第94話~ヒーロー&ヒロイン~
少し長めです。
開け放たれた扉――。
ゲストはまだ、数える程度しか来ていない。
前回は遅れに遅れての参加だったが、今日は早めに会場入りした。
城内の状況を、事前に把握する為だ。
「やはり兵士の数が多いわね? どお? クガイ?」
「はい。全員、知っている顔です」
「ネムは?」
「今は、何も見えないわ」
「そう……ムフフッッ!」
「――!? 何っ!? 気持ちが悪いんだけど!」
ネムの姿が視界に入るとつい、緊張が解かれてしまう。
(つか、可愛いすぎっっ!)
ドレスの色は渋めの紫紺で形も少しタイトだけれど、胸元に施されたレースが、少女を華やかに演出していた。
(とりあえずこの時間は、ツンデレ美少女(ドレスアップver.)を堪能するとしよう!)
それから数十分後――。
ゲストが増えた会場で、私は挨拶に追われていた。
クガイやネムは、常に周囲を監視している。
2人の様子を見る限り、敵(暗殺者)はまだ現れていない。
「お集まりの皆様! 今宵はバガンス王国より、音響楽団をお迎えしております。世界一と謳われる演奏を是非、お楽しみください」
広い会場が、大きな拍手に包まれる。
1曲目の出だしと共に手を取り合う、上級貴族の男女。
こうして、舞踏会は始まった。
『何で今日に限って、他国の人間を呼ぶのよ!?』
会場の隅で護衛中のクガイを呼び、耳打ちする。
『3日前、私が此処を訪れた時に変更の話は聞いていないので、急遽決まった事かと……』
『何にしても、嫌な感じがするわ。クガイはセージさんに変更の詳細を聞いてもらえる? 護衛はもうすぐエデルが来るから、大丈夫よ』
『分かった。ライリー様を頼む』
的確な指示を出す少女。
その表情から、楽団に何かあるのは明らかだ。
『ネム? あのオーケストラ……』
『そう。意図的に、送り込まれたみたい』
『えっ!? じゃあ彼等の中に、暗殺者がいるの?』
『それは何とも言えないわね。演奏から本物なのは確かだし、濁りも無い……世紘は、まだ起きないの?』
『何をしても、駄目! 役に立たないわ』
気まぐれな妖刀に元々期待はしていなかったが、今日も朝から沈黙している。
火攻め、水攻め、圧迫、罵倒に悪口……等々。
自分の命が掛かっているので容赦なく色々試したものの、虚しく彼の寝息だけが私の脳内を巡った。
(何が『オンゾン(温存)』よっ! 単に寝ているだけじゃない!?)
「……皆さん、ご覧になってっ! エデル様よ!」
「まあ! ご立派になられて!」
「『初めての舞踏会』と聞いていたが、とてもそうは見えませんな? 実に堂々としていらっしゃる」
突然のミニ王子登場に、空気が一瞬で和む。
「ネムッッ!」
エデルは真っ直ぐ、己のプリンセスを目指した。
「来てくれて、とても嬉しいよ! 綺麗なドレスだね? 君によく似合ってる」
(色々と凄いな、少年……)
「『仕事』よ! それより、内部はどんな様子なの? 何か変わった事はあった?」
「何もないよ? 兵士で溢れているけど、普段と変わらずにとても静かだ……あっ、ライリー! 君も一緒だったんだね!?」
(私はオマケかいっ!)
「ごきげんよう、エデル様。今日はネムを、宜しく御願いしますね」
「ハイッ! ……では早速、踊っても?」
「ええ、勿論です!」
「えっ!? 『踊る』って……ちょっとっっ!」
手を引く王子に、戸惑うネム。
可愛らしい2人のダンスに、会場が沸く。
「なんとも、微笑ましいわね? さてと……」
ぼっちの伯爵令嬢は、壁際で人間観察に勤しんだ――。
(無理だぁぁー! なんも、分からんっ!)
そもそも『人を見る目』なんて、私には備わっていない。
それは転生後も、同じだった。
「……苦戦しているようね、壁際のお花さん? 私を遠ざけるからそうなるのよ!」
エデルから解放されたネムが、私を睨む。
「あら? 素敵なダンスだったわよ? せっかく舞踏会に来たのだから、踊らないとね!」
「そう言う貴女はどうなの? 誘いを全部、断っているじゃない?」
「私の相手はブレイム殿下だけよ? ……ちょっと、外の空気を吸ってくるわね」
久々の人混みで、私は少しだけ気分が悪くなっていた。遠巻きに王城の護衛がついているから、1人でも問題はない。
「貴女の付き添いとして、それは許可しかねるわ」
「どうして? オーケストラは手を離せないし、護衛だって……」
『怪しい貴族が8人。踊りながら確認済みよ! 今の所は殺意を感じないから、何らかの指示役と、貴女の見張り役だと思う……でも皆、ただ者じゃない。だから勝手な行動は控えてもらうわ。ブレイム殿下と踊る前に、護衛ごと『消されるかも?』だし』
『げっ!? どうにかならないの?』
このままだと必要な時に、会場から出られない。
行動の制限は、早々に私を窮地へと追い込んでいた。
「……遅くなりましたわ! 皆さん、ごきげんよう」
会場全員の視線が、一点に集中する。
(この感じ、前回もあったな……そしてアレは、どーゆーコト!?)
勢いよく開いた扉から登場したのは、絶世の美女フロレンヌ・ベイロッサと、燕尾服姿のアケビ・モンドリリーだった――。
次回、第95話~混乱の極み(仮)~
明後日に投稿します。




