第84話~つまり文化祭での勝負(後編その4)~
第四章完結です。
「もう、私に構わないでくれ……迷惑だ」
お礼より先に王子が発した一言で、周囲の空気と私の心が、瞬時に凍りついた――。
家畜小屋に隣接する現場(放牧場)で寛いでいた動物達が、自ら小屋へ戻る。
そして遠巻きに私達2人を見守っている、セージや兵士達……遅れて到着をしたエデル殿下にも『立ち込める暗雲』は見えているようだ。
走り終えたばかりで貧血気味な私の脳内では、この解釈が導き出されるまでに、少し時間を要した。
「つまり貴方は……『死にたかった』と?」
通常を越えた動揺から、言葉使いにまで気が回らない。
「その通りだ……呪いでは魔術の痕跡が残ってしまい、魔法使いの存在が世に出る可能性がある。けれども毒ならば『ただの暗殺』で処理されていた。犠牲も最小で収まったというのにっ!」
ピクッ――。
私の小鼻が、ストレスに反応する。
(はっ? 何を言ってるの? この王子……普通、年下の令嬢相手に『死にたい願望』を露呈する? 悲劇のヒーロー気取りなのかしら?)
「……何故、命を捨てようとなさるのです?」
「他に解決策が無いからだ」
彼らしからぬ、吐き捨てられた答え――。
しかし残念ながらその程度の威嚇に怯む程、私は弱くない。
「何があったのか、教えてくださいっ! 私も一緒に策を考えますからっ!」
「もう決めた事だ。今さら他人に話すつもりもない。とにかく、邪魔をしないで欲しい」
ピク、ピクッ――。
(何も説明せずに『邪魔をするな』? 兄弟揃って、秘密主義者とはね……つか、面倒くさっっ!)
「そのお答えでは、納得できませんっ!」
これでも冷静を装って、私は意見した。
「では、結論だけを言う。これから先――国民が平穏に生活を送る為には、私が消える必要がある……それだけの事に、誰1人として巻き込みたくはない」
「『それだけの事』……ですか」
「そうだ」
(こっちは必死で『命』と向き合っているのにっ! コイツは……)
ピク、ピクピクッ――ブチッッ!
ここが我慢の限界点だった。
「……何それ? 古っっ! 『私が消えれば』なんて台詞、聞くだけで虫酸が走るわっ!」
「――!?」
その豹変ぶりに驚いたのか? ブレイムは小さく口を開けたまま、呆然と私を見ている。
怒り声が聞こえたらしく、セージ達がこちらへ向かう。
(モォォォー、どうだっていいっっ!)
「貴方が死ねば、不幸になる人間だっているのっ! 分かる!?」
(主に『私』だけどっ!)
「不幸に……」
そう呟いたブレイムは、迫る弟や友人達へ視線を向けた。
「『それだけ』の命1つで、様々な理由から後を追う人間が必ず出るわよ!? それでも『死にたい』のなら、その未来までしっかり想像して、懺悔しながら死ぬのね!」
苦渋に満ちた表情のブレイム――。
「『申し訳ない』とは思う。しかし、他に方法が……」
(……?)
緊迫した会話の最中、私はある異変を感じた。
『世紘、どうしたの?』
『……』
(えっ、怯えている!?)
1人の人間を前に、妖刀からも緊張が伝わる――こんな反応を見せたのは、初めてだった。
……どれ程の事情があるのか、予想もつかない。
それをブレイムは、ずっと1人で抱えていたのだ。
(まあ、自暴自棄にもなるわよね? でも私は絶対に諦めない……今こそ、それを示す時っ!)
「……詳細は分かりませんけれど、私が貴方の『全て』を、守って差しあげますわ!」
「駄目だっ! そう簡単な話ではない。貴女の命だって、どうなるか……」
「勿論、理解しております。ですからタダとは言いません……報酬は『ブレイム・ハーロッジ殿下』で、いかがでしょう?」
「……えっ!?」
「つまり私と『結婚』してください!」
成り行きの『求婚』ではあるが、その決意に照れや恥じらいは含まれていない。
彼から片時も目を逸らさずに、私は答えを待った――。
次回、【最終章 異世界を越えて……(仮)】突入!
6月3日(土)から、投稿を開始します。
※最終章より、タイトルを変更する予定でおります。エッセイと(タイトルが)被っていた為に、管理がしづらいのが、主な理由です。
ご迷惑をお掛けします。
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