第70話~採用基準~
「よお、調子はどうだ?」
母が部屋を出てから暫くして、小さなおっさん妖精が、窓から見舞いに来た。
「それなりに、キツいわね」
「そうか……そりゃあ、目も腫れるよな?」
「言わないでっ!」
(ヤプめ……さては私の大号泣を、覗いていたな?)
「しかし、よく無事だったな? 一体何をしたんだ?」
「私にも分からないわ……謎よね? 『イラナイ』とか『キエロ』とか言っていたのに」
「言葉を扱うのか!? そんな話は、聞いた事もないが……」
「本当よ? ハッキリと伝わったもの」
ヤプの説明を聞くに『彼(妖刀)は、言葉を使わない』らしい。意思はイメージとなって、感覚的に伝わるそうだ。
そうはいっても『人見知りだ』と聞いていたので、私からすれば何ら不思議ではない。元・飲料水候補相手に見知る必要なんてないし、イメージだの感覚的だのよりも、言葉を使った方が簡潔だ。
「まあまあ厄介な性格だけど、孫を騙して化け物の餌にする祖父より、よっぽど信用できるわ」
「腹が立つのも分かるが、お前の為を思っての行動だ……ロドを許してやってくれ」
「『私の為』ですって!? 細切れになる寸前だったのよっ!?」
「ロドは『妖刀がなければ、救われない』と言っていた。たぶんお前の条件達成に、深く関係していると思う」
「それって、ブレイム殿下との婚約に『妖刀』が必要だってこと? ワケわかんない」
「詳細は隠されたが……『救世主OBの役割』を考えると、ロドは決してお前の邪魔はしない筈だ」
「『救世主OB』って?」
「救済主は条件を果たせば、処刑を免除される。しかし他の救世主が身近に現れた場合、その補助をする義務が生じるのさ……実はお前の事を、全て彼に話していた。だか結果的に大怪我を負わせてしまい、本当にすまない」
「……」
そう簡単には許せないっ!
でも2人は私の為に……これ以上、責め立てるのも違う気がする。
(それに、しおむすび……)
あれはまさかの祖父が握っていた(情報提供者・クガイ)。
空腹に耐えられず、帰り際にカブりついたおむすびは塩が多めだったけれど、とても美味しかったな……。
「もういいわよ、2人とも許してあげるっ! でも今後は、事前に相談や説明はして欲しい……お祖父様にも、そう伝えといて!」
「ああ。了解した」
「ところで……『せつな』は?」
これは何度も話題に上がっていた、妖刀の名だ。
『青黛乃 世紘』……その意味や由来は知らないが、ちょっと格好いい。
そんな彼が私を認めた理由を後日、ヤプが教えてくれた。
世紘は主に、人間が『裏(内)』に秘めた『負の感情』を餌とする、刀の形を模した化け物だ。
『対面・対話の儀』が実行される、数時間前――ロドは候補者である私のイメージを、彼に伝えていた。
先祖に由来した『魂』そのものが、主として認められていたロド。それに対して私は、得たいの知れない赤の他人でしかない。
世紘は初めから、新たな主を拒絶するつもりだった……しかし私の『裏』を知り、その場で生み出された、怒りや悲しみ等の『負の感情』が流れ着く先を見ていたという(情報提供者・ロド)。
(私の情緒をワザと揺さぶったのね……)
表がどんなに荒んでいても、裏が常に空っぽの人間が世紘を扱えば、大量に餌のストックが出来る。
つまり……感情を全てオープンにしている私は『食料庫』として、採用されたのだ。
(飲料水よりは、まだマシか?)
「奴ならセレクタント城の鍛冶場で、手入れを受けている。普段は他人を寄せ付けないが、今日は珍しく大人しいそうだ。これからは常に一緒なのだから、仲良くやってくれよな?」
「えっ! もしかして、持ち歩くの?」
スカートの中へ隠すには、少し長い気がする。
特に制服だと、不自然な膨らみも出てしまう。
「それは心配ない。形こそ変えられないが、本来の大きさから2、3センチ程度までなら縮小するらしいぞ? この世界で覚醒した能力だそうだ」
「そうなの? ……だったら私に、いい考えがあるわ!」
それから、約2週間後――。
「……」
彼はペンダント・トップとなり、私の胸元で静かに揺れていた――。
次回、第71話~王城でのお仕事(仮)~
25日か26日に投稿予定です。




