第45話~偉大なる仇敵(クガイ・セマムの忠誠心その1)~
「……フゥー」
夕暮れ時の空を仰ぎ、誰にも見せずに小さく溜め息を吐く。
ライリー専属使用人兼護衛役のクガイ・セマムは、今日も王城で1日を終えた。
会議につぐ会議……『ブレイム・ハーロッジ殿下暗殺未遂事件』以降、召集は格段に増えている。
但し王城召集を命じられているのは、クガイだけではない。各家(貴族)の警護長や警備責任者、その殆どが対象だ。
「やっと見つけたかと思えば、溜め息かよ!? そんなにライリー嬢のお側に居たいのかねぇー、眼鏡君?」
ブレイム殿下の従者であるセージが、クガイをからかう。
「別に……」
クガイは一切の動揺を見せず、視線を正面へ戻した。
無口で人見知りのクガイと、強面に似合わず気さくで人懐こいセージは、昔ながらの戦友だ――。
合同訓練や戦争で何度も行動を共にしている内に、互いを認める関係が成立している。
「おい見ろ、クガイ。国王陛下のお出ましだ! お前の師匠も一緒だぞ? 今日もこれから晩餐会の護衛らしい」
国王が乗る馬車に続き、ライリーの祖父でもあるロド・キュラスが、馬上にて城門をくぐる。
モスカトア軍の総帥――彼の主な仕事は、戦争の指揮と国王の護衛だ。
国の運命を任せるまでに、国王はロドへ絶対の信頼を置いている。
戦争の功績は元より国王とロドもまた、身分を越えた親友であることが大きい。
「……」
ロドがクガイに目配せをする。
この合図は単純に『孫を頼む』という意味だ。
(承知しました)
クガイは軽く頭を下げて、師匠を見送った。
「……どうした、クガイ? 何時まで見送りをするつもりだ?」
「……」
「おい? おぉーい?」
手を振るセージが視界へ入っても微動だにしない、クガイ・セマム。
師匠の背中を見る度、彼はどうしても15才の夏を思い出してしまう。
国、家族、友人……そして婚約者。
一夜にして、全てを奪った男。
ロドはクガイにとって、今も偉大なる仇敵だ――。
◇◇
「……死んでも尚、私を恨むか? ならば弱き自分自身を恨め、小僧」
その昔――剣先で少年クガイの鼻をつついたロドは、そのまま片手に持つ大剣を振り下ろした。
「――何っっ!?」
「ハァ、ハァ……」
最強剣士の攻撃を、15才の少年がいとも簡単にかわしてみせる。
(馬鹿な……私の剣を見切ったというのか!?)
剣を両手で構え直したロドは、もう一度クガイの首を狙う。
2回目はパワー、スピード共にフルに近い状態――しかし大剣は、地面のみを空しく捉えた。
「チッ……これでも駄目か」
「死ねぇぇぇー!」
呆然と立ちつくすロドの腹に、クガイのナイフが刺さる。
「小僧……お前は何者だ? 人間ではないのか?」
「――!?」
自身の腹へ刺さったナイフに見向きもせず、真っ直ぐにクガイを見据えるロド。
(鎧の隙間を通した筈……なのに、血が一滴も流れていない!?)
規格外の強敵を前に、クガイは絶望した。
「答えると思うか? 早く殺せ」
「フッ! 敵国の、しかも子供が私に命令をするとはな……思い上がるなよ? お前に死を選ぶ権利などない。おい、コイツを連行しろっ!」
馬に飛び乗ったロドが、腹から抜いた剣を投げ捨て、その場を去る。
「……」
死さえ許されず、唯一の貴族捕虜となったクガイ。
それから約2年もの間……彼は独居房で時を過ごした。
次回、第46話~終りの始まり(クガイ・セマムの忠誠心その2)~




