスマホを取り出し電話に出る。

 話の内容から会社からの着信で、業務についてのようだった。

 父親は話ながら二人にゴメンとジェスチャーしながら千春の手を放し、少し離れた場所へと移動した。二人は父親の通話が終わるまでその場で待つことにした。

 千春の周りでは、相変わらず人が多くサイレンの音や大きい声で叫ぶ人、仲間同士で盛り上がってる人、お店から漂う美味しそうな匂い。

 千春はお腹をグーと鳴らし「早くご飯食べたいなー」と考えている。それを見透かされたのか母親は千春に提案をする。

「予約時間遅れちゃうから先に行ってようか?」

 母親は千春にそう告げると、父親に向って"先に行っているよ"とジェスチャーを送る。ジェスチャーを見た父親も通話しながら"OK"を出した。

 母親はそれを見るや千春の手を引き先に進んでいく。

 父親と少し離れた辺りで、突然落雷が落ちたと分かるほどの大きな衝撃が走った。

 雷特有の閃光やゴロゴロと鳴り響く音がなく身構える暇もないまま発生した。

 とても大きな音とバリバリと電気が走るかのような音に、何かが爆発する音が背後から同時に聞こえ、母親と千春はすぐさま後ろを確認する。

 爆発があったであろう場所は、先程まで二人がいた場所だった。周辺一帯細かい粉塵が舞い、視界を遮る。

 辺りにいた人達は混乱し、その場所から逃げ回る人や、粉じんを吸って咳をしている人が大勢発生した。

 粉塵が視界を遮ったことで、父親の安尾が分からない。その場から父親がいる方向へ声を掛けても返答がない。

 母親は不安に駆られ粉塵の中へと走っていこうとする。

 しかし千春が全身を使って向かうのを全力で止めた。

「ママ、行っちゃ危ないよ」

 その言葉を聞いた母親は千春の不安そうな顔を見て冷静さを取り戻した。

 だが、周りでは「救急車を呼べー」とか、「助けてー」「息苦しい」「友だちが爆発に巻き込まれたんだ」などパニックが依然続いている。

 少し離れた所では、救助もせずスマホで録画している者たちが大勢いた。

 千春はその光景を見て、言いようのない寒気を覚えた。

 先程の活気ある風景は一瞬で消し去られ、恐怖と非日常的な現実が彼女を包み込んだ。

 その瞬間、何もかもが歪み、時間が止まったように感じられる。

 その時、突然、道沿いの店が爆発したかのような凄まじい音が響き、ショーウィンドウのガラスが割れ、鋭い破片が空中を舞い、道路側に飛び散った。

 母親は瞬時に千春を抱きしめ、覆いかぶさるようにして守ろうとした。ガラスの破片が千春の周りを切り裂き、すぐ横を大きな物体が猛烈なスピードで通り過ぎていく。

 千春はその衝撃を感じながらも、恐怖に引き寄せられるようにゆっくりと後ろを振り返った。

 目にしたのは、全身を黒い服とローブで覆った一人の人物が吹き飛ばされて地面に倒れている姿だった。

 その人が倒れた場所からは、赤く鮮やかな血のようなものが流れ出て、地面を染めていく。千春はその光景に息を呑み、体が動けなくなった。


 * * *


「やってくれましたね」

 魔女狩りの男が低い声で言いながら近づく。彼の言葉には冷たさと底知れぬ悪意が滲んでいる。

「私に触れないでよね。あなたもこうなるわよ」

 彼女は目の前の光景に怒りを込め、再び魔力を集中させた。

 最初の雷魔法が放たれ、5人いた魔女狩りのうちの2人がその直撃を受け、すぐに地面に倒れ込んだ。

 さらに、風魔法が渦を巻いて飛び交い、1人の魔女狩りがその攻撃を受けた。

 暴風に巻き込まれ、雑居ビルのガラスを何枚も貫通して通りの道路まで吹き飛ばされていった。

 残るはただ一人。

 目の前に立つ最後の魔女狩りだけが、この攻防に未だ倒れず残っていた。

「あなたたちが間抜けで助かったわ。魔法が使えないと勘違いしてくれて」

 しかし、彼の表情には動揺の色がなく、むしろ楽しんでいるかのような気配すらあった。

「まさか地面に落ちていた鉄の棒切れを杖代わりにするとは。いい勉強になった、これからは杖が無くても注意するとしましょう」

 魔女狩りは複数回両手をパチパチと叩き合わせ、拍手する。

 皮肉と余裕に満ちた仕草だった。余裕があるのか、関心したのかはっきりは分からないが、魔女に敬意を見せている。

 彼女は戦いの中で感じ取った、鋭い感覚を頼りに、冷静に対処しようとしたが、この人物が放つ威圧感に、どうしても身構えてしまう自分がいた。

 彼女はじりじりとその場から離れるかのように動きながら敵の隙を探す。

「さて、この状況ではあなたを捕える事は不可能でしょう。しかし、このまま逃がすわけにも行かない。……だが、勉強させて頂いたお礼を兼ねて1つ質問をしましょう。……これから私は、我々の正義に則り、どの様に対応すると思いますか?」

 魔女狩りは静かに、しかし狡猾に尋ねる。

 そのローブの隙間から、不気味に微笑む顔が覗いた。

 男の笑みには、捕食者のような冷徹な獲物への視線が宿っており、勝利への確信、野望、そして執念がその顔に浮かび、まるで彼女が今、その手に収められるべき獲物であるかのようだった。

 彼女の中で最悪の事態が浮かび上がる。

 本来の目的が何なのか、彼女には分からない。この男ならすぐに奪えるはずだ。なのに時間稼ぎのような行動をする。

 この魔女狩りが、彼女の懐に隠している物を狙っているだけではなく、さらに深い、別の目的があるとしたら?。

 今までの戦闘とは違い、彼女が抱える何かを完全に奪い取ろうとしている、この男からは、それが見えているのだ。

(盗んだこの魔導書……取り返されたらすべてが無駄になる)

 彼女の頭の中で、思考が急速に回転する。今、目の前に立つ魔女狩りの男が何を考えているのか、その真の意図を探ろうとするが、考えれば考えるほど、その計画が見えない。

 その場から一刻も早く逃げ出したい衝動が強くなる。

 だが、目の前にいるこの男の背後にある真の目的が何なのかを知る必要が出てきた。

 それを知らなければ、今度はもっと恐ろしい罠が待ち受けているかもしれない。

 そして、その罠に仲間たちがかかることになるかもしれない。

 何年もかけて行われたこの任務、どれだけの物資を消耗し、過去どれだけ人的被害を出したか。彼らの無念を無駄にするわけには行かなかった。

 そして、今の仲間に対しても迷惑をかけるわけには行かない。

 先程使った魔法を見ている筈だ。もしからしたらこっちへ向かって来るかも知れない。

 そして、この状況化も魔女狩りが考えたシナリオ通りであるならば、仲間を危険にさらす。絶対に接触させる訳にはいかなかった。

「あんた……本当の狙いは何?」

 彼女の声には微かな震えが混じっていたが、それでも鋭い眼差しで男を睨みつけた。

 男はその言葉を聞き、さらに微笑みを深くする。

「なにを想像したか分かりかねるが、……我々は貴女が盗んだ魔導書を返して頂きたい、それだけです」

 その場の緊張感が一層高まる。男の微笑みは、不気味さと同時に彼の自信を露わにしていた。

 彼女の目を逃れることなく、まるで彼女の心の中を覗き込むような視線を送る。

「さあ、私の質問にどう答える?」

 男は不敵に微笑み、彼女の返答を待つように静かに立ちはだかる。


 * * *


「時間なのに来ないね。もしかして何かあったか?」

「まさか。……もしかしたら魔女狩りに見つかったかもしれないわよ。あの子ドジっ子だから」

「お姉ちゃんが失敗する訳ないでしょ!。変な事言わないでよ」

 ある人物が来るのを待っている魔女4人は雨の降る中、傘も刺さず六本木ヒルズ屋上のスカイデッキで待機していた。

 本来一般人でも入れるこの場所は、本日天候不順の為、立ち入り禁止となっている。

 3人は特殊な魔法を使っている事もあり、傘も刺さずとも雨に濡れる事は無い。

 3人は手に箒を持ち、黒いとんがり帽子・顔には個性際立つ黒いマスクを付け、刺繍の入った黒いワンピースに黒いローブを羽織っている。

 どこからどう見ても魔女と思える恰好だった。

 だが、ここ日本では、コスプレに対して毛嫌いする者や偏見な目で見たりすることは無く、逆にその人の多様性を尊重したり、他人への思いやりや、他人に干渉したりしない。

 だからこそ分け隔てなくコスプレを楽しむ人達が大勢いる。

 コスプレの恰好をして街を歩いていても違和感はなく、自分の好きなことを表現する事が出来る国、それが日本なのである。その為、3人が魔女の恰好をしていても国民は違和感を抱く事はない。

 ただし"魔女狩り"と言われる者達だけは別だ。どんな格好をしていても魔女を見つけ出し拉致監禁し、拷問を与えると昔から言い伝えられている。

 それは今の時代になったとしても裏では行われている事実である。

 雨と風の音だけが響くスカイデッキの上からもう一人の魔女が街の方を見ていた。

 そんな時、遠方で落雷が落ちる光景を目にする。その後、とても明るいオレンジ色の光が一瞬放った後、空へと黒煙が上がるのを見た。

 遠くで発生した光は爆発の光だと一目で分かり、その爆発は自然現象ではなく、誰かが魔法を放った痕跡だった。

「みんな緊急事態。渋谷付近で魔法が放たれた。近くに魔女狩りがいる可能性あり」

 3人とは別に、この魔女の手には箒の他に、銃で使うような望遠レンズが入っているライフルスコープを手に持ち、爆発のあった方を覗き見ている。

 3人は指差す場所を確認すると、明らかにただの爆発ではなく魔力を使った魔法を行使したと判断出来る痕跡を確認した。

「ほら、やっぱり魔女狩りに見つかってるじゃない」

「う〜」

「そこ、話してないであの子の所に向かうよ。どんな奴がいるか分からないのだから、気を引き締めな」

 最悪の事態を想定した4人はすぐさま箒に跨ると、各々手に持つデカい杖を操り魔法を発動させる。

 青白い魔法陣が地面に展開され、空へ飛び上がる。

 魔女の前方には四角形の青白い透明な枠が3個並ぶように現れた。

 魔女がその枠を通ると一気に加速し、爆発のあった現場へ急ぎ向かっていった。


 * * *

 

 魔女狩りは一歩も動かず、その場に立ちはだかったまま、彼女の返答を静かに待つ。

 彼女は心の中で必死に思考を巡らせる。本当にただ魔導書を取り戻したいだけ? いや、それにしては……。その態度、言葉の選び方、全てが彼の言葉を疑わせる。

(もし私がここで魔導書を渡したら、……ううん、それで済むとは思えない)

 震えを抑えるために息を整え、彼女はゆっくりと唇を開いた。

「それだけ、ね……そんな簡単に信じるとでも思ってる?」

 男の微笑みは崩れず、むしろその目には興味深そうな光が宿る。

 緊迫した空間が二人の間に漂い、互いに視線を交わしながら警戒を解かない。けれども、その均衡を最初に破ったのは魔女狩りの男だった。

 黒いローブに手を当てると口を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。その瞬間ローブを大きく広げながら空中へと投げ飛ばす。

「!」

 予想外の行動に彼女の視線が反射的にローブへと向かう。

 その一瞬、男の姿が彼女の視界から消えた。

「意識を反らしましたね?、正解は混乱ですよ」

 その言葉が耳に届いた瞬間、彼女の心臓が跳ねた。

 魔女狩りは、その一瞬の隙を逃さず、彼女との間合いを詰め背後から耳元に向けて話しかけた。

 彼女は先ほどの失敗はしないと、神経を尖らせ緊張感を持っていた。

 しかし、ほんの一瞬相手から目を離してしまった事で敵を懐に入れてしまった。

 今すぐ距離を取らないと、と思ったが相手の行動に頭が追いついておらず、体は動かない。

 魔女狩りは目にもの速さで彼女の懐に入り込み、耳元で囁いたあと、彼女の首元に、薬液が入った鋭利な針を刺しこんだ。

 彼女は痛みを感じ、ようやく動けるようになった体は、すぐさま魔女狩りから距離を取った。

 どんな攻撃をされたのか分かっておらず、鉄の棒を前に出し、いつでも魔法が打てるように警戒心を強める。

 しかし、体の不調がすぐに現れ、体の力が抜けて行くことが分かる。

 立っていたくても力が入らず、その場に座り込んでしまう。

 その後、全身に悪寒が走り、寒さから体を守る様に両手で自身の体を抱き込む。

「一体、何を……したの?」

 彼女は震える声で問いかけながら、自分の体に起こる異変に必死に耐えようとする。

 全身に力が入らず、視界は次第にぼやけていく。

 寒気が骨の髄まで突き刺さるように感じられ、両腕で自分を抱きしめても何の暖かさも感じない。

 魔女狩りは少し離れた場所で、不気味な微笑みを浮かべて彼女を見下ろした。

「なに少し毒を盛っただけです。さあ、これから楽しいショーが始まりますよ、主役は貴女だ。おっとその前にこの魔導書は返して頂く。君も知っての通り、これは世に出てはいけない物だ。……さてお喋りはここまでとしましょう。怖い魔女が向かって来てるでしょうし、私が逃げる時間を稼いで頂きますよ」

 座り込んだ魔女が忍ばしていた魔道書を懐から奪い取る。

 彼女は抵抗しようとあがらうも力は入らず、簡単に手を弾かれてしまった。

「あ、あなた達、そんな格好……してるけど、階級は上でしょ?」

「ええ、我々は中の上といった所でしょうか。魔女と対峙するのですから、ある程度の戦力は必要です。まあ、私以外全員貴女に殺されましたがね。……はぁ~、貴女の所為でまた一から育てなくてはいけません。ほんと、我々の仕事を増やさないで頂きたい」

「なら、私……たちに手を出さなければいいじゃ……ない」

「断罪の魔女を呼び覚まそうとするお前達の行動を見過ごすわけにはいかないでしょ」

「なに……よそれ?断罪……の魔女。聞いたこともない。私達はただ平穏に……過ごせる場所が欲しい……だけ」

「断罪の魔女……それが何なのかも知らずに、……お前たちは安穏とした生活を夢見ていたと言うのか⁉。愚かだ……愚かすぎる!。お前達魔女が、過去何をしたか知らんとは言わせんぞ。歴史の変遷をたどればいつも影にお前達魔女がいた。どれだけ歴史を変え、人々を操った。どれだけの人々を不幸にした、我々は貴様たちを許さない。あの存在を目覚めさせる訳にはいかない。全ての魔女を殺すまでこの戦いは続く。……どれだけの犠牲を出したとしてもお前達を処刑台に送る為にな」

 彼女は一瞬、息を飲んだ。これまでの彼の表情が急に別人のように変わり、背筋を凍らせる程の冷酷さが漂っていた。

「熱くなってしまいまいましたね。そろそろ時間です、思う存分私のためにあがいてください」

 魔女狩りは、腕に着けていた腕時計の針を見た後、裏路地を逃げ道として使い、その場から離脱していく。

 裏道に一人残された彼女は、どんどんと容体が悪化していくのが理解できた。

 鼓動が高くなり体が急激に熱くなっていく事が分かった。

 呼吸も荒くなり顔色は青白くなっていく。解毒する方法が分からない為に、なすすべがなかった。

 

 * * *


 千春と母親は、粉塵が晴れた後もどこか茫然としている。周りの騒音や人々の叫び声がぼんやりと耳に届く。

 二人は父親がいたであろう場所を探し始める。

 千春の周りでは他人同士が手を合わせ、要救助者に手を貸したり捜索を始めたりしていた。

 千春の目は必死に焦点を定めようとするが、内心は恐怖と不安で引き裂かれ、目の奥に揺らめく涙が今にも溢れそうだった。

 遠くからはサイレンの音が多く鳴り響き、近づいている事が分かる。

 誰かが通報し、こちらに向かっているのだろう。

 そんな時、少し離れた場所でようやく倒れている父親を母親が見つけた。

 一目散に近寄り容体を確認するが父親の意識はなく、ガラスの破片が多く刺さり出血している状態だった。

 すぐにでも病院へ運ばないと命に係わると考えるが、あちこちで同じように怪我をしている人が多く、一度に運べないと想像がつく。

 混沌とした状況と、誰かの助けを求められない状況化に母親はパニックになりつつあった。

 千春の心の中に絶望が押し寄せる。

 全身が強ばり、声を出すこともできず、ただ母の後ろで震えている彼女の小さな手は、父の無事を祈りながら固く握られている。

 そんな時、聞いた事も無い雄たけびが聞こえた。

 突然の叫び声に人々は見えない何かに恐怖し、パニックが起こる。

 しかし、母親は目の前の事しか考える暇がない。

 だが千春だけは、この声を聴いて耳を塞ぎ、その場でしゃがみこんでしまう。ビリビリとした嫌な空気を感じ恐怖する。

 そんな時、突然複数の雑居ビルが居合切りの様にスパッと切断されたのだ。

 切断された多くのビルは、バランスが崩れ地上へと降り注ぐ。

 大きな音と共に、避ける間もなくビルは地面に落下し瓦礫とかした。

 建物の外壁はただのコンクリート片と化し、千春の親子を飲み込んだ。

 人々は逃げる暇もなく、悲鳴と共に瓦礫に押しつぶされて行く。

 ――少しして千春は目を覚ました。

 地面に仰向け状態で倒れており、意識はあるものの体が動かない。意識は朦朧とており、自分の置かれた状況の理解が出来ずにいた。

 次第に自分の体の上に重たい何かが覆いかぶさている事に気が付く。体を左右に動かしても抜け出せそうにない。

 時間が経つにつれ、視界がゆっくりと戻り始めると、その物体がなにか見えるようになる。

「マ、ママ」

 千春の上には瓦礫から我が子を守ろうと咄嗟に抱き着いていた母親がいたのだ。

 千春が声を掛けても母親は応えてくれない。体を揺さぶっても反応がない。

 千春は手に粘り気がある液体に触れた感覚があった。

 その手を自身の顔の前に持っていくと、手にはべっとりと赤い血が付いていた。

 その血を見ても千春はパニックになることは無く、母親に強く抱きついた。

 千春は、自分の顔に水滴がポツポツと垂れてくることに気が付いた。

 上を向くと、瓦礫の隙間から空の景色が目に入る。

 千春は、いくつもの瓦礫の隙間を縫うように、真上から落ちて来る雨粒の様子がよく見えた。

 落ちて来る雨粒は容赦なく千春の顔を濡らしていく。

 雨なのか、涙なのか分からないが頬を伝い地面へと落ちていく。

 雨の冷たさが体から体温が奪い、次第に力が入らなくなっていき、体も動かなくなっていく。

 また視界も朧気になってきた事もあり、自分ももう助からないと感じていたのだろう。千春はゆっくりと目を閉じた。

「おやおや、こんなところに死にぞこないがいるねー」

 誰かの声が聞こえた千春は、ゆっくりと目を開ける。まだ視界がぼやけている為、声の主の姿が明瞭には映らない。

 それでも、その不気味な声と曖昧な輪郭には、不安と奇妙な好奇心が同時に揺らめいていた。

「だ、だれ?」

 その瞬間、相手の影がわずかに揺らぎ、冷たい笑みを浮かべた。

「生命力も、精神力も高いし、運もある。良い素材を見つけたよヒヒㇶ。特別にお前に力をくれてやろう」

「あ、なたは……誰?」

「さあ、誰だろうね〜、ただの通りすがりさヒヒヒ」

 千春の視線が魔女の帽子にふと留まる。

「その、……帽子、もしかして魔女……さん?」

 魔女は急に表情を変え、目を輝かせて驚きと期待を込めたように彼女を見つめた。

「魔女を知ってるのかい!利口だね、そうさ、魔女さ、お前の命の恩人と言うことを忘れてはいけないよヒヒㇶ」

 自身を魔女と答えた謎の人物は、千春の目の前で分厚い古びた本を広げ、聞いたことのない言葉を口ずさむ。

 千春は最後の力を振り絞ったかの様な弱々しい声で気持ちを伝えた。

「お願い、……パパとママを助けて」

「それはできない相談だ、救えるのはお前ただ1人だけだよ」

 その答えに、千春は心の奥が静かに崩れていくような感覚に襲われた。目の前にいる魔女の残酷な微笑は、どこまでも容赦がなく、彼女の冷酷さを如実に表していた。

 その魔女が告げた瞬間、本から明るい光と共に、淡い光を灯しながら大量のシャボン玉の様な球体が、フワフワと浮遊しながら千春の全身を覆っていく。

 千春は、肌に感じる嫌な感覚を思えたが、体を動かすことが出来ない。

 そんな時たっだ。目の前にいる魔女は突然空を一度見上げた。「もう来たのかい」と小言を言いながら本を閉じた。

 球体は一瞬のうちに破裂し空中から消え去り、魔女はなにかから逃げさるように、この場から消えていなくなっていた。

 千春はこの良く分からない現象を、死ぬ間際の幻覚だと思っており、「最後くらいパパやママが出てきて欲しかったな」と思っていた。

 最後に空が見たいと思った千春は、閉じた目をもう一度ゆっくり開ける。

 ぼやけて見える空には、箒に乗った4人の空飛ぶ人間の姿が目に入った。

「ああ、私も空飛びたいな」

 

 * * *

 

「お昼のニュースです。本日、神崎首相が渋谷で発生した事件の犠牲者に哀悼の意を表すため、慰霊碑に参列し、陳情を述べました……」

 アナウンサーは落ち着いた声色でニュースを読み上げているが、その目にはわずかな緊張が漂っている。

 神崎首相の哀悼の意を伝える内容に合わせ、表情も厳粛さを意識していた。

 最後まで読み上げると画面は変わり、画面には神崎首相が映し出される。

「国民の皆様、私はこの瞬間、重い事実を伝えなければなりません。……この場所を中心に、広範囲に渡り非常に悲惨な出来事が起きてしまいました。突然の出来事で、多くの人々が犠牲になり、亡くなられた方々に心から哀悼の意を表します。世界が未曾有の危機に直面している中、我々の街もまたその影響から逃れることができませんでした。『魔物』と呼称する異形の存在によって、多くの尊い命が失われ、我が国の平和も脅かされています。魔物の出現は突発的であり、国としても予測不能の脅威でした。警察や自衛隊をもってしても今回の規模に対して、迅速かつ完全に対処するには限界があり、我々は、これまでと同じ方法で魔物の脅威に立ち向かうことが出来ないという現実に直面しました。魔物の脅威は一時的なものでなく、長期にわたる戦いを覚悟しなければなりません。今、国民一人ひとりがこの非常事態を真摯に受け止め、共に考え、共に協力する時です。しかし、この深刻な局面において、「魔物」を撃退した者達が現れました。それは、彼女たち――『魔女』と呼ばれる存在です。魔女とは、歴史の中で伝説や架空の存在として語られて、長きにわたる迫害の歴史を経た経緯があることは国民の皆様も知っていると存じます。彼女たちは決して幻想でも神話でもなく、現実に存在する魔女だったのです。……彼女たちの活躍を、目にした方も多いでしょう。彼女たちが示してくれた力は、魔物を撃退するだけでなく、我々の未来に希望を与えてくれました。そして、彼女たちが魔物を倒してくれた事で、倒壊した街並みは復興の道を歩み始めています。長らく人々の記憶から消え去り、歴史の陰に隠れてきた彼女たちが、魔物との戦いにおいてその存在を危険をおかしてまで私たちの前に姿を表し、国民を救って頂い行為に対して敬意を払いたい。そんな彼女たちを、我々国民を救う存在であることを示すために、『人類の新たなる守護者』とし、魔物と戦うその未知なる力を使える彼女達を|[<救世の魔女>きゅうせいのまじょと呼びたい、そう考えます。我々政府は、この歴史的転換点に立ち、彼女たち<救世の魔女>に対して、日本国籍を授与し日本国憲法25条に基づき魔女を保護することをここに宣言します」


数多くある作品の中からこの作品を読んで頂き、ありがとうございます。

この作品は自身2作品目ではありますがまだまだ至らない部分も多いと思いますがご了承下さい。


仕事しながらなので投稿スピードは遅いですがこの作品がいいと思った方はブックマークに追加して頂ければと思います。よろしくお願いします。

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