第55話~春に咲く、狂気の花~
新学年、初日――。
馬車で出発した私とヤプを、春風が出迎える。
「でかっっ!」
やさしい色の草花に寄り添うのは、野球グローブサイズの紋白蝶。
日本の桜が恋しい……それでも異世界の春は、耐え難い目のかゆみや、滝のごとく流れ出る鼻水に悩まされる事が一切ないので、とても快適だ。
(花のいい香り……でも、最後の春になるのかな?)
『STOP! ネガティブ思考!』そう心得ていても、つい考えてしまう。
この異世界で私が生き残るには、救世主として与えられた『使命=条件』を達成しなければならない。
その条件とは、モスカトア王国の第2王子である、ブレイム殿下との婚約。
たが……その道のり(同意)は遥か遠く、関係は未だに友達止まりだ。
加えて、ターゲットは何者かに命を狙われている。お相手が死んでしまっては当然、条件達成は不可能となる。
(婚約は『他の王子でも可』らしいけど、王太子はブレイム殿下暗殺未遂に関わっているかも? だし、第3王子は留学中。第4に至っては、まだ子供なのよね……)
どう甘く見ても、順調とは思えない。
新たな一手が必要だ。
脳内整理が完了したところで、モスカトア・第一女学院が視界に入る。
(今日から新学年か……何だか緊張してきたわ)
この感覚は、何年振りだろう?
「行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい」
校門付近でヤプに見送られ、学び舎のある古城まで、足早に向かう。
やはりアレが気になって、気持ちが焦る。
1年毎に行われるクラス分け……これそこが、心拍異常の原因だった。
「あっ! 来ましたわっ!」
「ライリー様よっ!」
「道をあけましょう」
廊下に貼り出されたクラス表を背に、多くの生徒達が私を見るなり、ざわつき始める。
しかしどうしてか? 嫌な感じはしない。
(なんなの? それに少し、浮かれているような?)
注目を浴びつつ、顎を上げる。
視線の先にある7枚の羊皮紙には、名前が並んでいた。
(アケビは『19ー2』なのね。私は……)
「えっっ!?」
その現実に、思わず後ずさる。
親友と同じクラスに『ライリー・キュラス』の名は無し。
(『19ー6』……)
しかもよりにもよって、彼女と同じクラス。
私は少しの間、その場でフリーズした――。
「ライリー様っ! 窓際の席がお好みでしたよね? 私の隣がまだ、空いておりますわ!」
絶世の美女(恋敵)が、手招きをする。
教室の空気を察するに、拒否権はない。
私は無理やり広角を上げて『フロレンヌ・ベイロッサ』の隣に着席した。
「こうして『級友になりたい』と、心より願っておりました!」
「そうですか……」
これが前世でもたまに遭遇していた、女子特有の難所。
(スピーチ大会では、明らかに私を睨んでいたよね?)
アケビ曰く『フロレンヌ嬢の睨みなんて、見た事も聞いた事もない』そうだ。
それが何故、私に?
やはりブレイム殿下なの!? にしては、今さら感が……。
何か特別な事情があるとか? それとも企て?
真意を知るのが、ちと怖い。
「改めてまして……『フロレンヌ・ベイロッサ』と申します。これから、宜しくお願い致しますね? ライリー様!」
「『ライリー・キュラス』です……こちらこそ、お願いします」
「ハイッ!」
一瞬にして、笑顔の花が咲き誇る。
(美しい……だけれどもっ!)
そんなクラスメイトを前に、私はゴクリと息を飲んだ――。
次回、第56話~生徒会長との密会~
明日の早朝に投稿予定です。




