第34話~女子会の生け贄(前編)~
アケビ先生滞在、4日目の午後――。
「貴女の事が心配で心配で、アケビさんに手紙を書きましたの……いけなかったかしら? ごめんなさいっ!」
そう両手で顔を覆い、隙間から私をチラリと除き見る女性が、母親の『ラナン・キュラス』だ。
因みに、涙は流れていない。
(出た……)
まさか自分の母親がいわゆる『あざとい系』だとは思わなかった。異世界は私が理想とする母親像でさえも、容赦なく崩してくれる。
だからと言って、意地悪をされている訳でも関係が悪い訳でもない。
だだ……とにかく趣味思考が合わないのだ。
基本ゴールドに輝く、服や小物のプレゼント。
手作りではあるが、やたら甘ったるいお菓子やお茶。
私の返事ありき毎日のメッセージカード……等々。
海よりも深い愛情をずっしりと感じるので、邪険にもできない。
いや……例え冷たくあしらったとしてもあの父親に泣きつく為、結果として長い挨拶を余儀なくされるのだ。
今日も相談なしに採用を決めた家庭教師の件で少しクレームを言ったのだが、随分と大袈裟にショックを受けている。
(これは不味い……)
「きっ、気持ちはとっても嬉しいのよっ! だからそんなに落ち込まないで、ねっ? お母様」
「グスッ、そうなの? 本当に?」
「ええ、まあ」
「それなら……喜んでもらえて、私も嬉しいわ! 午前中にケーキを焼きましたの。アケビさんもお誘いしてティータイムにしましょう!」
『……またヤられた』
これまでに何度も繰り返した、一連の無駄なやり取り。
そうと分かっていても彼女のペースに飲まれてしまうのは、その妖艶を極めた美しさにすっかり魅了されてしまうからだろう。
艶めくベージュ色の陶器肌。赤みを帯びた栗色の髪。そして何よりも印象的で心を瞬時に奪われる、珍しいダークブラウンの瞳。
母の故郷はモスカトアではない異国だ。服装は抜群のスタイルを強調させるタイトなロングドレス。前世でいう、東南アジア女性の雰囲気(エキゾチックってやつ?)によく似ている。
ともあれ、今回も呆気なく私の完敗。
アケビと共に甘いケーキを堪能した――。
「あら、私は好きよ? お母様のケーキ。それに故郷のお話しはもっと聞きたいわ! 他国の政治にも興味があるし」
夜の学習を終えた自室では、恒例になりつつある『女子会』が開かれていた。
ホットミルクを片手に、アケビ、ユーセ、ネムと過ごすこの時間が勉強三昧の冬休みで唯一の楽しみでもある。
女子のお喋りに限界は無い。気が付けば深夜になる日も既にあった。
「確か伯爵(ライリーの父・イーサン)を追いかけて、こっちへ来たのよね? 故郷に婚約者も居たみたいよ?」
「えっ! そうなの!?」
ネムからの衝撃情報に、私は身を乗り出す。
「他の使用人達から聞いた、噂話だけどね」
元・ライリーといい、流石は親子だな……恋愛に対する方向性が同じだ。
「ネム、主の噂話は止めなさい。キュラス家の品位に関わります」
「はぁーい」
ユーセの指導に、ネムが口を尖らせて渋々返事をする。
「他の使用人達にも、注意をしないといけませんね……申し訳ございません、ライリー様」
「私もつい興味本位で聞き入ってしまったわ。以後気をつけます」
「……」
急に押し黙る親友。
「どうしたの? アケビ」
「今ので少し、疑問に思った事が……」
「お母様の(恋愛)話で?」
「ええ。直接関係はないけれど、苦手分野だからよく分からなくて……ねえ、ライリーはブレイム殿下が『好き』なのよね?」
「そうよ? だからこそ相応しい女性となる為に、こうして努力をしているじゃない」
「それって条件抜きでも、心から彼を愛しているの? 無理してない?」
「えっ」
(『無理』って……どーゆーコト?)
何故か答えに詰まる。
愛しているわよね?
だって好きだし。
……ていうか、この2つは何か違うの?
『ハッッ!』
これが小学生の頃に聞いた、likeとloveのアレか!?
(どうしよう……なんか、よく分からなくなってきた)
前世を含め、私は初めてまともに『恋』と向き合った。
次回、第35話~女子会の生け贄(中編)~




