第3話~専属使用人~
「昔から仕える、お前専属の使用人達だ」
ヤプの紹介と共に、黒っぽい平服と丈の長いメイド服姿の美男(仮)美女コンビが一礼をする。
「初めまして、ライリー様。私は使用人の『ユーセ・クフェア』と申します」
女性使用人のユーセが、顔を上げてにこやかに笑う。
「同じく使用人の『クガイ・セマム』です」
男性使用人のクガイは、高そうなポットとカップを乗せたティートレイを持っていた。
ここまでの瓶底眼鏡だと、逆に視界が悪くならないのだろうか?
形が整った他の顔パーツとも相性が悪いし、あえてのチョイスとしか思えない。
「……失礼致します」
「――何っ!?」
私の体を、ユーセが入念にチェックする。
「怪我をされたと聞きましたが、まだ痛む所はありませんか?」
そういえば屋敷に運ばれた時、2人は居なかったな……。
「大した怪我ではないので平気です……えっっ!? 初めまして? 私はライリーで、この家のっ!」
「慌てなくても大丈夫だ。専属の使用人だけが、正体も条件も知っている。お前より少し前に教えたばかりだがな」
「そうなの? えっと、新しいライリー・キュラスです。宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しく……お願い致します」
男性使用人のクガイが、少しぎこちなく返事をする。
「敬語は使わないで下さい。ご両親の伯爵夫妻を含め、真実を知らない方々が見れば変に思われますから……ところでお茶を飲まれますか? いくつかハーブをブレンドしました。気持ちが安らぎますよ?」
的確な指摘をしつつ、爽やかにお茶を勧める女性使用人のユーセ。確かに有能タイプだ。
「……」
おまけに推定『D』の私より、ワンランク上と見た。
フッ! でも形は負けていないわ! 下の丸みや、中心の向きは……って、アホかっ!
比べてどーすんの!
まさか……これが噂のマウントってやつ!?
容姿端麗者は、皆そうなのか?
しかし彼女からは、そういった競争心をちっとも感じない。
もしかしたら、美人には暗黙の心得があるのかも? ……後で聞いてみよう。
「どうした? 動物や鉱物、植物に野菜や果実も、お前が元居た世界と殆ど変わらない。よって食事や飲み物は不味くないと思うぞ?」
しょーもない考えを巡らせていた私に、勘違いをしたヤプが助言をする。
(変わらない? アレで!?)
規格外イノシシを頭に浮かべながらも喉の乾きに我慢が限界だった私は、艶々した布張りのカウチソファーに座り、お茶を頼んだ。
「ありがとう。いただきます……わ」
ユーセが目の前のテーブルにティーカップを置き、手際よくお茶を淹れる。
(いい香り……)
アンティーク家具に囲まれたお洒落な部屋で、美味しいハーブティーを嗜む、午後のひととき――。
おっさん妖精が、サクッと現実へ引き戻す。
「ユーセもクガイも今は使用人だが、貴族出身だ。舞踏会でも何でも頼ればいい」
「お役に立てるのなら光栄です。私共に何なりとお申し付けください。ライリー様」
使用人達が軽くお辞儀をする。
(気分は悪くない……これぞお嬢様って感じね)
「そういえば『ネム』はどうした? まだ森なのか?」
ヤプが変わった名? を口にした。
「はい……『突然の別れ』でしたから。彼女にはまだ、受け入れ難いのではないでしょうか? 1人で考えたいのかと……」
ユーセが溜め息を吐く。
「まったく……生意気なクセに繊細で、扱いに困る子供だな」
「他にも私専属の使用人がいるの? しかも子供が森に1人って……危険じゃない!?」
「彼女は大丈夫です。獣や悪意ある者に襲われる事はありません。先を知っていますから」
穏やかに答えるユーセ。
クガイも特に動じていない。
「森に詳しいのね。それならいいけど……でもあまり遅くなるようなら、日が暮れる前に連れ戻して」
「はい。私が迎えに行きます、ライリー様」
イケメン(仮)使用人の即答で話が終わると、ヤプが伸びをする。
「そろそろ俺は『偽り』に戻るか……今日から此処(屋敷)の庭番になったんだ。人間の時は、庭か小屋に居る。何かあれば来てくれ。じゃあな! 本番までに、簡単な作戦くらいは立てろよ」
「問題ないわ。前の世界に、最高のシナリオがあったから。内容も(だいたい)覚えているしね!」
「それは心強いです! 早速、皆で共有をして備えましょう!」
ユーセの表情が和らぎ、癒やしの『微笑み』が放たれた。
主の使命(条件)を聞かされた彼女も、それなりにプレッシャーを感じていたのだろう。
「貴女の言う通り、早いに越したことはないわね……では今から、行動開始よ!」
「ハイッ!」
さて……『恋愛スキル底辺』の私でも知っている、超有名なハッピーエンド(テンプレ)。
舞踏会といえば、参考になる話はアレしかない!
「カボチャはある?」
「……えっ?」
「はっ?」
「……」
ユーセ、ヤプ、クガイの3名は唐突な野菜の要求に、暫し固まった――。
次回、第4話~ク◯ガキと理不尽~