第23話~晩秋の朝~
ホットミルクの代わりに3名分のハーブティーを淹れたユーセが、ソファーへ座る。
「現在の魔法使いは『血』が薄く、能力の種類も2つに限られています。1つは、転生者同様に妖精が見える能力。もう1つは、各先祖が最も得意だった魔法のみが受け継がれています」
「大昔は、空も飛べたのにな……」
ネムがお茶をひと口飲んで、天井を見上げた。
(魔法を受け継ぐのも、案外難しいのね)
「それで!? 3人の魔法は何? 誰でもいいから『恋愛系』はいないの?』
「恋愛系……ですか?」
首を傾げるユーセに、私は力説した。
「そう! 例えば、催眠、媚薬、予知、監禁、タイムリープとか!? 条件達成に役立つと思わない?」
「タイムリープ? 何それ? チェンジじゃなくて? しかも恋愛系というより、他は全部犯罪だし」
ネムの表情から『ドン引き』が読み取れる。
「げっ! 犯罪なの!?」
(まあ、監禁は分かるが)
「常識よ。人の世界でも魔法の世界でも、首に縄がかかるわよ」
(処刑なのね……それなら諦めるしかないわ)
「ライリー様? どちらにせよ私達の魔法は、あまり助けにならないかと思います」
「あっ、そうなの?」
「はい。詳しくご説明しますね……」
『回復』『予知』『時間』――。
これが使用人の3名が持つ、唯一の魔法だった。
まずはユーセの『回復魔法』……コレは納得だ。
私も知らずに体感していたが、何もせずとも声や体温にその能力が備わっている。
また薬草学にも精通していて、彼女のお茶や薬は高い知識と魔法が融合した、超特級品だ。
次にネムの『未来予知』……と言っても断片的で、不吉な事になればなるほど、靄が濃くなる。しかも『予知、とりわけ予言は罪』になるので、他人には決して教えない。
だが予知・予言の中でもお手軽な『占い(合法)』は得意で、相性を見たり選ぶべき行動を助言したりと、使用人の間ではかなり重宝されているらしい。
(だからユーセやクガイ以外の使用人達は、ネムを甘やかしているのね。まあ単純に可愛いからかも? だけど……)
3人目の魔法使い……クガイの『時間変化』は、自由がきかない。
あの瓶底眼鏡(古い魔法道具)がストッパーになっていて、外せば周囲の時間経過速度が、極端に遅くなるという。
(イケメンがなかなか拝めない理由が、今やっと理解できたわ)
「……1つハッキリしたのは、この魔法書では力不足だという事ね」
私は息を吐いて、魔法書を閉じた。
「気休め程度にはなるわよ? まじないで、心が救われる時もあるでしょ?」
ごく自然に人の心理を説く、12才。
「私やネムは本の内容を覚えているので、必要な時は仰ってください。書き写す必要もありません」
「そうする。2人とも、ありがとう。何だか今日は一段と疲れた……お茶を飲み終えたら寝るわね」
睡眠を得られる喜びと『魔法研究クラブ入会』の後悔が、疲労と化して私を襲う。
「私も、やっと眠くなってきた……」
気だるそうに、ネムも目を擦る。
「そうですね、今日は早く休みましょう」
(もう、限界……)
ユーセのトドメ(声=癒し魔法)に、私はその場で眠りに落ちた――。
翌朝。
「おいっ、起きろ! 遅刻するぞ!?」
「うっ、うーん……ヤプ? 朝から声が大きい……」
「大きくもなるだろ!? 使用人が何度もノックをしたのに反応が無いから、俺が呼ばれたんだ! 後20分で屋敷を出ないと遅刻だからなっ! まったく……ユーセやネムも姿が見えない筈だよ。また3人揃って、何をしていたんだ?」
そう言えば『緊急時の入室許可』って、専属使用人の他にヤプも指名していたんだっけ。クガイも昨日から、軍事研修で不在だったわ。
「ふぁぁぁー!」
あくびをしつつ、目を開ける。
「……狭っっっ!?」
私はユーセとネムの間に挟まれて、ベッドの上で寝ていた。
記憶は無いがひしめき合っている様子から、おそらく寒さで移動をしたのだろう。
(にしても、何で2人まで? ……えっ、遅刻?)
「やっばっっ! 2人とも起きて! 寝坊したっ!」
「ええ、私です……ココはどちら様ですか?」
「ネムは、もう少し食べる……」
その30秒後――キュラス邸に、今度は絶叫の嵐が吹き荒れたのだった。
次回、第24話~目障り~
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