第96話~黒幕~
寝息を立てて横たわる人々が、冷たい床を覆う――。
意識を保っているのは、私とネムだけだった。
(チッ!)
入り口には、オブジュ王太子。
彼は、黒一色の武装集団(30人弱)を引き連れている。
「違う……殿下じゃないわ」
私の疑心は、ネムに否定された。
「この状況で? だって、どう見ても……」
(オブジュの仕業としか、思えない)
「君が噂の『占い師』か? やはり魔法を用いていたのだな? 此処に立つ姿こそが、その証拠だ」
「ちょっと意味が……とにかく、説明をお願いします!」
(証拠って、何のよ?)
私には難解だった。
「まだ分からないのか? 君は少し鈍いな……3日前に異国から搬入された楽器に、魔法が仕込まれていたのだ。奏でる音色が、人を深い眠りへと誘う。しかしこれは、現役の魔法使いに通用しない」
(楽器に仕掛けをねぇ……って、私(凡人)に分かるかっ!)
「そういえば『偽の貴族達』も消えたわね……あっ、見えた! 混乱に乗じて、外へ出たみたい」
空間に残された余韻から、ネムが過去を読む。
「やっぱり、スパイだったのね」
(とっ捕まえて、尋問すべきだったわ)
「それにしてもライリー、君は『ごく普通の人間』なのだろう? 眠らない理由は何だ?」
オブジュが少しだけ、首を傾げた。
「それは……私にも、さっぱり分かりません」
魔法と縁のない私に、どうして効かないのか? 確かに不可解だ。
もしかして元・ライリーは『魔法使い』だったのだろうか?
(でもそんな話、誰からも聞いていないけど?)
「ライリー様っっ!」
武装集団の中から、クガイが顔を出す。
「私は大丈夫よ、クガイ」
「ご無事でしたかっ! ……オブジュ様、これは何事です? 貴方様の兵を表に出すのは、固く禁じられている筈ですが?」
「緊急事態ゆえ、やむを得ないと判断した。私の兵ならば魔法使いが相手でも、応戦可能だからな」
「それもそうですね……では『外』を頼みます! 既存兵では突破を許すのも、時間の問題ですから」
「えっっ!? 敵が迫っているの!?」
窓が分厚いカーテンで覆われていたので、外の様子が見えていなかった。
「はい。敵は少数ですが、こちらが劣勢です。今は主に御者のヤプが、侵入を食い止めています」
「ヤプがっ!?」
(早く助けに行かないとっ!)
「……聞いたか? 直ぐに行ってくれ」
「はっ!」
数名を残して、オブジュの兵が部屋を出る。
きっと彼等も、魔法を扱えるのだろう。
(ていうか魔法使いって、裏ではしっかり存在していたのね)
「オブジュ様は、地下通路から避難をしてください! ネムに案内をさせます」
「ブレイムは? もう逃げたのか?」
「いえ……まだ城内に、身を隠されているかと思われます」
「何故、逃げない? 戦うつもりか? それとも……」
「逃げられないからです。殿下の部屋に隠されていたメモには『追われている』と、記されていました」
「『追われている』って? 敵(暗殺者)はまだ、外なのでしょう?」
(嫌な予感がする……)
「それが首謀者を含め、以前から内部に敵が潜入していたのです」
「なんだとっ!? 何度も調べたが、疑いのある者は1人も……」
王太子が、眉間に皺を寄せる。
「相手は魔術師……つまり熟練者です。自分を偽る事など、容易なのでしょう」
「ということは、犯人が分かったのね?」
私の問いに、クガイが頷いた。
「はい。異国のオーケストラを招き入れた人物こそが、暗殺の首謀者でした。残されたメモにもその名が記されていたので、間違いありません」
「一体誰なの?」
「……テリップ・ハーロッジ公爵です」
「まさかっ!? 何かの間違いだ! そもそも叔父は『魔法使いではない』のだぞっ!?」
認めない(たくない?)、オブジュ。
「本当にそうでしょうか? あの方と血を分けた弟君が『魔法の才能が無い』という、本人の申告のみで信じられますか?」
(改めて……私、人をみる目がザルだわ)
思いもよらない黒幕――。
動揺を隠せないオブジュの様子から、テリップの信頼度が窺える。
最も身近な、親族(ほぼ家族)による裏切り。
オブジュやエデル……そしてブレイムの『心』が、かなり心配だ――。
次回、第69話~かくれんぼ(仮)~
明日か明後日に投稿予定です。




