第92話~祖父の助言(後編)~
遅くなりました。
しかも今回は、かなり長めです。
復讐……その方法は人それぞれだ。
しかしどんなに悔しくて腹が立っても、普通はそう簡単に『報復=殺害』とはならない。
元・ライリーはどういった経緯で、最悪の決断へと至ったのだろうか?
ロドから語られた彼女の真実は、耳を塞ぎたくなる程に残酷だった――。
14才の春……『元・ライリー』は、ある男と出会う。
6つ年上で、モスカトアの同盟国に在する、伯爵家子息。
完璧な容姿……紳士的で優しい大人の男性と、少女は恋に落ちた。
それから約2年――。
交際は順調そのもので、両家の間では結婚話まで出ていたが、ロドだけはある事を理由に、反対の姿勢を崩さなかった。
恋人との仲を引き裂こうする祖父に対し、ライリーはついにセレクタント城で、絶縁を言い渡す。
こうして最大の障害を乗り越えた2人は、無事に婚約。
1年後の惨劇へ、運命の舵は切られた――。
航海の目的地は、愛する祖父母(母の両親)と、幼い姪の死。
それはライリーの目の前で、唐突に奪われた。
犯人は、婚約者の男――。
身分(家族)や年齢、出身や名前まで……全てを偽っていた彼は、スパイ兼・暗殺組織の人間だった。
外の兵士が屋敷へ助けに入った際、ライリーも殺される寸前だったという。
唯一助かった彼女は、数多く横たわる死体の側で叫ぶことも泣くこともせずに、佇んでいたらしい。
幼い頃から戦争の度に、遠い異国の祖父母宅へ預けられていた、ライリー。
彼女の寂しさを埋めてくれたのが、祖父母や母の兄である叔父夫婦と、その娘だった。
ラナンの実家は、モスカトアでいう侯爵家に値する。国の政治を担う、重要な立場だ。
暗殺の標的となった要因は、おそらくそこにあったのだろう。
ライリーは大好きな祖父母や異国の話を、婚約者(内偵者)によくしていた。
でも一切、政治や国の内情には触れていない。
ただ……叔父夫婦の出張中に『孫が寂しがる』という理由で、祖父母から長期滞在を頼まれたライリーは、未来の旦那様を紹介をする為に、異国へ婚約者(暗殺者)を同行させていた。
心から愛する男の、正体も知らずに……。
「事件当時のライリーは、恐怖や衝撃から黙っていたのではなく、喉を潰していた……『限界まで叫んだ結果、声が出なくなった』と聞いている」
「……」
何処か息苦しそうに、話をするロド。
私も元・ライリーの気持ちを思うと、吐き気に襲われた。
(私の体……この目、この耳が、惨劇を目の当たりにしていたんだ)
「7ヶ月を費やして行われた、精神科医の聞き取りによると、現場に奴も居たらしい。隣で手足を拘束されたあの子が泣きながら頼んでも『奴は自分の部下に、兵士・使用人・祖父母……そして子供の殺害を、淡々と指示した』という。自分の手は一切汚さずに、服に着いた数滴の返り血を確認した彼奴は『汚い』と、一言だけ呟いたそうだ」
(許せない……)
「それで!? 逃げたそいつ等(犯人達)は?」
「かなり苦労したがモスカトアも協力して、暗殺者は1人残らず処刑台送りにしてやった。たが……奴は処刑の前日に、脱出不可能と言われる監獄から姿を消したのだ」
「……まさかっっ! そのまま救世主に!? 何故です!? 犯罪者が、どうして!?」
「『選ばれし者』に、本質の良し悪しは関係ない。運のいい奴だ……しかしそれは同様に、ライリーにも当てはまった」
「彼女も『運がいい』と?」
(逃げられたのに?)
「生まれながらの救世主は、他の救世主の情報も知り得る事が出来る。感の鋭いあの子は、直ぐに奴の運命に気付いた。その現状を『復讐の舞台』と捉えたのだ」
「それで(転生の)やり直しを……」
「引き留めたが『この場で死ぬ』と脅されてな……この事実を知るのは、私と国王、それに残された向こうの夫妻と、君の両親のみだ」
「だとすると……父や母は、私の正体を?」
「勿論だ」
「……そうですか」
(でも私に注がれる、両親の愛情は本物だった)
「実を言うと、この話を君にしたのは、成り行きではない……過去の失敗から、1つ助言をしたいからだ」
「えっ? あっ、はい! お願いします」
(元・ライリーの過去と、今回……何か関係があるのだろうか?)
「そうか、良かった。ついあの子に重ねてしまってな……『聞き入れてもらえないか?』少し不安だった」
「いえ。今は特に、情報が必要です。私こそ助かります」
「それなら、ハッキリ言わせてもらう……ブレイム殿下は諦めろ。どうしても生きたければ事情を説明し、破棄前提で王太子殿下と婚約すれば良い」
(はぁぁ? 何言ってんの? この、ジッ……)
「嫌です! 国王陛下の許可も有るというのに、何を理由に『諦めろ』と仰るのですか!?」
「「危険だから」に決まっている! ヤプから聞いているぞ? 殿下を前にした、世紘の反応……奴の時と、全く同じだ」
(あの反応が? 暗殺者と同じ!?)
「だとしたら、それは……」
「ああ……私も最近見かけたが、彼に不穏な気配を感じる。何故か昔からではなく、最近になって浮き出たものだ」
「『不穏な気配』……何かに取り憑かれているとか? ですかね?」
「それならまだ、救いもあるが……とにかく、己の感情に流されるな! 私も国王の考えに同意だ……何よりも恐ろしいのは『通じない』事だからな」
(ロドまで彼の『死』を容認しているとは……ムカつくわね)
「『通じない』とは、どういう事です?」
「その時が来れば分かる……いいか? もう一度言う! 『真実』を見極めるには『感情』を捨てろ! そこに自分の心を、決して与えてはならない」
「はい……それは、分かりました」
(要するに、冷静になれって事? だったら……自信ないわね)
見事に弱点を見抜かれた私は、素直に祖父の言葉を受け入れた――。
第93話~ラスト呼吸~
水曜日か木曜日に投稿予定です。




