第59話~トラウマ(ユーセ・クフェアという沼……その3)~
平和な日々は1ヶ月も持たずに、ルタウからの贈り物が再開された。
前回よりも、数段増しの狂気。
クフェア邸から、使用人の悲鳴が毎日響く――。
ランダムに置かれる手紙や花束等に、不審火まで追加。
多くの衛兵を雇い、屋敷やその周辺を警戒していても、ごく僅かな隙を狙われる。
他の被害を含め、事態を重く見たモスカトア王国は、危険人物として『ルタウ・オルカットの資産全没収と国外追放』を決めた。
拘束・執行に国の役人と兵士がオルカット邸へと向かったが、そこには荒れ果てた屋敷が残されていただけで、ルタウの姿はなかった――。
「これだけ探しても見つからないとは……やはり、移動を繰り返しているのか?」
とある休日の午後――。
この日はイーサン・キュラス伯爵が、クフェア邸を訪れていた。
古くよりキュラス家とクフェア家には親交があり、ユーセの身を案じたイーサンが娘のライリーを連れて、様子を見に来たのだ。
「『娘の身を隠そう』と、一度だけ屋敷を出たのだが……移動の途中で、コレに襲われた」
ユーセの父親から手渡された、1本の矢。
その匂いを嗅いだイーサンが、舌打ちをする。
「毒(矢)とはな……」
「ああ。奴は狩りの名手でもある……御者と従者の命が奪われてしまった」
「ユーセ嬢は!? ……まさかっっ!?」
「大丈夫だ。しかし襲撃の日から部屋に閉じ籠ったまま、私にも顔を見せない」
少し間を取り、イーサンが口を開いた。
「なあ……この件、キュラス家に任せてはくれないか?」
「その気持ちはありがたいが、お宅を巻き込みたくはない。ライリー嬢もまだ、幼いしな……」
「『セレクタントに匿う』と言っても? 移動には、そこの兵士を同行させる」
「セレクタント城!? 軍を出す気か!?」
「そうだ。国王の了承も得ている」
「それは、願ってもいない申し出……ただ、本人が何と言うかな?」
「それなら問題ない。今頃、娘が交渉をしているだろう」
イーサンは自信たっぷりに、天井(2階)を見上げた――。
「ユーセ? 私よ……入ってもよろしいかしら?」
元・ライリー(9才)が、控え目に扉を叩く。
「……はい」
張りのない、乾いた声――。
「お邪魔しまーす……」
部屋に入ったライリーは、ベッドに座るユーセの顔を覗き込んだ。
「久し振りだね? 少し痩せたみたい……ちゃんと食べてる? 今日はね、お母様のケーキを持って来たの。一緒に食べましょう!」
「……ええ」
返事はあるものの、ユーセの目に正気は見えない。
「もしかして……ずっと泣いていたの?」
子供らしい直球の質問。
ユーセは体を震わせて、素直に頷いた。
「……じゃあ、もう泣かなくてもいいように、私の騎士を貸してあげる!」
ライリーの小さな手が、ユーセの頭を撫でる。
「騎士……ですか?」
予想外の提案に、ユーセの震えが止まった。
「そう! 誰よりも強くて、とっても優しいの! 特別よ!? ですから私とセレクタント城に来て! そこに居る彼が、必ず貴女を守ってくれるわ! いいわね?」
「えっっ!? あっ、ハイ……」
ライリー(子供)の勢いに圧倒された、ユーセ。
次は問答無用で、部屋に巨大ケーキと紅茶が運ばれた。
遅くなってしまい、申し訳ありません!
次回、第60話~トラウマ(ユーセ・クフェアという沼……その4)~
明後日に投稿予定です。




