第42話~眼鏡を外す時~
軍の総帥である、祖父のロド。
城を与えられた理由も納得だ。
「ああ、そうだったか……元の名でお呼びした方がいいかな? お嬢さん?」
「ライリーで構いません」
「元の……えっ!?」
2人の会話に、動揺を隠せないクガイがこちらを見る。
この男が、私の正体を知っている事に驚きは無い。物理的な根拠からではなく、直感的にそれが分かった。
『よそ者同士』通ずる何かが、全身を貫いたのだ。
(彼の話を聞きたいけれど『今は違う』わね……)
「まあ細かい話は後で。とりあえずはクガイ……久方振りの手合わせだ!」
「ハイッ!」
ロドの誘いに、クガイがキュッと口を結ぶ。
私にまで緊張が伝わった――。
(まさしく道場って感じ……ていうか正座なんて、異世界に来て初めてだわ)
顔が映る程に磨かれた板張りの床。
その広い部屋の両端に、私と道着姿の男性数十名が正座で並んでいた。
中央には互いに木刀を構える、祖父とイケメン使用人。
そう……クガイは既に眼鏡を外している。
でもってやはりその素顔は、まごうことなき美青年だった――。
(想像を遥かに越えてきた……それにしても、最初から『時間魔法』を使うつもり?)
クガイは魔法の力により、眼鏡を外すと周囲のスピードが遅く見える為、戦いにおいては非常に有利となる。
しかし『元が誰よりも強い剣士で、魔法は寧ろ邪魔だという理由から、眼鏡を外すことはない』そうユーセやネムより聞いていた私は、息を飲んだ。
(そこまでしなければ戦えない相手なのね……これは見物だわ!)
張り詰めた空気から一変、合図も無しに試合か開始される。
そして約10分後――。
激しい打ち合いの末、ロドの勝利で練習試合は終了した。
「……」
(言葉が出ない)
あまりのスピードに殆ど見えなかったものの、私の祖父と使用人は最強の剣士だという、事実確認はできた。
鍛え上げられた兵士達(弟子?)の反応を見ても、私と変わらない。
知っていたとはいえ、改めてクガイの剣術や実力に驚かされたが、ロドはそれ以上だった。魔法の力で敵に動きを読まれているにも関わらず、彼は難なく攻撃をかわしていた。
『上手い! 速い! そして強い! あんなの、初めてだわ!』
「ライリー様、総帥の支度が終わりました」
興奮が収まらない状態で私は弟子の1人に、大広間へと案内された――。
「それでは聞こう……異世界から来たお嬢さんが、私に何用だ?」
軍服に着替えたロドが胡座をかく。
胸には略綬(勲章メダル)が幾つもぶら下がっていた。
そんな彼に対し、私とクガイは畳の上でこれでもかと背筋を伸ばす。
正座続きのふくらはぎが悲鳴を上げているが、あの試合を見せられては、文句の一つも言えない。
「……実は急ぎ、剣術や護身術を学びたいのです」
私は父親……つまりはロドの息子を思い浮かべた後『動機、経緯、目的』を詳細に話した。
「……そうか、事情は承知した。ならは私が稽古をつけてやろう! 明日の朝5時からだ」
「はっ?」
「すまないが、昨夜に王城から呼び出しがあってな……今日は何も教えられない」
(だから、そうじゃない……)
「いえ、あのっ! ご説明をした通り、そこまでの強さは望んでおりません。いざという時の為に備えるだけなので、クガイや兵士から軽く教えてもらえればそれで……」
「『軽く』だと? キュラス家の人間が剣術を習得するのに、半端な強さでは恥となる。明日から毎日城へ来い! これは命令だ」
「……」
残りの冬休みに、また新たな地獄が加わった――。
次回、第43話~抱かれた疑心~




