第63話~衰退の恐怖~
「……はぁー」
「……」
「あぁーあ」
「……」
「うーん……」
休日明けの昼休み。
私は生徒会長のみが使用を許可されている執務室で、ひたすら溜め息を吐きまくっていた。
「……何なのっ!? 話を聞いて欲しいのなら、そう言えばいいでしょう!?」
親友のしつこいアピールに耐えきれなくなったアケビが、観念した様子で口を開く。
「だって、今日も貴女は忙しそうだし……『悪いかなぁ』と、思ってさ」
「そうよ! 私は今とても忙しいの! だから、早く話しなさい! どうせ『諦めて帰るつもり』なんて、少しもないんだしっ!」
「仰る通りです。スミマセン……あっ、そうだ! ユーセが昼食を作ってくれたの。一緒に食べない? 会長になってから、何時もクッキーばかりでしょ? ちゃんと食べなきゃ!」
「そうね……じゃあ、遠慮なく頂くわ」
お腹を鳴らしたアケビが、お茶を用意する。
私はユーセに持たされたバスケットから、種類豊富なサンドウィッチを、応接テーブルへ並べた。
「……ねぇ、アケビはどう感じた? 希薄な人間関係だと思わない?」
「そうかしら? 貴女が此処に来てから日が浅い事を踏まえれば、当然じゃない? それに皆、職を失ったと後も、生活があるのよ?」
「うぅぅ……」
それを言われると、肩身が狭い。
先週末――キュラス邸の話題は、主の見事な『戦闘シーン』よりも『フロレンヌの言動』に支配された。
『終わり』、『衰退』、『失業』等々……。
屋敷の至る所で、そんな言葉が耳に入る。
私の失態(下着姿での大立ち回り)により、ベイロッサ家のフロレンヌ嬢から、身分不相応のレッテルを貼られてしまった、キュラス家。
事態を重く見たアケビの働きかけで、キュラス家の使用人全員分の再就職先が、当日中に決まった。
その殆どは、クフェア家(ユーセ実家)とモンドリリー家(アケビ実家)が、受け入れてくれる。
ネムは……故郷の森へ帰るつもりだったが、王都に建築中の『占いの館』からスカウトされ、迷っていると言う。
ユーセは……父親の強い希望で、実家へ戻る。
クガイは……そもそも『軍の所属』だった。キュラス家には、派遣されていたらしい。
「それよりもっ! 伯爵夫妻にはどう説明をするつもり? まだ異国に滞在中で、今回の件を知らされていないのでしょう?」
「うん……どうしようっ!? 明日の午後には、港に到着するそうなの! 何て言えばいいっ!?」
(尋問は確定。それで済むのなら、まだマシだ……)
「お祖父様には? 相談をしたの?」
「真っ先にしたわよっ! ……なのにっっ!」
事件の翌日に私は助けを求め、セレクタント城を訪れていた。
「どうしたの?」
「……『軍には関係無い』と言われたわっ! 息子や孫の危機だというのに、信じられないっ!」
祖父のロドはキュラス家の出身ではあるが、クガイ同様、モスカトア軍に所属している。
従って、キュラス家が消滅しようがしまいが『無関係』だというのだ。
「しかも『行くあてがないのなら、お前も軍人として生きろ』だって!」
(そう言えば……彼にはまだ、教えていなかったわね)
ロドは私が生き残る『条件(ブレイムとの婚約)』を、たぶん知らない。
特に隠したい理由もなく、単純に教えるのを忘れていた。
「女性の軍人? この国では貴女が初めてじゃないっ!? そういうの、私は好きだな……」
「冗談でしょっ!? 軍人だよ? それに、家族や皆が離れ離れだなんて、余りにも寂しいじゃない……」
ソファーから立ち上がったアケビが、私の肩を叩く。
「そんなに嫌なら、ブレイムを射止めるのね? そうすれば貴女は死なずに済むし、王家の後ろ楯を得て、キュラス家はこれまで通りよ?」
「それはっ! そうなんだけど……」
結局はそこだ。
しかし『王子とのハッピーエンド』に勝算が見えていれば、最初からこうも頭を抱えてはいない。
(異世界だからといって、なかなか上手くはいかないものね……)
コンッ、コンッ。
「――!?」
熱を帯びた脳細胞に、ノックの音が響く――。
「どなた?」
「フロレンヌ・ベイロッサです。アケビ様……少しだけ、お時間をいただいても宜しいですか?」
(えっ? 彼女がどうして!?)
今日の午前中、フロレンヌは『お休み』だった。あの週末から、私と彼女は顔を合わせていない。
ただ……彼女はもう、私(キュラス家)に興味・関心がないのは承知している。
だとすれば、おそらく別の相談だろう。
(クラブ運営に関する事とか?)
『どうする? 断ろうか?』と、目配せをするアケビ。
『(入れて)構わないわ……私は関係ないと思うけど、今は特に気まずいから、身を隠すわね』
小声でそう返事をした後、私はタマゴサンド片手に、机の下へ潜った――。
次回、第64話~豹変~
明日か明後日に投稿します。




