第6話~消えた主(ネムの葛藤その2)~
「申し訳ございません、ネムさん。今日は父も母も不在でして、私のもてなしでは至らないところもあるかと思いますが、どうぞ召し上がってください」
(スゴい、ご馳走……)
屋敷に到着後、想像以上の豪華な料理で歓迎をされたネム。
外見然り14才とは思えない程に礼儀正しく気さくな令嬢と、穏やかな使用人達のおかげで、身分不相応な食事も心から楽しめた。
「ネムさんは、どちらにお住まいなのですか?」
食後のティータイムで、紅茶の入ったティーカップをソーサーに置いたネムが、うつむき気味に答える。
「シンリョクの森ですが、家もちゃんとあります」
「シンリョクの森……確か『神秘的な緑』で有名ですね。しかし、とても深い場所に位置すると聞いています。国境も越えなければいけませんし、かなりの長旅ですよね? 目的地はどちらですか? 何処へでも馬車でお送りしますよ」
「いえ、森へ帰ります……『耳の形が普通ではない』のに、町へ出た私も悪いのです。気にしないで下さい」
「耳……ですか? 良く似合っていますよ? ネムさんのチャームポイントですね!」
澄みきった青空のような笑顔を見せる、伯爵令嬢。
晩餐終了後、ネムはキュラス家の使用人を志願した――。
「……」
出会いから3年が経過した昨日――主は消えた。
「壊れそうだよ……また助けてよ、ライリー」
複雑な悲しみに襲われる少女。
3年前のライリーが直してくれた、黒頭巾を握り締める――。
「ネムー! ドコにいるのぉー!?」
「……チッッ!」
今現在『最も聞きたくない声』が、直ぐそこまで迫っていた――。
◇◇
「あっ! 見つけた! こんな所で、何をしていたの?」
ライリー・キュラスとなった翌日――。
ヤプに居場所を聞き、私はクガイを連れて森へ入った。
目的はネムと話をする為だ。
子供が条件達成に役立つのかはまだ不明だが、私の存在(中身)が原因で、12才の心に傷を負わせたのは確かだ。
主……又は保護者として、無視はできない。
「そっちこそ、何しに来たの? この際だからハッキリ言うわ。私はアンタが大嫌いよ! 仕事はするけど、他は関わらないで! 鬱陶しいのよ……あっっ!」
強気発言の後に、何故か慌てて頭巾を被る少女。
(髪型がオフモードだから、恥ずかしいとか?)
「……何も言わないの?」
「『言う』って何を? 私が嫌いなんだよね? 理解したわよ」
「違う! そこじゃなくて……今、私の耳を見たでしょ!?」
「耳? ……ああ、自慢をしたいの? ハイハイ。可愛いー可愛いー、良く似合ってる!」
「えっ?」
「まだ足りない? 言われ慣れてるでしょうに……でも続きは後で! もうすぐ日が暮れるから、屋敷へ戻りましょう」
(直ぐに暗くなるわ。早く帰らないと! 来た道は確か、向かって右だったわね)
「右はダメっ! 獣が来るから、左の道を通って」
「あら? 『大嫌い』なのに、危険は教えてくれるのね?」
「別に……アンタの体を傷つけたくないだけ」
「ふぅーん」
(ヤバッ! 母性本能が開花しそう……)
エルフ耳のツンデレ娘が可愛い過ぎて、ニヤニヤが押さえられそうにない。
「もうっ! ほんっとに、鬱陶しい人ね!」
顔を赤くしたネムは、怒って先に行ってしまった――。
「……どう思う? クガイ」
「なかなか手強い年齢かと」
「思春期? こっちにもあるのね、懐かしいわー! ……ところでクガイ? 眼鏡を外してくれるかしら?」
『日暮れ時の視界悪化』を理由に、今日もイケメンは拝めなかった――。
次回、第7話~変態の境界線(いざ、舞踏会へ!)~
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