第43話~抱かれた疑心~
初めて祖父に会った翌日から、私の朝は12㎞のジョギングスタートとなった。
ゴールのセレクタント城に到着後は直ぐに、5時間の剣術練習へと入る。
なんて偉そうに言っても、結局はド素人。
当たり前に、基礎から教え込まれた。
平服時と武装時、それぞれの足構え(足捌き)。
間合いの取り方、入り方。
目線の動き等……。
しかし日が浅い為、まだ剣はおろか木刀すら触れさせてもらえなかった。
「ふぅー、今日もいい汗をかいたわ……」
トレーニング終了後に冷たい外気を浴びながら、水を口に含む。
初日こそ嫌々だったが、稽古2日目には『苦』が『爽快』へと変換されていた。
ジョギングも基礎練も自ら望んだ事ではない。しかし午後のお勉強よりも断然、稽古(運動)の方が性に合っていると『脳』が認識したのだ。
私は人間でもそうでなくても、前世から日々運動は続けていた。
サボれば嫌悪感から吐き気や目眩等、心身ともに悪い形で影響が出るからだ。
勿論、この異世界でも初日から継続中。
だからこそ、ジョギングや長時間のトレーニングだって即順応ができた。
稽古開始3日目の本日――。
ある事情で急ぎ迎えに来たヤプが、ロドと数十年振りに再会を果たす。
「久し振りだな、ヤプ」
「ああ、ロドか……暫く見ない間に年を取ったな」
「そう言うお前は……変わらないか」
「妖精と人間では、時間の捉え方が違うからな」
ヤプと親交がある祖父のロドは転生者……つまり救世主で『過去の日本』から来た。
過去、現在、未来……妖精曰く、これらは同列に存在し、どの時代でも自由に往来ができるらしい。
祖父は出生から『ロド・キュラス』として、異世界人生が始まったという。
ヤプの話によれば江戸時代末期――大きな戦争の最中、武士であった彼を異世界へ連れて来たそうだ。
幕末に赤べこ……会津藩とか?
日本史はあまり得意ではなかったが、あの戦争なら私でも知っている。
(だとすれば、ロドの威厳やズバ抜けた剣術の説明がつくわ……)
ロドのルーツに触れた昨晩――ホットミルク片手に、私は身震いした。
「またな、ヤプ。」
軍の総帥=ロドに見送られて城を後にした、ヤプと私。因みに護衛役でもあるクガイは、珍しく王城へ出張中だ。
「おかえりなさい……ませ」
セレクタント城からキュラス邸に馬車で戻ると、ネムが私達を出迎えた。
遡ること4日前――。
私が城へ向かった約2時間後、彼女は目を覚ました。
「ネムゥゥゥーッッ!」
その日の内に泣きながら彼女を強く強く抱きしめたが『痛い、五月蝿い』と、相変わらずの塩対応。
「……お腹が空いた」
主より腹の虫を優先したネムの望みを叶えるべく、私はユーセにミルク粥を頼んだ。
「……食べさせてよ」
熱々のお粥を前に、そうポツリと呟く少女。
『可愛いぃぃぃー!』
ネムのツンデレが健在で、私は心から安堵した。
「殿下が目を覚ましたのっっ!?」
コートを脱ぎつつ、ネムや妖精に戻ったヤプと共に、足早でブレイムの元へ向かう。
「ええ。重湯だけれど食事は済んだし、意識もはっきりしているわ。普通に話せる状態よ」
私はドアの前で一呼吸置いた後に、やや強めにノックをした。
「はい。どうぞ!」
『彼の声だ……』
全身から力が抜けるのを感じる。
限界まで気を張っていたのは、セージだけではなかった。
「殿下……」
その一言で、私の思いは彼へ伝わったと思う。
「ライリー、心配をかけたね……すまない」
ブレイムが頭を下げる。
「お体はもう、何ともないのですか?」
「ああ、君達のおかげで元通りだ! 本当にありがとう」
「そうですか、良かった……」
私と彼の短いやり取り。
それでも元々部屋に居たユーセは涙し、セージは大きく頷いた。
ネムが唐突に話を切り出す。
「……早速ですが殿下、お聞きしたい事があります!」
「後にしなさい、ネム。殿下は回復をされたばかり……失礼ですよ!」
私は主らしく、彼女を諭した。
「でもっ! 貴女だってっ……」
そう言い掛けたネムだが、私の顔を見て「分かりました」と口をつぐむ。
(私も気付いたわ……でもまだ、問い詰めるべきではない)
『好きだから』こそ、誰よりも早く感じた違和感。
間違いなくブレイムは、妖精姿のヤプを目で追っていた……。
次回、第44話~潜入計画~




