第33話~奇襲から始まる、冬休み~
とある日の午後――キュラス邸にて。
「ライリー様、ホットココアです」
「ありがとう、ユーセ」
私は第3回反省&作戦会議(2回目は条件に影響のない内容だった為、割愛)の後、自室で手紙を書いていた。
宛先は親友? の『アケビ・モンドリリー』だ。
文化的交流会で大成功を納めた『使用人サロン』だったが、その日を境に彼女とはまともに話をしていない。
全ては、己の低い対応力が招いた結果だ。
あの時――。
「なっ、何を言っているの!? どう見ても私はライリーでしょう?」
私はアケビの問いに対し、咄嗟にその場を取り繕った。
「そう……」
小さく頷いた彼女が、とても悲しげだったのを覚えている。
「あっ、あの……」
弁解を述べようとしたところで、タイミング悪くクラスメイト達が仕事へ復帰。それからは撤去作業に追われ、気付けばアケビとは何も話さずに帰路へついていた。
その翌日――。
明日から冬休みということもあり、学院は講義も無く午前中のみだった。
私は何度も対話を試みたが、アケビは委員長業務で忙しいらしく、講義以外の時間は教室にすら居ない。
おそらく役職を理由に、私は避けられていたのだと思う。
そして冬休みに入った今、釈明の機会は完全に失われているのが現状だ。
「仲直り、できるといいですね……」
「うん、そうだね」
その為にも、この手紙には思いを込めなければならない。
自宅会議の末、アケビには手紙を送る事に決まった。
始めに「話を聞いて欲しい」と手紙でお願いをする――それから顔を見て全てを打ち明け、改めて優秀な頭脳に協力を求める予定だ。
「よしっ! これで完璧だわ!」
便箋5枚が入った厚い封筒を前に、私は満足していた。
自分の文章に、確固たる自信があったからだ。
『にしても、疲れた……』
脳を酷使したので少し休もうと2杯目のココアに手を伸ばしたと同時に、ドアがノックされる。
「どうぞ」
(この足音はクガイね、それと……? 少し遠くて分からないわ)
「ライリー様、客人が来ております」
クガイは何故か、ドアを開けずに返事を待つ。
「客人? 誰かしら?」
「それが……おっ、お待ちくださいっ!」
制止を全く聞き入れずに、部屋の扉が開かれた。
「私よっ! アケビ・モンドリリーです」
手紙をしたためた甲斐もなく、ご本人登場。
「アッ、アケビ!? どうして……」
「宣戦布告に参りました……ライリーを返してっっ!」
「……」
黙るキュラス家一同。
彼女は本気で、消えた親友を取り返すつもりだ――。
「……あのう」
「何!? ライリーを出すまで、私は此処を動かないわよ!」
(駄目だ……完全に自分を見失っている)
血走った目で私を睨むアケビ。
普段の彼女とは、まるで別人だ。
「アッ、アケビ様? ひとまず、落ち着きましょう」
アケビの狂気に私の身を案じたのか、ユーセが間に入る。
「……大丈夫よ、ユーセ」
そうユーセを退けた私は、真っ直ぐアケビと向き合った。
「彼女が戻る事はありません……今は本人指名で代役を引き受けた私が、新たなライリーとして此処に居ます」
「はぁ!? 何を言っているの? 代役? 私は本物のライリーに会いに来たの! 分かる!?」
「分かるも何も……理解をしていない、寧ろしようともしないのは貴女でしょう? アケビ・モンドリリー」
(げっ、ネムッッ! いつの間に……)
増しで話がややこしくなりそうだ。
「子供には関係の無い話よ! 他所へ行ってっ!」
「『関係のない』? 私は彼女専属の使用人よ! まあ、貴女の覚悟は認めるわ……けれど興奮のし過ぎで大恥をかく前に、先ずはその隠し持っているナイフを置いて話を聞いてみたら? 判断はそれからでもいいんじゃない?」
ナイフまで持参ですか……だからクガイは腰元の剣に、ずっと手を掛けているのね。
「……分かったわよ、話を聞くわ」
コートのポケットから取り出した鞘付きナイフを、床へ落とすアケビ。
(まさか子供の説得に応じるとは……やるな、占い師)
そこからは簡単だった――。
元々理解力に長けているアケビは、冷静に全てを受け入れた。
(とは言うものの、キレた優等生はこっちでもまあまあ厄介なのね……)
「そう、あの子は彼を追って……正直に言うと少し悔しいわ」
ネムといい、アケビといい、元・ライリーはかなり好かれていたのだろうか?
どうも納得ができない。
「今更もう、どうにもならないのでしょう? 仕方がないわね……ならば本来の目的に戻ります」
「本来の目的?」
まだ何かあるの?
もう隠し事は、何も無い筈だけど?
「勿論、家庭教師よ!」
「教師……もしや、お勉強でしょうか」
嫌な予感しかしない。
「決まっているでしょう? 貴女のお母様に手紙で頼まれたのよ。学年順位を30も落とされたら『親友』として、私の責任でもあるわ!」
(切り替え早っ! でも、親友のままなんだ……)
「では早速、今から始めます! 私も泊まり込みで教えるから、春の試験には必ず順位を戻してもらうわよっ!」
文化的交流会の少し前に行われた、秋テスト。
18ー4(私のクラス)ではアケビを除く全員が、見事に順位を落とした。
私は睡眠を削ってまで努力をしたが、元・ライリーの成績が前回で学年6位と超優秀だった為に、追いつくことができなかったのだ。
この国の冬は厳しく、夏休みより冬休みの方が長い。
私はたった今、長期連休のスケジュールが全て『勉強』で埋まった。
次回、第34話~女子会の生け贄(前編)~




