第95話~混乱の極み~
「もしや……フロレンヌ様をエスコートするあの方は、アケビ様じゃなくて!?」
「そうですの!? でもどうして、燕尾服なのかしら?」
「……あの日を、思い出しますわ」
「素敵っ!」
驚く大人達と、すっかり目を奪われている女学院の生徒達。
反応はどうあれ……親友2人は、非常に目立っていた。
(あっ!)
フロレンヌが指揮者に、殺人級の目配せをする。
すぐさま演奏が再開。2人がステップを踏んだ。
「おぉー!」「わぁー!」
性別や立場なんて、誰もが忘れている。
彼女達は『踊る作品』だった――。
「……やあ、ライリー嬢! 調子はどうだい?」
演奏が一段落した後――片膝をついて、アケビが私の手にキスをする。
(去年に使用したウィッグと眼鏡を、まだ持っていたのね)
「そこそこよ。貴女こそ、何があったの? 心境の変化? それともこんな時に、単なる悪ふざけかしら?」
「私がお願いしたのです! 交流会から紳士服への興味が、更に強くなりまして……アケビさんをモデルに、燕尾服を製作しましたの」
フロレンヌが私の腕を、ギュッと掴む。
『大丈夫、怒っていないから』
「彼女は悪くないよ……『お父様が舞踏会に出ろ』としつこくてね。たまに耳を貸すのも、親孝行になるでしょう?」
「よく言うわ! ますます関係が拗れるわよ? 家を継ぐのよね?」
「それは実力で勝ち取るから、心配ないわ」
「さようですか……」
(アケビらしいわね。まあ、そこが特に『お気に入り』なんだけど)
「……でも方法はともかく、貴女達のお陰で見事に分散したわね」
「『分散』? ネム、それはどういう意味?」
「見張り役よっ! そこまで奇妙な立ち振舞いをされたら、そうせざるを得ないでしょ? 私にも1人ついたし……1人か2人なら、上手くかわせるかもね?」
「えっ、そうなの? ……やった! 2人とも、ありがとっ!」
「よく分かりませんが『どういたしまして』で、宜しいのでしょうか? それでは、皆様のお相手をしてきますね」
フロレンヌは集まるゲストの相手をしつつ、私達から離れた。
(彼女の『美』と『コミュ力』には、助けられてばかりね)
『お礼より、暗殺者よっ! まさか本当に、今日だったとは……』
アケビが声を絞る。
『本隊はまだみたいよ? 今は指示役と見張り役の8人が、ゲストとして舞踏会に紛れているわ』
『だったら、その8人を拘束すればいいじゃない? 尋問をすれば、首謀者だって……』
『悪いけど『怪しい』ってだけで、確実ではないわよ? 暗殺とは違う目的で、潜んでいる可能性だってある。私は過去や未来が断片的に見えても、世紘みたいに、人の心(裏)まで読めないわ。対象者を囲む空気の『違和感や濁り』で、心の異変を判断しているだけだから』
(そうなんだ……ん?)
『でも占いでは、他人の心を言い当てたじゃない?』
『冷静に話を聞いていればあの程度の助言くらい、誰にだって出来るわよ』
(だとしたらこの娘……理解力と人を見る目が、私の1万倍はあるわ)
「ライリー、ネム? 主役のお出ましみたいよ?」
空気を察して、静まる会場。
舞踏会の主催者・ブレイム殿下の登場だ。
「えっ!?」
「どうして、貴方様がっ……!」
「何だろう? 急に目眩……」
バタンッッ――。
「キャァァァー!」
次々に倒れる人々。
「うっ! ラッ、ライリー……」
「アケビッッ!?」
頭を押さえながら、アケビが両膝をつく。
フロレンヌは既に目を閉じていた。
(一体、何がっ!?)
アケビを寝かせた私は静かに立ち上がり、正面を向く。
「ご説明……して頂けますよね? オブジュ王太子殿下?」
「お望みなら仕方がない……但し『邪魔はしない』と誓ってもらうぞ? ライリー嬢」
他国のオーケストラから始まった、数々のサプライズ。
そのフィナーレに、ブレイムの姿はなかった――。
次回、第96話~黒幕(仮)~
金曜日か土曜日に投稿します。




