第53話~学年末の憂鬱~
「経営で大切なのは、情報や知識……そしてアイデアです。それは多ければ多い程、私達の利益となり得ます。しかしながら……現状は身分の隔たりにより恐ろしく狭い範囲で、各々が異なる内容を往復させているに過ぎないのです! こうして今現在も、王城でスピーチをしているは貴族のみ……これは正常なのでしょうか? 私達の頭脳だけが特別なのでしょうか? 全国民が情報や知識を共有する事で、経済成長を促し、ひいては国の繁栄にも繋がる! そう私は確信を持って、ここに断言いたします!」
だいたいこんな感じ……だったかな?
今のはスピーチ大会で、最優秀賞者の原稿を一部『切り取り』したものだ。
王国への挑発とも取れる内容だか、アケビ・モンドリリーは2位にポイントで大差をつけて、頂点に立った。
大会後の会場には、興奮の冷めない貴族が大勢残っていたが、銀髪王太子は手短に挨拶を済ませ、早々にその場から立ち去った。
安全を考慮すれば当然の事でも、後を追うエデル(子供)の名残惜しそうに手を振る姿を見ると、何となく可哀想に思える。
「おめでとう! アケビ。にしても……ちょっと攻め過ぎじゃない? 聞いていて、焦ったわ」
私の感想に、アケビは笑みを浮かべる。
「私もそう考えたわ。でもミラ(紫)さんに『ありきたりだと埋もれる』って、助言をされたのよ。私も最終予選では、自分の意見に蓋をして鬱憤がたまっていたし、思い切って勝負に出たの」
(まあ確かに『本大会で選別はしない』と聞いたけれど……本当に大丈夫なのか?)
「おめでとうございますっっ! アケビ嬢!」
私の心配をよそに、まほ研一同の頬は涙に濡れていた。
「皆さん、本当にありがとう。私だけではとても成し遂げられなかったわ……」
アケビも涙を拭う。
(……なんかいいなぁー、こういうのっ!)
努力が報われる――これ実は、超・難易度が高いと思う。
どんなに練習をしても、遠かった全国大会。
どんなに対策を練っても、失敗に終わった就職活動。
どんなに働き、金を貢いでも、手に入らない愛しの彼。
そんな過去を持つ私には、強い情熱と努力を実らせた親友が誇らしく、キラキラと輝いて見えた。
(とにかく良かったっっ!)
「日も落ちますし、そろそろ帰りましょうか? ライリー様」
「……そうね」
ユーセが帰り支度を始める。
その背中から、少し寂しさを感じた。
彼女も祈るようにアケビを応援していたので、きっと喜びを爆発させたかった筈……。
大会後には、王城にて毎年恒例の打ち上げ(パーティー)が行われるらしいが、今年は中止となった。
私だって『長く喜びに浸りたい!』気持ちは大いにある。それに疑惑の王太子へ近付くチャンスを逃した点についても、かなり残念だ。
別れ際、まほ研一同と前を歩いていたアケビが振り返る。
「これで明日から、勉強に打ち込めるわ! 私はまたキュラス邸に泊まり込むから、伯爵に宜しく伝えといてよ!?」
「えっ!? なん……」
「学年末テストっっ! 後2週間もないけど、放課後から寝る直前まで、貴女に全力で付き合うわねっ!」
学年末テスト。
すっかり忘れたフリをしていた。
(やはり『見逃し』はなしか……)
キュラス家(親)の面子もあるので、二度目のしくじりは許されない。
自分で落としまくった成績順位を、元・ライリーの定位置である学年10位以内まで戻さなくてはならないのだ。
「ハイ……頑張ります」
条件の期限まで、残り約8ヶ月弱――。
私は自分の命よりも、ひとまず学業を優先させる事にした。
次回、【第三章完結】第53話~お風呂会議(仮)~
次の日曜日に投稿予定です!




