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第54話~お風呂タイム~

 キュラス邸――大浴場にて。


「うえぇぇーい」


 ジリジリと肌を()う痺れと熱に、ついつい唸ってしまった。

 これは『温泉の魔力』とも言える。

 異世界でも時に、心身を全解放させてしてしまうのだ。


 実は、温泉が有名なモスカトア王国。

 それを広めたのは他でもない、祖父のロドだ。

 無味無臭で無色透明の熱い温泉。効能は神経痛、皮膚病、創傷に打ち身等々……私と同じ日本からの転生者である彼が、この湯を気に入らない筈がなかった。


 キュラス邸は8帖程の内風呂だが、ロドの居るセレクタント城には、大きい露天風呂もあるらしい。


「まあ1人だし、唸ったって良いよね?」


「……『1人』じゃないわよ? そのダミ声は何なの? 気持ち悪いんだけど!?」


 脱衣場から、ネムが呆れ顔を覗かせた。


「げっっ!? ネム……いつもより早くない?」


()()()仕事を早上がりしたのよ。ユーセも直ぐに合流するわ」


「りょーかい」



 身体を丁寧に洗った後、ネムが湯槽に入る。


「熱っっ! どうして平気な顔で、貴女は入っていられるのよ!?」


「前の世界で慣れたわ。熱さを我慢してこそ、真の温泉()よっ!」


「はあぁ? 意味がわからないっ! それより……」


「何?」


 ネムは湯槽のへりに腰を掛けて、膝から下だけを湯に浸けると、軽くバタ足をさせた。


「えっと、良かったわね……」


「だから、何が?」


 目線を逸らした少女は、どうやらツンデレ全開のご様子。


「もうっ! 学年末テストよ!? 頑張ったじゃないっ!」


 そうだった……。

 つい昨日、学年末テストの順位が発表された。私は学年順位を、6位まで戻す事に成功。それもこれも、皆の協力ありきの結果だ。


 (お礼を言わないと!)


「ありがとう、ネム。ずっと応援してくれたものね……とても心強かったわよ!」


「別に……私は何もしてないし」


 ツンデレ娘が、すっかり真っ赤な茹でダコになった――。



「ライリー様? ネム? いらっしゃいますか?」


「うんっ! いるよー!」


 返事の後――湯煙から、ユーセが姿を見せる。


 (うっっ! 相変わらず、豊満な……)


 ユーセの裸は浴場で何度も見ているが、メリハリの効いた完璧なスタイルに、毎回言葉を失う。


「そんなに見ないで下さい……恥ずかしいです」


「羨ましいかぎりですな?」


「からかわないで下さいっ!」


「ゴメンナサイ……」


 最近は過度な運動(訓練)で、私の体はより引き締まった。

 だかそれは、バストも同様。


 (ユーセとの()が……毎日マッサージでもしようかしら?)



 暫くして――私は外気を求め、勢い良く立ち上がった。


「うぅぅー、熱いっ! さすがに長湯をし過ぎたわ! 先に出るわね?」


「えっ!? ライリー……それ、どうしたの?」


「ライリー様っ!? その傷や(あざ)は!?」


 私の裸をマジマジと見たネムとユーセが、怪訝な表情を見せる。


「ああ、コレ? ロドとの訓練よ……大したことないわ」


「ロドが? ちょっと、酷いんじゃない!?」


 ネムの機嫌が悪くなる。

 ユーセはショックを受けたらしく、固まっていた。


「あっ、誤解しないでね!? ロドには何もされていないのよ。寧ろひたすら攻撃を繰り返していたのは、私の方なの」


 木刀を与えられてから、3週間になる――。


『先ずは一度、私に当ててみろ』


 祖父(ロド)によるこの一言から、私の実戦練習は始まった。

 しかし何をどうしても、攻撃は彼にかすりもしない。

 勢い余って転んだり、柱や壁に体を打ち付けたり……傷や痣の全ては、自分で作ったものだ。


「そうですか……とにかく()()の前に、手当てをしないとっ! 痕が残ったら大変です!」


「ありがとう、ユーセ。助かるわ!」




 お風呂タイムと傷の手当てを終えて、夕食へと向かう。


「学年末試験……本当に、お疲れ様でした。今夜はお祝いをしましょう!」


 浮かれた母の声。

 私を出迎えたのは、笑顔の両親と、ご馳走だった。


 (死ぬ気でやって良かった……)


『テストの結果が出なかったら』と思うと、恐ろしい……。



 ともあれ、また明日から『条件(ブレイム殿下との婚約)』に集中ができる。


 謎や問題もまだまだ山積みだが、3日後には新学年=春だ。


『次の誕生日=秋……私は存在しているのだろうか?』


 不安を打ち消す様に、私はデザートの甘ったるいケーキを頬張った――。

次回、【第四章 求婚してみた】に突入!

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