第51話~スピーチ大会(中編その2)
『詰み』
行き詰まり、どん詰まり、手の打ちようなし、終了、おしまい……そんな状況をこれまでに2回程、私は経験済みだ。
1回目は最初の『生』にて、死ぬ寸前――。
目の前に暴走車が迫った瞬間、それを感じた。
2回目は次の『生』にて、自分が助からない病気だと理解をした時――。
心優しい主(人間)に恵まれ、ぐうたら牧場生活を満喫しようと決めた矢先に、誕生からたった1年でそれを受け入れた。
そして迎えた3回目。
今回は『完全なる詰み』だ。
この時期……殿下暗殺未遂事件から日が浅い。
この場所……王族が使用していたベッドの下。
この体勢……うつ伏せで隠れている。
言い逃れのしようがない状況下で、ブレイムの元・自室を訪れた、オブジュ王太子に発見される可能性は特大――。
不法侵入に運が悪ければ暗殺未遂まで罪状が加わり、たとえブレイム殿下に庇ってもらえたとしても、長期間の牢屋は確実だ……。
つまりは条件未達成という事で神的な? 力により、私は処刑される。
生まれ変わり(転生)の使用回数は既に残っていない為、これで永遠に『生』を失う。
(それはそれで仕方がない、でも……)
問題は隣で共に息を潜める、クガイ・セマムだ。
今のところ、私が条件(ブレイムとの婚約)を達成する可能性は低い。これは計画不足がもたらした自分の落ち度であり、死の訪れは何時でもそれなりに覚悟している。
しかしクガイはそんなポンコツ主の使用人であったが為に、不運にも私の『詰み』に巻き込まれた。
彼の場合、過去や今現在の身分から、処刑台へ送られるに違いない。
(こうなれば、私がっっ!)
1人で罪を被ろうと顎を上げた瞬間――クガイが私の腕を握り、オブジュの足元に顎を向ける。
(へっ? 動いてない!?)
入室後の『此処か……』から、オブジュ王太子に動きはない。
ベッド下は覗かずに、足の位置すらそのままだ。
(……はっ!? 今度は何っ!? 何なの!?)
それからすぐに、頭上から小さく軋みが聞こえる。
彼はブーツを脱ぎ、ベッドに乗ったのだ。
「やはり、残されてはいないか……」
約10分後――。
小さく溜め息を吐いてから、オブジュはブーツを履き直すと、足早に部屋を後にした。
「……」「……」
足音か遠ざかるのを確認した私とクガイは、ようやく窮地から解放される。
「痛っっ! 全身ギッシギシだわ!」
体を伸ばしたと同時に走ったその激痛から、思っていた以上に緊張していたのが分かる。
クガイはまだ、扉に耳を当てていた。
「どうにか助かりましたね……しかし何の目的で、王太子はこの部屋を訪れたのでしょう? ベッドの上では、何やら探し物をしている様に感じましたが」
「そうね、探し物は正解だと思う……それもたぶん、私達が求めているモノと同じかな?」
「えっ、手掛かりがベッドに!?」
「そう……『まだ、あるかもしれない』と屋敷を出発する直前に、ユーセから頼まれていたの」
「それは一体……あっ、もしや『髪の毛』ですか?」
「正解っ! 呪いを受ける前の髪が欲しいのですって。それで使用された魔法の痕跡を調べてみるそうよ? まあまあ時間が掛かるらしいけどね……ついでに失敗もあるみたい」
私はブレイムの髪を探す目的で、王家の住居棟に侵入した。
呪いを受けた後の髪では『過去の痕跡』が消えてしまい、何の情報も得られないらしい。
「しかし……」
「うん。王太子が探しても結局見つからなかった……清掃が入った後だし、当たり前よね?」
「それはそう……んっ? あのう、ライリー様? 少しだけ動かないでください」
妙に落ち着いたクガイが、私の口元へ顔を寄せる……。
「なっっ!?」
急な男性のドアップに、私はすっかり動揺してしまった。
「……取れましたっ! こちらを御覧いただけますか?」
口角を上げたクガイの指に捕らわれた、1本の髪の毛。
「きっ、金髪? ……って、ブレイム殿下のっ!?」
「ええ。おそらくベッドの下へ隠れた際に、付着したのかと……」
「ありがとう、クガイ……」
どうして……今?
私の心臓はそれはそれは大きく、音を立てていた――。
次回、第52話~スピーチ大会(後編)~




