第28話~つまり文化祭(中編その1)~
遡ること交流会前日の、モスカトア国立第一女学院、元・家畜小屋にて。
目を瞑り、何の効果も影響も無いガラス玉に手をかざすエルフ耳の少女――。
耳の強調と、偽水晶の使用。
ネムの占いに少しでも信憑性を持たせる為だ。
しかしエルフ耳の存在はこの世界でも特別珍しいらしく、余計な偏見リスクを考え『つけ耳』だと他人には説明をしている。
過剰な心配かもしれないが念には念を入れ、ユーセ知識の元、※1コーンスターチから作られた糊や塩水、絵の具等で『耳の先っぽ』を製作。私を含め、まほ研会員4名にも装着させた。
(フードもあるし、これで本物とバレないわね! 後は……『接客』かぁー)
これが非常によろしくなかった。
以下、ネムの接客術――。
「彼が貴女を避ける原因……それは」
「それは……?」
息を飲み、強張った表情で年下の小娘を見つめる、隣クラスの生徒(客)。
「先週に渡した、くだらない手紙ね」
「あの手紙が!?」
「そう……内容が重い! そしてしつこい! 一方的に愛を押し付けといて同じ熱量の返事を求めるのは、もう脅迫でしかないわ」
「そんなっ! 私はどうすれば……」
涙目の生徒(客)が、ネムに助けを求める。
「先ずは謝罪のみを伝えること。許しを乞うのは絶対に禁止よ。それから暫く『恋だの愛だの』という話題は一切出さずに、日常的な挨拶や会話のみで彼と接して。元の関係に戻る可能性が最も高くなるわ……せいぜい頑張るのね」
「……クスンッ」
ハンカチで涙を拭う生徒(客)。
(これは駄目だ……)
超毒舌の命令口調で、おまけに無表情。
そもそも占いとは、こんなにも具体的に指示するものなのか?
ネムは少し集中をすれば軽い? 個人情報は透視可能らしいが、もう少しオブラートに包むべきでは?
バイトの勧誘に必死でつい『好きに話せばいい』とは言ったものの、正直かなり不安だった。
だがここで、原因不明の怪現象が起こる。
「はいっっ! ありがとうございます、先生! ライリー様もっ! お誘い頂き、本当に感謝致しますわ!」
『先生』となっ!?
しかも助手の私にまで、礼を述べるとは……。
『どゆこと?』
その後も放課後から始まった※2プレオープンの感触はとても良く、日が暮れる頃には、クラブの誰もがそれなりに自信を持っていた。
そうして迎えた、文化的交流会当日――。
無料にも関わらず、客が来ないので一時はどうしようかと思ったが、口コミはちゃんと学院中に拡散していたようだ。
「この反響ぶり……だいぶ『一等賞』に近づいたわね!」
行列の整理を終えた後、多少緊張がほぐれた私は、残りわずかな休憩を取りに『現・飼育小屋』へ向かった――。
初めて裏庭で見かけた日から、暇をみてはちょくちょく遊びに訪れる、癒しの場所。
気持ちが落ち着くし、前世の名残からか? 動物達とも気心が知れていた。
互いに言葉は理解できなくても、意志疎通ができるのだ。
「……居ない?」
チラリと放牧場を見たが誰も遊んでなかったので、真っ直ぐ家畜小屋へ入る。
「モオォォォー!」
「コケッッー!」
「なっ、何!?」
私の顔を見た途端、いつになく彼等が騒ぎだした。普段は比較的穏やかな性格の兎までもが、何やら怒っている。
よく聞くと、内容は『餌さ忘れ』によるクレームだった。
どうやら餌やり担当が『ブレイム殿下の登場』により、仕事放棄をして消えたらしい。
(やけに校舎が騒がしい原因は王子だったか……ていうか、裏庭に居て助かったぁー! この格好(男装)で彼に会う? そんなギャグ展開、絶対にないわ! 何としても避けなければっ!)
「もう分かったからっっ! 直ぐに用意をするわよ!」
急いで隣のエサ置き場から昼食を多めに調達。私はそれをせっせと彼等に振る舞った。
「ンモォォー!」
「まだブツブツ言っているの? 1回忘れただけでしょ? 許してあげなさいよ」
一人一人に目線を合わせてそんなやり取りを繰り返し、動物達の怒りは何とか収まった。人間も動物も過度なストレスは体に悪影響を与える。それなりにメンタルケアが必要なのだ。
(ふぅー、だいぶ落ち着いたわね)
「……可愛いですね。触っても大丈夫ですか?」
「――!?」
(ビックリした……気配や声に全く気付かなかったわ。私も疲れているのかしら?)
声からして男性か。
おそらくゲストが迷い込んだのだろう。
「構いませんよ。だだ餌やりが遅れてしまい、まだ少し不機嫌なので、できるだけ『優しく、静かに』お願いします」
「はい……えっっ!? ライリー嬢!?」
「ですから、あまり大きな声は……うおっっふっ! ブッブッ、ブレイム殿下!?」
屈んだ体勢から顔を上げた私は、アホみたいな奇声を発して、派手に尻餅をついた――。
※1コーンスターチとは、とうもろこし原料のデンプン。
※2プレオープンとは、お試しや練習で事前に店を開店させる事。
次回、第29話~つまり文化祭(中編その2)~




