第89話~VS国王陛下(後編その2)~
「嘘っ! 小っさっっ!」
国王らしからぬ……いや、だからなのか?
ジェイルドの瘴気量は、通常を大きく下回っていた。
『チッ……』
舌打ち後――餌を前にした世紘が蛇を出したものの、数はたったの2匹のみ。
一瞬で瘴気の補食を終えると、さっさと本体(刀)へ戻ってしまった。
刀はおろか……足を一歩踏み出す前に、ジェイルドは意識を戻している。
そもそも、失っていた事すら怪しい。
(終わった……もう、刀を握る力すら尽きたわ)
私は世紘を、鞘に納めた。
「負けを認め、どんな罰でも受けます」
婚約が認められなければ、それは避けられない。誰も介さない王子への身勝手な求婚は、重罪に値する。
「……まさか!? 貴女は真に、ソレを扱えるのか?」
目を見開き、驚いた様子のジェイルド。
(『ソレ』って、世紘の事よね?)
「はい……まだ、それなりにですが」
「どうして黙っていたっ!? そうと知れば、『手合せも必要なかった』というのに……」
国王の言葉と表情が、私に期待を与える。
「えっ! それでは!?」
「無論、婚約を認める。妖刀の使い手はハーロッジ家にとって、なくてはならない存在なのでな」
「あっ、ありがとうございますっっ!」
理由は一切不明だが、どうやら世紘のお陰で王の許しを得たようだ。
『ありがとねっ! 世紘!』
『ベツニ……』
(照れてる? ちょっと、可愛いかも?)
鞘越しに、妖刀の熱を感じた――。
「……ライリー嬢っっ!」
開かれた扉から、ブレイムが飛び込む。
「『手合わせ』とは、どういう事ですっ!? 国王陛下、何を考えて……!?」
ボロボロの服に、乱れた髪……私の姿を見た彼が国王に対し、更なる怒りを露にする。
「なんて酷い事をっ! 陛下であっても、人として許されない行為です! ……ライリー! 直ぐに怪我の処置をしなくてはっ!」
「私は大丈夫です、殿下。どこも怪我はしていませんし、服は動きにくいので、自ら破きました」
(まだ少し、尻は痛いケド……)
「何て無謀な……国王もですが、貴女もどうかしています!」
「ですよねぇ……」
ごもっともなご意見。
考えてみれば国王の挑発に乗った私も『冷静だった』とは言いがたい。
(でも……)
「婚約は認めたのだ。もう、彼女を責めるのはよせ」
そう……ついに私は、婚約を勝ち取った!
「『認めた』!? 何故ですっっ!?」
「……ぶ、ブレイム殿下?」
彼の反応をどう前向きに捉えようとも、さすがに無理がある。
『王子は、私との結婚を求めていない』
報われない『現実=恋』に心が折れそうになるが、今は『婚約=条件達成』が最優先だ。
(命なくして、ブレイムの心は落とせないしっ!)
「話はこれで終わりだ……ライリー嬢、ブレイムを頼む」
「ハイッ!」
「まっ、待ってくださいっ! 陛下っっ!」
必死に呼び止めるブレイム(息子)を見ようともせずに、ジェイルドとロドが部屋を出る。
「……」
私は敬意と感謝を込めて、国王の背中に頭を下げ続けた――。
次回、第90話~勝負服(仮)~
明日か明後日に投稿予定です。
先週が投稿が出来なかった分、今週はかなり多めになります。




