第76話~敵対心~
「……面白い、冗談ですわね?」
眼球から約1cmの距離で光る刃。
それでも私は動揺を見せまいと、真っ直ぐ前を見据える。
(とはいえ、先端恐怖症になりそうだわ……)
「これが冗談に見えるのか? 私は『ブレイムから手を引け』と言っている……さもなくばこの場で、君を処刑するまでだ」
「私が手を引いた後は、貴方様が殿下を? もしそうだとするならば、ご要望には応じかねますわ」
「それは本人が決める事だ……居住区へ侵入した件は咎めない。勿論、クガイ・セマムもだ。そこを飛んでいる『奇妙な生物』についても、何も聞かないでやる。悪くない条件だと思うが?」
(やっぱり、バレていたのね?)
スピーチ大会の日――オブジュはベッドの下で身を隠す私達に気付いていながら、敢えて見逃したのだ。
理由は、私の『正体』を暴く為だろうか?
それとも、ロド・キュラス(軍・総帥)の孫である特権か?
(いや待って……そんな事より、もっともっと重大な事実が、妖刀ナシで判明したわ)
「……その剣は、収めてもらおう」
人間に模した妖精が、オブジュの頸動脈に小型ナイフを突き立てる。
「チッ、化け物め!」
私を睨みつけ、オブジュは剣を落とした。
それを確認したヤプも、ナイフを収めて妖精の姿へと戻る。
『オブジュカ……ヒサシブリニ、ミタ』
目覚めて間もない妖刀の台詞に、思わず下を向く。
「――!? 世紘は、王太子殿下を知っていたの?」
『ムカシニアッタ。マエヨリモ、ヨウリョクツヨイ』
「妖力……我が国の王太子殿下様は『魔法使い』でしたのね?」
「だからどうした? もしやその小さいのは、ロドの『ヨウトウ』か? 化け物を複数連れ立っている君こそ、一体何者だ? 人の皮を被ってまで、ブレイムの何を狙う?」
「私はごく普通の人間ですわ。ただ少々事情がありまして……ブレイム殿下との婚約を、早急に強く望んでいます」
「『婚約』だと? 今ブレイムと一緒に居れば、君も殺されるぞ?」
「構いません……彼を得られなければどのみち、死んだも同然ですから」
にらめっこに負けた子供の様に、オブジュが『フッ』と笑う。
「やはり君が首謀者ではなかったか……また1から、調査のやり直しだ」
「あら? 私をお疑いでしたの?」
「そうだ。当てが外れ、残念でならない」
(それは私も同じだ……)
「では王太子様もブレイム殿下の身を案じて、犯人を探していたのですね?」
「国の威信をかけて犯人は突き止めるつもりだが、ブレイムの命を『守る事』は考えていない。それが『正義』だと、私には思えないからな」
「弟の命を守る事が『正しくない』と? ……正気ですか!? どのような理由があろうとも、私は彼を守りますっ!」
「……アイツが『救い』を望んでいるのか? 信じがたい話だ」
(何それ、どういう意味? まさかブレイムに『自殺願望がある』ってコトじゃ……!?)
「それは、彼が『死』を……」
質問の途中で、部屋にノック音が響く――。
「オブジュよ、遅くなってすまない。頼まれていた資料を持ってきたのだが……いないのか?」
聞き覚えのある、穏やかな声。
国王の弟……つまりはブレイムや、王太子の叔父である『テリップ・ハーロッジ』だ。
「入ってくれ」
私との『会話は終わった』とばかりに、すんなりテリップを中へ入れる、オブジュ。
「……おや? ライリー嬢ではありませんかっ! どうして此処に!?」
私の存在を認識したテリップが、目を丸くする。
「本日はフロレンヌ嬢の手伝いで参りました。再びテリップ様とお会いできて、とても光栄です」
「それはそれは……これ、オブジュッ! レディーにお茶も出さないとは、紳士として配慮が足りないのではないか?」
「いえ、お構いなく……私は仕事に戻らなければなりません。これで失礼します」
部屋を出ようとする背中に、声が掛かる。
「不可能に挑戦するのは良いが、私の邪魔はしないでくれよ? ライリー嬢?」
「ええ、それはもう……お互いに、思いやりは必要ですものね? 王太子様?」
振り返った私は満面の笑みを見せつけて、部屋を後にした――。
次回、第77話~つまり文化祭での勝負(前編)(仮)~
5月9日か10日に投稿予定です。
もし、少しでも気に入って貰えたら、広告の下にある☆☆☆☆☆のクリック(正直な感想、大歓迎です!)やブックマーク登録を是非お願い致します!




