第50話~スピーチ大会(中編その1)~
「へっ? 窓から出るの!?」
(アケビ専用)控え室の隣にある、椅子1つ置かれていない、がらんどうの部屋。
そこで窓を指差すクガイに対し、再度確認を取る。
「はい……私は正規ルートで、ブレイム殿下の自室があった住居棟へ入ります。ライリー様は中庭を通って、今は使用されていない使用人専用入り口まで来てください」
「城の真ん中を突っ切るってこと? 見つからないかしら?」
公園並みに大きい中庭だが、他に誰も見当たらないし、やはり目立つのではないだろうか?
「これが邪魔も少ない最短ルートなのです。それに今なら兵もまだ配置についておりません。もし見つかったとしても『迷い子の案内をしていると』誤魔化しが利きます」
「ふぅーん……迷子ねぇー?」
「そっ、それはっ! 例えばの話でしてっ!」
超高速で首を横に振るクガイ。
瓶底眼鏡越しでも、焦っているのが見てとれる。
「……まあいいわ、時間もないから行きましょう!」
気合いを込めて、私はスカートをたくし上げた。
「ここがブレイムの……」
目的地到着後――口を開けたまま、その広さに目を見張る。
ソファーに机……そしてブレイムがつい最近まで寝ていたであろう、キングサイズのベッド!
(1人だったら、即ダイブで『残り香』を堪能しまくっていたわ……)
「事件当日と翌日にセージと私で散々調べましたが、手掛かりは何も出ませんでした」
「まあ、そうよね……」
(せめてネムが居れば、何か感じ取れたかな?)
捜査&引っ越し済みの部屋に、探偵でも刑事でもない私が来たところで、なんの意味も無い。
にも関わらす、わざわざ『手掛かりを探す』とブレイムに嘘をついてまでこの部屋へ入ったのは、ユーセに『あるお願い』をされたからだった。
「……誰っ!? クガイ、誰か来る!」
やや遠くで小さく1つ、足音が響いた。
(この部屋へ向かっている!? しかも、忍び足で?)
「えっ、まさか!? 此処への無い立ち入りは禁止されている筈です」
「でも間違いなく、足音がハッキリ聞こえたわ! 誰にしても、ひとまず隠れなきゃっっ!」
「ハッ、ハイッッ! では『こちら』にっ!」
私達は、キングサイズのベッドの下に並んでうつ伏せになり、迫る足音に耳をすませた――。
「……来たっ! 来たわよっっ!」
『シッッ! ライリー様、大きな声を出さないでくださいっ!』
映画ばりのスパイ的状況に興奮する主(私)の口元を、使用人が押さえる。
「ガチャリ」
静に開く扉――。
(身分と背は高そうね?)
足元を見る限り、それは貴族男性だと分かった。
『ブーツの紋章に、長いマント……王族です』
ゴクリと息を飲む、クガイ。
『えっ? なんだ……ブレイムなのね?』
(私達の様子を見に来たのかしら?)
『いえ……おそらく『オブジュ・ハーロッジ』様です』
『オブジュって……王太子!?』
ブレイムの兄でもある彼が、どうしてこの部屋に?
『――!? やっばっっ!』
「此処か……」
何の迷いもなくオブジュのつま先が、真っ直ぐ私に向けられた――。
次回、第51話~スピーチ大会(中編その2)~




