第73話~ひねくれ者の集い(前編)~
「……大丈夫ですかっ!?」
本を抱えた生徒が、困惑の表情でこちらを見ていた。
目の前で気を失っているナイフの彼女とは、どうやら面識が無いらしい。
「めまいを起こしたみたいですね。貧血かも分かりませんので、私が医務室へ連れて行きます……ご安心を」
倒れる寸でのところで、ナイフと彼女をキャッチした私は、通りすがりの上級生を装った。
目を瞑っているが、腕の中の生徒は無傷。
夕暮れ時の光にやんわりと包まれたその表情は、実に穏やかだった――。
その日の夜。
いつもより遅めの夕食を終えた後、皆が私の自室へ、予定通りに集合した。
ネムと妖精仕様の(小さな)ヤプがソファーに座り、その傍らでユーセがお茶の準備をする。
クガイは部屋の入り口で、直立していた。
「みんな、揃った? それでは『第……何度目かの作戦会議』を始めます! ですがその前に、先ずは彼を紹介するわね? 先々週から私の相棒となった『青黛乃 世紘』さんです!」
『……フンッ』
ペンダント・トップのまま、私の胸元で塩対応を見せる、妖刀。
「宜しくお願い致しますね!」
「お久し振りです、世紘様」
素直な反応のユーセや頭を下げるクガイに対し、ネムだけが彼を睨みつける。
「鞘から性質を探ってみたけれど、考え直した方がいいんじゃない? 貴女が思っているより、相当厄介なバケモノよ? その刀……」
『コイツ、キライ』
「ほらっ! 今、私の悪口を言ったでしょう? 底意地の悪い思考なら、十分に伝わっているわ」
「いやでもね、ネム……世紘は私と一緒に、人の『命』を助けたのよ? 少しは認めてあげてもいいんじゃない?」
ザクッ。
あの時……斬撃の感触は確かにあった。
しかし私が斬ったそれは『錆びた瘴気の塊』だ。
(血の臭い……?)
ナイフの彼女が生み出した瘴気は、色も臭いも鉄錆に酷似していたのを思い出す。
しかもこの後が、更にエグかった。
振り下ろした妖刀の刃先から、牙剥き出しの黒蛇達が放たれ、切り裂かれたばかりの瘴気を襲う。
蛇達は我先にと瘴気を食いちぎり、無表情で呑み込んでいた。
『これが、妖刀……』
残忍な行為に私も身震いしたが、 世紘は人の命を奪っていない。
寧ろ『殺人を防いだ』のだ!
「それ……本気で言ってる? 学院での挙動を聞く限り、これからも『人間を救う』とは、とても考えられないけどっ!?」
「そっ、それは……」
(どうしよう、言葉が出てこないっ!)
反論が難しい1番の理由は、学院の生徒(一般人)が彼の標的となってしまったからだ。ネムもそこを疑問視しているのだろう。
「でも……悪党ばかりが負の感情を、裏へ回しているとは限らないよな?」
(ヤプゥーッッ!)
何気ないおっさん妖精の呟きに、私は何度も頷く。
『そうだわっ!』
たとえ聖人君子だろうと、強い負の感情(悲しみ・怨念・怒り等)が裏で異常増幅をすれば制御が効かなくなり、必ず行動へ移す。
その最たる例が、殺人や自殺なのだという(情報提供者・和解済みのロド)。
そんな人間の危うい瘴気を、餌とする妖刀。
(これは……説得のチャンスかも?)
「ヤプの言う通り……」
私が勝負(論破)に出たところで、クガイが新たな情報をネムに伝える。
「総帥に聞いた話では、世紘様に喰われた人間の瘴気は『縮小』し、感情の制御が再び機能するそうだ」
「だからこそっ……」
気を取り直した私が再び勝負(論破)に出たところで、ユーセもネムを諭した。
「それなら世紘様は『犯罪や争いを防ぐ役割』を担うことになりますよね? 少し様子を見ても良いのでは?」
「うっ! しっ、仕方がないわね……私も暫くは、何も言わないわ。これでいい!?」
主は抜きで、説得に応じたネム。
すっかり蚊帳の外だった私は、何とも複雑な気持ちを抱いた――。
次回、第74話~ひねくれ者の集い(後編)~
5月3日か、4日に投稿予定です。




