第49話~スピーチ大会(前編)~
長く厳しい冬が終わり、春の訪れを告げる南風が吹く頃に、それは開催される。
王国主催の『学生スピーチ大会』だ。
アケビは約束通り、最終選考を突破。
私を応援団の一員として、本大会……つまりは王城へ招き入れてくれた。
最終選考は『戦争と魔法』がテーマで、内容次第では最悪社会的に干されるリスクまである、非常にキツい戦いだった。
しかし『魔法研究クラブ』協力の元、見事に国が理想とする文章を作り上げ、アケビは決勝に駒を進めた。
「アケビの控え室は……つか、誰か居ないのっ!?」
王城のロビーにて――私はユーセと一緒に、出場者の控え室を探す。
舞踏会では案内役の使用人が多く居たのだが、本日は1人も見当たらない。広く豪華なロビーには、虚しく私の声だけが響いていた。
(まあ、動くには都合がいいか……)
「アケビ様の手紙によると……あっ、ありました! おそらくあの通路を入った先に、部屋があるはずです」
「ライリー嬢っっ!」
頭上から少年の声が聞こえた。
「えっ、エデル様っ!?」
ブレイムの弟……第4王子のエデル殿下だ。
勢い任せに階段を駆け下りる、ミニ王子。
「エデル様、お久し振りでございます」
「今日は制服なの? ライリーらしくないね」
不満げな顔を見せる、エデル。
「これが本来の私ですっ! 普段からあの様な姿ではありません!」
「冗談だってっ! それより……」
辺りをキョロキョロと見渡す。
「ネムですか? 今日は連れて来ていませんよ?」
「そうなんだ……」
彼は分かりやすく落ち込んだ。
ネムはつい昨夜まで同行をさせる予定だったが、やはり「危険」だと断念した。
ブレイムに呪いをかけた犯人は、おそらく力のある魔術師(魔法使い)。
間接的とはいえ、自分の呪いをうけた彼女を見れば、犯人にその正体が(ネムも魔法使いだと)バレるかも知れない。
(それにあの子は今、彼氏持ちなのよね……)
『二股』はよろしくないっ!
過去に十二股(執念で数えた)をされた私は、ネムにそんな非道を歩ませたくはないのだ!
「エデルッ!? また抜け出したのか? こんな所で何をしている!? 『部屋で待っていなさい』と言われていただろう」
エデルを叱る声。
しかし今回は、ブレイムではない……艶やかな白髪を肩まで伸ばした男性だった。
皺はあるが肌は白く、整った顔立ち。
その上品な雰囲気から、上級貴族なのは間違いないようだ。
「ごめんなさいっ! 友達を見つけたから、つい……」
「城内においても、単独での勝手な行動は慎みなさい! お前にまで何かあったらどうす……!?」
男性が私を見つめる。
「もしや……ライリー嬢ではないか?」
「えっ? あっ、はい。お久し振りです」
『……って、誰?』
『テリップ・ハーロッジ様です』
耳元にユーセの息がかかる。
(確か、国王の弟……ブレイムやエデルの叔父さんよね?)
「何年振りだろうか? 素敵なご令嬢になりましたね……ブレイム(甥)の話は私も聞きました。迷惑を掛けて、誠に申し訳なかった」
「いえっ、当然の行動をしたまでですっ! それよりあのっ、ブレイム殿下は体調不良で急遽欠席とお聞きしましたが、大丈夫なのでしょうか?」
「なぁに、心配には及びません。元気にしていますよ? あの後ですから、今回の行事参加は見送りました。本人は出席を強く望んでいましたが、また狙われるやも知れませんし……国王と私の判断です」
「そうですか……私も、今日の出席は見送るべきだと思います。安心しました」
「だが王太子とこの子は出席をする為、王家は厳戒態勢で警備にあたる予定です。誤解を招くので、ライリー嬢もあまり歩き回らないようにお願いしますね」
長い歴史のある大会……王家の人間が1人も出席しないとなると、それだけで大騒ぎになる。
国王はロドを連れて他国へ『訪問中』で、第3王子は『長期留学中』だと、事前にクガイから聞いていた。
「ほら、エデルッ! 早く部屋へ戻りなさい! 私も一緒に行く……ではライリー嬢、失礼いたします」
「あとでねぇー、ライリー!」
テリップとエデルはその場を去った。
それから数分後――やっとたどり着いた、控え室のドアをノックする。
(この世界のお城って、廊下が無駄に長い気がするのよね……)
「アケビ? 私、ライリーよ」
「どうぞ……」
個別に用意された、出場者の控え室。
室内ではアケビに加えて、まほ研お馴染みの4名がスピーチの最終確認をしていた。
「やっと来たのねっ!」
呆れ顔のアケビ。
「ごめんっ! ネムが『行く!』と聞かなくて……」
「まだ(時間に)余裕はありますよ。間に合って良かったです」
まほ研クラブ長のミラ(紫)が、ライリーに微笑む。
「ごきげんよう。ミラ、アルデ(青)、ラヴ(緑)、フランソワ(黄)! 今日までアケビに力を貸してくれて、本当にありがとう」
「大事なのはこれからです。本戦はこれまでとは違い、文章の構成に、引き込み、息つぎや滑舌等、より高い技術が必要となります。準備に不備はありませんが、ギリギリまで更に細かい調整をしなければ!」
そう……本番はこれからだ。
アケビにとって、今日は最大のチャンス。
最優秀賞を獲得すれば、飛び級で次期(来年度)生徒会長の座が約束されるに違いない。
この大会での勝利が、彼女の目指す政治への第一歩となるのだ。
「そうよね……だから私達も気合いを入れて、横断幕を準備したわ! ユーセ!」
「はいっ!」
「おうだんまく?」
首を傾げる、アケビとまほ研一同。
そんな彼女達の前で、私とユーセは1枚の布を広げた。
大きく刺繍された『頂点!!』と『アケビ・モンドリリー』の文字。それをぐるりと囲むのは、学院のクラスメイトや彼女のファンによる応援メッセージだ。
「すごい……本当にありがっ」
アケビの声が詰まる。
「(泣くのは)まだ早いからっ!」
「うん! 涙は頂点に立ってから、好きなだけ流すっ! それではライリー……」
「ん? 何?」
私はアケビに耳を寄せた。
『クガイが隣の空き部屋で待っているわ。もうすぐ招待客が来る時間よ。警備がより厳重になるから気をつけてね』
そうだ……私には応援の他に『極秘任務』があった。
『ブレイム殺害未遂事件』の犯人に繋がる、手掛かりを探りに来たのだ。
本戦開催まで、後30分強――。
それまでにブレイム殿下の元・自室へ忍び込む予定だ。
勿論、本人には了承済み。
安全の為、今は自室を別の部屋へ移しているらしい。
「私は(調整の)邪魔になるから、少し出るわね。ユーセ、お茶をお願い」
「お任せください! アケビ様。喉を広げて潤いを保つ、特別なお茶をお持ちしました。直ぐに用意をしますね」
ユーセが手荷物を広げる。
「じゃあ……頑張ってね、アケビッ!」
「ええ、貴女もほどほどにね。無理はしないで」
「分かったわ!」
私は控え室を出で周囲を注意深く見渡した後、隣の空き部屋に入った――。
次回、第50話~スピーチ大会(中編その1)~




