第61話~トラウマ(ユーセ・クフェアという沼……その5前編)~
少し長めでしたので、その5を前・後編に分けます。
後編は11日の朝に投稿します。
「また邪魔をするつもりか? ライリー・キュラス!」
腰に剣を携えた取り巻きの1人が、舌打ちをする。
舞踏会でライリー達を執拗に追いかけた、あの騎士=用心棒だ。
「そう興奮をするな……ご令嬢に無礼であろう?」
用心棒達を退けて、1人の貴族が前に出る。
「手に持っているのは、武器でしょうか? 伯爵令嬢ともあろうお方が、信じられませんね?」
「そうかしら? 私から見れば、そちらの方が非常識で不愉快ですけど?」
「それはそれは……不快な思いをせてしまって、誠に申し訳ない。急遽決まった婚約のゆえ、どうか許して欲しい。そちらの伯爵には改めて説明に伺いますので、彼女を引き渡してはもらえませんか? 本人も、それを承知しております」
「……」
改めて、敵(貴族)を見定めるユーセ。
(物言いが丁寧かつ冷静なのは、子爵? それとも男爵? どちらにしても突発的ではなく、侯爵と巧妙に計画を立ててこの屋敷へ来ている……いえっ! それよりも今は、ライリー様をっ!)
『癒し』はどこへやら……彼女は大きく声を張り上げた。
「ライリー様、私は大丈夫です! (屋敷に)お戻りくださいっっ!」
一刻を争う事態。
とにかくユーセは、必死で訴えるしかない。
『あれほど釘を刺したのに……どうしてまた、寝巻き姿なの!? しかも、武器まで持っているなんてっ!』
まだ早朝とはいえ、万が一フロレンヌ(ハーロッジ家)がライリーの姿を目撃すれば、キュラス家は存続危機に陥る。
その昔……ありとあらゆる反対を押し切って『キュラス家に尽くす』と決めたユーセは、昨年の秋を思い出した――。
『新しいライリーと、キュラス家を頼んだわよ? ユーセ』
『ハイッッ!』
最後に交わした『元・主』との約束。
(何とかしないとっ!)
ただ……正義に満ちた猪突猛進系の『現・主』が、か弱い被害者の言葉を聞き入れる筈はなかった。
「何を言っているの!? 貴女が行く必要なんて、これっぽちもないわ! 必ず助けるからっ!」
「では、仕方がありません……お前達っ! 死なない程度に相手をしてやれ! 彼女も一緒に、我々と来てもらう。どうやらキュラス家にも、交渉が必要らしい」
「私は『人質』ってワケね? ……いいわ、受けて立ちますっ!」
「へへっ! 少しは、楽しませてくれよ?」
舞踏会でガラスの靴を浴びた2人と、大柄な男1人が、ライリーを取り囲む――。
◇◇
ほんの15分程前。
早朝訓練に外へ出てみれば、何やら遠くが騒がしい……。
様子を伺いつつ近付いてみると、舞踏会で絡まれたジジイ侯爵の取り巻き達に、ユーセが連れて行かれようとしていた。
『私は大丈夫』――そう強く遠慮をしているが、自分の気持ちを殺してまで余計な我慢をしてしまうのが、彼女の悪い癖だ。
今回ばかりは、それを許すわけにはいかない。
勿論、ユーセを渡すつもりもない。
(2人は隙だらけだわ……私を油断させる為かしら?)
「ライリー嬢……たったお1人で、どう戦うつもりかな?」
指示役の貴族が、余裕の笑みで私を見下す。
今日は両親やクガイに、ヤプ(出勤前)まで不在……だからそ、狙われた。
応援を呼ぶにも、広い庭園を挟んだこの場所からだと、声は届きそうにもない。
(それに、初見の大男……屋敷の兵士が束になっても、きっと敵わないわね)
『だとしてもっ!』
初めての実戦――。
人数的にも体格的にも不利だというのに、この状況を楽しむ、自分がいる。
「……来いっ!」
「やっとだ……あの時の借りは、返させてもらうぞ!」
舞踏会で相手をした男達が先に剣を抜き、私へ斬り掛かった――。
次回、第62話~トラウマ(ユーセ・クフェアという沼……その5後編)
11日の朝に投稿します。




