第46話~終わりの始まり(クガイ・セマムの忠誠心その2)~
国王の許可を得て、ロドはセレクタント城の地下独居房へクガイを収容した。
「話をする気になったら、看守に声を掛けろ」
(まだ子供だ、直ぐに根を上げるだろう)
そう告げてから、1ヶ月、2ヶ月、半年、1年……。
ロドの見立てとは逆に、クガイが口を開く事はなかった。
「……」
この1年――少年は無気力だった。
『生死を考える事すら無駄だ』と感じる程に、空っぽな精神状態だったからだ。
『こうしていても、何一つとして戻らない。誰か処刑してくれないかな……』
その昔――。
小国ではあるが侯爵家第1子息だった少年クガイは、将来を約束されていた。
産まれは名門貴族で、婚約者も侯爵令嬢。
既に完成された美しい容姿に加えて、賢く剣術にも長けていた。
しかし彼が13才の時、この現状に疑心を持ち始める。
キッカケは、突如覚醒の『魔法』だった。
『時間魔法』――。
ふとした瞬間に、周囲を流れる時間が鈍化する。
集中力を保てば、長時間それが続いた。
身の安全を考慮して誰かに打ち明ける事はしなかったが、最初はそれなりに魔法を楽しんでいた。
アクシデントは全て回避。
剣の訓練でも上級生を圧倒、校内で1番の実力者と認められた。
そんな快適な生活を続ける事、数ヶ月。
ついには内緒話……つまり他人の口の動きが完璧に読めるところまで、魔法の力が身についていた。
そんなある日のこと――。
視察(社会科見学)で王都から地方へ出た際に、クガイは国民の『現状』を知ってしまう。
国民から得た情報に、少年は戸惑った。
安全は制圧から。
裕福は借金と税金から。
幸福度は情報操作から。
何もかもが誰かを虐げて成り立っている社会――国そのものが、もはや偽造に思えた。
祖国の闇は『正義感、絶頂期』の少年が行動を起こすのに、十分な動機となる。
クガイは先ず、尊敬する父親に話をした。
「ですから父上、国民は苦しい生活を強いられています! 陛下に報告をして解決策を……」
「お前は何を言っている? クガイ。苦しい生活? それなら陛下もご存知だ。まだまだ労働が足りないからそうなる。自分達の自業自得だろ」
「いえっ、我々が多くを求め過ぎているのです! 税金を軽減すれば、国民が餓死する事もありませんっ!」
「それでは私達の生活水準が下がるぞ? 舞踏会も高価な服や食事も我慢をしなければならない。それでは困るだろう?」
『話にならない……』
クガイは初めて父親……というより、国との間に高い壁を覚えた。
「あっ、クガイ様!」
「おっ!? 今日も来たのか!」
「クガイお兄ちゃん、遊んでっー!」
父親との対立を境に、クガイは時間の許す限り貧しい村や町へ出向いた。
そこで商売や農業を覚え、お礼に子供達へ勉強を教える……国民と時間を共有する事で、国の問題解決への糸口を模索していた。
たが一方で、父親とは喧嘩の日々。
他の貴族(大人)に対しても、何をどう訴えようと誰も聞き入れてはくれなかった。
数ヶ月後には、すっかり厄介者だと認知されたクガイ。彼の周囲から友達を含め、貴族は居なくなっていた。
「はあ……」
15才になったクガイが、畑を耕しながら息を吐く。
「あら? また喧嘩ですか?」
「ああ……昨日は皿が飛んできたよ」
「それは偶然ですね? 私もです! 皿ではなく、書物でしたけれど」
そうクスクスと笑う1人の女性。
婚約者の『ビオラ・アデレート』だ。
幼馴染みでもある彼女だけは、決してクガイの側から離れなかった。
村の農作業ですら文句も言わずにニコニコと笑顔で手伝ってくれる、5つ年上の心優しい婚約者。
「……また婚約解消を迫られたのか? すまない」
「父も貴方のお父様も間違っています! 私は貴方と一緒に、この国を……人々の生活を変えたいのです!」
例えるならば、太陽や向日葵。
彼女が隣に笑顔で居てくれるだけで、クガイは自分の行動に自信が持てた。
それから間もなくして、国の運命が大きく変わる事件が起こる。
クガイが主に通っていた村の1つが『反逆を目論んだ』として、自国軍から攻撃を受けたのだ。
ただ高品質の作物を育てて、知名度を上げただけなのに、村は襲われた。
『平民が富や力を持つ事は許さない』そんな身勝手な理由で――。
「……畜生っっ!」
襲撃当日は父親によって、自室に閉じ込められていたクガイ。
翌日に到着した時には、村が消えていた。
そして村への襲撃から3日が経過した、正午過ぎ――。
国は何の告知も無しに、隣接する大国のモスカトア王国から、総攻撃を受けた。
理由は『モスカトア国王妃の死』――。
それは祖国の体たらくが生んだ、まさに悲劇だった。
次回、第47話~最後の悪あがき(クガイ・セマムの忠誠心、その3)~




