第48話~恋の行方(クガイ・セマムの忠誠心その4)~
「ねえ、クガイ? 声を聞かせて」
「……」
「聞いてますの!?」
「……」
このやり取りを毎日……今日で9ヶ月になる。
獄中生活2年目――。
クガイの存在を知った1人の少女が、毎日地下牢へ遊びに来ていた。
「もうっ! 今日はプレゼントを用意しましたのにっ!」
ロドの孫でもあるライリー・キュラス(10才)が、頬を膨らませる。
「……」
何を言われても、口を閉ざしたままのクガイ。だが最近はこの小さな訪問者に、凝り固まっていた心がほぐされつつあった。
「コツ、コツ、コツッ――」
暫くして、階段から靴音が響く。
「誰っっ!?」
現れたのは1人の男――。
「やっと見つけた……ロドを殺すのは無理だとしても、その孫ならばっ! お嬢ちゃん? 悪いが、死んでもらうよ」
ボロボロの軍服……クガイが見慣れたデザインだ。
その手には、しっかり剣が握られている。
「……」
(祖国の兵士、生き残りか? しかし……)
「子供は関係ないだろう」
少年クガイが、約1年8ヶ月振りに口を開く――。
「貴方は……クガイ様!? 娘の始末を終えた後、直ぐにお助けしますっ!」
「彼女に手を出すな」
「それは聞き入れられません。憎きロドの血は、1つでも多く絶さなければっ!」
ライリーの首を狙い、男が剣を振り下ろす。
「すまない……少しだけ、我慢をしてくれ」
「――うっっ! クガイ様、どうし……」
その場に倒れる男。
牢屋を出たクガイが、たまたま側に落ちていた木刀で、男の腹を突いていた。
「……」
ライリーは何故か、少しも動じていない。
「まあ合格だな……クガイ・セマム」
拍手をしながら登場したのは、ロド・キュラスだった――。
「なぜ鍵を掛けなかった? 逃げても良かったのか? それにこの男……わざと招き入れただろ?」
実はクガイが地下へ入った初日から、牢屋の鍵は常に開いていた。
「やはり勘づいていたか……鍵は逃げないと分かっていので掛けなかった。それより相変わらずその『魔法』は、安定しないな?」
「私の力(魔法)まで知っていたのか?」
クガイは自分が魔法使いだと、家族や婚約者にも教えてはいなかった。
「目の動きを見れば一目瞭然だ。だがお前は、それに頼りすぎている。攻撃がスピードに乗らず、威力が半減するのはそのせいだ」
「知っていたさ、でも……」
「『師』がいなかったか……ならば私の元で訓練を受けろ。強い剣士にしてやる」
「……」
「親の仇だから嫌か? ならば強くなれ、クガイ! 今は私の命を奪おうとも、勝負にならんぞ?」
「……チッ、分かったよ」
本人の言う通り、クガイの剣術レベルでロドは殺せない。彼に報復をするのであればプライドを投げ捨ててでも、此処で教えを受けるしかなかった。
「ならばライリーからの贈り物を受け取るとよい。少々古いものだが、掛ければ流れが戻る……後、言葉に気をつけろ。お前の主である私の命令は絶対だ」
「……承知しました」
「はいっ、どうぞー! 差し上げますわ!」
「あっ、ありがとう……」
笑顔で包みを渡すライリー。
クガイは久し振りに、口角を上げた。
◇◇
「そう、クガイにそんな過去があったの……」
ホットミルクの甘い匂いに、安らぎを求める。
恒例となった、週末の女子会。
話題の対象はまだ、王城から帰っていない。
今日はユーセとネムが参加。
アケビはスピーチ大会の準備に追われ、最近はキュラス邸に来ていなかった。
口数が少ないのも、過去が原因なのか?
昔はわりと『陽キャ』だったみたいだし、婚約者だって……婚約者っ!?
「ねえ! クガイの婚約者は!? まさか……」
その恐怖から、声が詰まる。
(恋人まで失ったというのっ!?)
「婚約者? ああ『ビオラ』のこと? 今は王都に住んでいるわ。そうよね? ユーセ」
「ええ……『グリーンティー専門』のお店を経営しています」
そう小さく答えたユーセは、空になったカップをトレーに置く。
「へ? 生きているの!? 良かった……クガイは結ばれたのね!」
まさか既婚者だったとは……クガイめっ! 肝心な事を言わないなんてっ!
「別れたわよ?」
「……は?」
「戦争の後、二人は婚約を破棄したの」
「えっ、何でっ!?」
「それ聞いちゃう? 実はね……」
部屋を出るユーセを確認したネムが、声を絞る。
「……うわぁぁ」
彼女から事情を聞いた私は、両手で口元を覆った――。
自国民(お世話になっている村)への攻撃に猛抗議をしたビオラは、貴族であるにも関わらず、村の女性や子供同様、祖国の軍に捕らわれた。
他国へ売られる寸前――彼女達を救ったのが、祖父のロドだ。
彼はたった1人で、30人近くの敵兵を相手に圧勝。
捕らわれていた全員を解放した。
ネムの話によると、ビオラはそこで『心を奪われた』という。
そう……婚約者が敵国の騎士を好きになってしまい、クガイはあっさりフラれたのだ。
正直者の彼女は、セレクタント城の地下牢でクガイに全てを打ち明け、婚約破棄を告げたらしい。
それから数ヶ月後に、ビオラはロドへ告白をしたそうだが、そちらもあっけなく断られた。
祖父は『病死をした妻(祖母)を今も思っている』と答えたとか。
しかしどうしても諦めきれなかったビオラは、王都に『緑茶専門店』を開く。
緑茶にこだわりのあるロドと、定期的に会うためだ。
(クガイ……)
「この事は私とユーセしか知らないわ。前にクガイの過去が見えてしまって、詳細をユーセから聞いたの」
「そうなんだ」
「それにたぶん、ユーセもロドを……」
「げっ! ユーセまで!?」
「あくまで私の『勘』だけど」
ネムの『勘』は普通のそれとは違い、おそらく事実だ。
しかもよりによって、私の祖父とは……。
顔も悪くない。
騎士としても最強。
だけれども……まだ50代(しかも見た目が若い)とはいえ、大きく年の差がある彼の一体何が、彼女達を惹きつけるのだろうか?
『……うんっ! 全部、聞かなかった事にしよう!』
それが最も面倒に巻き込まれない……モテ男の孫である私は、そう判断した――。
次回、第49話~スピーチ大会(前編)
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