表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/54

ホタカ先生の痛み③

「いえ。根に持ってるだなんて……。そんなこと、あるわけないじゃないですか……」

「嘘を吐け。こうしているだけでも、一杯一杯のクセに……」


 高島先生はそう言ってホタカ先生に近付き、その華奢な腕を力強く掴む。


「きゃっ!?」


 そのまま彼女を強引に壁際に追いやり、両腕を頭上に拘束する。

 ホタカ先生は必死に抗うも、やはり相手は大人の男性であり、ましてや体育教師だ。彼女の劣勢は明らかだった。

 一向に思考が追い付かないが、流石にこの状況にさらされ、()()()でいるわけにもいかない。


「おいっ!! あんた、何してんだっ!!」


「うるせぇっ! 黙ってろっ!」


 僕は何とか声を張り上げるも、普段とは違う気迫で威圧してくる高島先生を前に、怯んでしまう。

 僕の戦意の喪失を確認すると、彼は再びホタカ先生に向き合う。


「こんなに震えてるじゃねぇか……。まだ男が恐いんだろ?」


「……っ!?」


 為す術なくなった彼女は、高島先生の鋭い眼光から逃れるように、虚ろになったその目を背ける。

 そして一気に脱力し、その場にへたり込んでしまった。


「……そんな顔すんなって。お前は何も悪くないんだからよ」


 高島先生は静かに語り掛ける。

 すると、次の瞬間には僕に向き直ってきた。


「天ヶ瀬」

「は、はい」

「お前、コイツからどこまで聞いてるんだ?」

「どこまで、と言われても……」


 何も聞いていない、と答えるのが正解なのか。

 実際、僕はホタカ先生のことを何も知らない。

 今のやり取りを見て、二人にはただならぬ因縁があることも初めて知った。

 言い淀む僕に、高島先生はハァと、深く息を吐く。


「安堂寺。俺の口から言った方がいいのか?」


 高島先生は、脱力するホタカ先生に向けて、呆れるように言う。


「いえ……。これは私の()()()ですから」


「そうか……」


 高島先生が静かに呟くと、ホタカ先生はゆっくりと立ち上がり、僕の方を向く。


「トーキくん、ごめんね。何がなにやら、って感じかな?」


 疲れたように微笑みながら、ホタカ先生は聞いてくる。


「……分かってるなら、話は早いです」


「だよね。一応、確認しておくね。聞きたい?」


 ホタカ先生は、念を押すように聞いてくる。

 引くに引けない、とはこのことだ。

 きっと、これから彼女が話す内容は、重いだとか軽いだとか、そんな陳腐な形容詞で語るには相応しくない。

 僕は彼女にとって、ただの生徒であり、ただの他人かつ、ただの一クライアントでしかない。

 一般論的に言えば、守備範囲外だ。

 聞いたところで、僕が彼女に対して出来ることなど、恐らく何もない。

 そうだ。彼女から見て、僕は明らかに『安全地帯』にいる。


 ただ、一つだけ、事実がある。

 彼女は今こうして、自分自身の過去、いや……。

 ()()と向き合おうとしている。

 ともすれば荒療治とも言える方法で。

 僕如きがおこがましいが、そこまでして覚悟を決めた相手の言葉に耳を塞ぐことは、不誠実のような気がしてならない。


「ホタカ先生」


 僕の呼びかけに、彼女は『うん?』と首を傾け、心なしか普段よりも優しく微笑む。

 少し悔しい。

 ホタカ先生にはこういうところがあるのだ。

 彼女は時折、こうして思い出したかのように一端の大人のように振る舞い、僕にマウントを取ろうとしてくる。

 彼女の悪いクセだ。

 この数日間で、なんとかそれに気付けたのであれば、いつまでも彼女のペースでいるわけにはいかない。

 それに……、彼女は肝心なことを忘れている。


「さっき言ったこと。もう忘れたんですか?」


 僕がそう言うと、彼女はキョトンとした顔をする。

 普段とのギャップに、不覚にも少し可愛らしいと思ってしまった。

 彼女からこの表情を引き出すことが出来ただけでも、ここまで追ってきた価値はある。


「ホタカ先生。自分で言いましたよね? ここまでが僕のカウンセリングの最終章だって」


「……フフ。流石だね。私が育てただけのことはあるね!」


 そう言って、彼女は満足そうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ