第69話~泣きたい昼~
「お腹へった……」
『対面・対話の儀』終了時の早朝から、丸1日以上が経過した正午――。
私は体の殆どを白い布で覆われ、自室のベットに寝ていた。
顔にもまだ、複数の切り傷が残っている。
でも『傷口が浅いので、すぐに治る』らしい。そこに関しては、正直にホッとした。
昨夜のセレクタント城――地下2階。
例の部屋を出ると、ヤプとユーセが私の出待ちをしていた。
最も怒りと拳をぶつけてやりたい相手は、早朝から仕事で不在。諦めるしかなかった。
「ご苦労だったな? ……服も体も、随分とボロボロだが、大丈夫か?」
「ライリー様っっ! 早急に処置を致しますっ!」
全身が、打ち身・擦り傷・切り傷だらけの私。そんな主を見た2人の表情から『焦り』が見て取れる。
(そりゃ、そうなるよね……)
医師による治療後――傷が消えるまでの1~2週間は、自宅療養を余儀なくされた。
コン、コンッ。
控えめに扉を叩く音……意外ではあるが、多分あの人だ。
「ライリー、私よ? お粥を作りましたの……入るわね?」
「お母様……今日から、伯爵(父)と出張では? あと、ユーセはどうしたのでしょう? 朝から、顔を見てないのですが……」
母親のラナンは語学が堪能で、父親の出張には通訳として、頻繁に同行をしてる。
「お仕事は他の方にお任せをして、私は残りましたの。それとユーセなら、下(地下)で薬の調合をしています。貴女に傷跡を残さない為に、昨日から寝ずに頑張っているのよ?」
「そうですか……」
私が原因で、ユーセは今日も寝不足だ。
ネムだって妖刀の安全性を確かめるべく、悪害の及ばない鞘を借り、色々と調べてくれている。
(ここまでくると、どう『感謝』をすれば良いやら……)
「さあ! 冷めないうちに食べなさい。貴女が回復しなければ、皆が休めませんよ?」
「はい……あのう、お母様?」
「どこか痛むのですか? 今、お医者様を……」
「いいえ。そうではなくて……その、食べさせてはもらえませんか?」
「……あら? そのような『おねだり』は、初めてですわね?」
「あっ、いいんですっっ! 18にもなって、可笑しいですよね!? どうかしていました……忘れて下さいっ!」
中身に至っては、とうに成人を過ぎているのに……私、変だ。
(これでは、子供と同じだわ!)
「……いいわよ?」
「へっ!?」
すんなり応じるラナンに、私は拍子抜けした。
「驚いていないで、ほらっ! 口を開けて」
「はっ、はいっ! ……美味しい」
冷まされたお粥を一口、飲み込んだ瞬間――。
全身の力が抜けて、安らぎに満たされる。
「ライリー……?」
「あっ!? ごっ、ごめんなさいっっ!」
悲しくもないのに、私は涙を流していた。
「……」
何も言わない母親。
あまりの『恥ずかしさ』に、彼女の顔を見る事すら、躊躇してしまう。
「――なっ!?」
体温を感じる……ラナンが、私を抱きしめていた。
「1人で怖かったのね? よく頑張ったわ。でもこれからは、あまり無茶をしないでね……」
(そうか……私、怖かったんだ。1人ぼっちの戦いが、辛かったんだ)
「……うっ、うっっ!」
母の温もりを借りて、私は泣き続けた――。
次回、第70話~採用基準~
明日か明後日に投稿予定です。




