第72話~初めての斬撃~
夕刻の校舎――。
夏で日が伸びているとはいえ、もうそろそろ日没の時間だ。
『マチクタビレタ……カエッテ、モトニモドル』
寝起きの妖刀が私の胸元で大きく揺れつつ、家路を急かす。
「よく言うわっ! ついさっきまで、寝ていたじゃない?」
『……オマエノタイド、キニクワン』
「それはスミマセンねぇー。でも貴方の性格がそうさせるのよ? 普通、初対面でいきなり殺そうとする!? そんな重度の『コミュ障』相手に、気を遣うだけ無駄だと思うわ」
『コミュ……ソレハナンダ』
「とにかくっ! 私と貴方は対等なの。お互いに必要としているのだから、当然でしょ?」
『チッ、ナマイキナヤツ』
「それも、お互い様ね! ……ところで世紘、餌は欲しくないの?」
学院には多くの人間(餌)が居るのに、彼は一切興味を示さない。
(もしかして……遠慮している?)
『負の感情=餌』を得るには、人を斬らなければならない筈だ。
私に負担(罪)を負わせない為に、彼は我慢をしているのかも知れない。
でも餌がないと、世紘はどうなるのだろうか?
(そもそも妖刀に、餓死なんてあるのかな……?)
『……ドレモコレモ、マズソウ』
「へっ?」
『ココニアルノハ、ゼンブチイサイ。ソダッテイナイ』
「あっ、そうなのね」
相棒を心配をした時間……これっぽっちも、意味を成さなかった。
「……」
「痛っ!? ちょっと、何っっ!?」
階段の踊り場――。
世紘がネックレスを引いて、私の足を止めた。
『ミツケタ……アイツハ、ウマソウ』
死角に身を隠し、何かを伺うような素振りを見せる、1人の生徒(女子)。
彼女が見つめる廊下の先には、同学年と思われる生徒(女子)がもう1人、数冊の本を抱えて歩いていた。
もう日が暮れる時間なので、他に人は見当たらない。
(知らない顔に、知らない後ろ姿……後輩かしら?)
『イマスグニ、クワセロ』
脳内へ伝わる、過激発言。
心なしか、興奮を感じた。
「それは無理っ! 此処で貴方(刀)を振り回せば、退学になるわ。それに彼女の何処が『美味そう』なのよ?」
後をつけているには違いないが、少し体を震わせ、両手に『白い何か』を持っている。
遠目で見る限り、おそらく手紙だろう。
この学院では、頻繁に出くわす光景だ。
『アイツ、クエナイ……モウヒトリノオンナ、シヌ』
「はっ? 何を言って……!?」
彼女の手から、白いハンカチがスルリと落ちる。
(手紙じゃないの? えっ、光った!? 手元のあれは……ナイフ!?)
しっかりと握られた凶器。
周囲を纏う空気に、妙な違和感を覚えた。
(まさか、刺すつもりなんじゃ……)
「――!」
突如走り出した、ナイフの彼女。
今呼び止めても距離からして、声が届くか微妙だ。
(つか『完全無視』されるかもっ!?)
『デテクル、ハヤクシロ』
「もうっっ! 分かったわよっ!」
全力疾走の中――私はペンダントを外し、腰に構えた。
『イマダ』
本を持つ生徒の背後で、狂気がナイフを振りかざす。
(追いついたっ!)
ギリギリのタイミング。
妖刀が、本来の大きさに戻る。
「……御免っっ!」
私は鞘から彼を抜いたと同時に、彼女の背中を躊躇なく斬った――。
次回、第73話~ひねくれ者の集い(前編)~
明日か明後日に投稿予定です。




