第22話~本物~
「バタンッッ!」
屋敷の扉を自ら勢い良く開ける。
「お帰りなさいませ、ライリーお嬢様。遅くまでご苦労様でした。直ぐお食事になさいますか? 旦那様と奥様は、既に済まされております」
時間が足りない日に限って、出迎えは執事か……。
この場合、父親(伯爵)への挨拶が長時間に及ぶ事を意味している。
殿下に対し下着姿での謁見。
使用人を巻き込んだ衣装製作。
ご令嬢達とのサロン経営。
説教こそされないが、私は『説明責任』を果たさなければならない。
前回は『舞踏会での失態』について、経緯、動機、目的の詳細を伯爵に求められた。
無論、逃亡は不可能――。
色白でぽっちゃりした、福の神を思わせる『イーサン・キュラス』伯爵(父)。
日頃から『ニコニコしていて穏やかな貴族』と人気者の彼だか、あの時だけは目が一切笑っていなかった。
『決して怒らせてはならない……』そう元・ライリーメモにも書いてある。
「夕食は、ユーセのミルク粥をお願いします……」
私は挨拶後の『胃痛』に備えた。
それから数時間後――。
1時間40分にも及ぶ挨拶を終えた私は自室に戻り、ベッドへ身を投げる。
「しんどっっ! でも何とか許してもらえた……」
言葉にこそしないが、最後に父親の瞳に光が戻っていたので『責任は果たせた』筈だ。
「……ハッッ! 魔法書――!」
疲労と安堵に包まれて一瞬寝落ちしたが、すぐさま体を起こす。
彼(魔法書)とは、一夜限りの関係しか持てない……要は半日しか借りられなかった。
「貴方の全てを、私に見せて頂戴……」
ベッドの上で表紙を開くと、一晩ではとても写し切れない程の目次(魔法名?)が並んでいた。
(とにかく、目的に関する魔法だけでも探さなければ!)
それでも、催眠、媚薬、予知、監禁、タイムリープ……魔法に頼りたい事は山程ある。
「やるしかないかぁー」
睡眠時間を捨てる覚悟をしたと同時に、自室のドアがノックされた――。
「ライリー様、もうお休みになりましたか? 何時ものホットミルクは、いかがいたしましょう?」
(ユーセぇぇぇー!)
時間的に諦めていた助っ人の登場に、涙が溢れる。
「ミルクはいらないから入って!」
「はっ、はい? ……失礼します」
「貴女が起きていて良かった……手伝って欲しい事があるの!」
「えっ!? 申し訳ございません、ライリー様。私もまだ仕事が残っておりまして……ネムでは役不足でしょうか?」
ユーセの背後から、ネムが姿を見せた。
「こんな夜遅くに何事? 少しは人の迷惑を考えて欲しいわ!」
「まだ起きていたの、ネム? 子供は早く寝なさい!」
「五月蝿いわね……もう『子供じゃない』し、そんな夜もあるのよ!」
「注意も聞かずに、お昼寝をしたからでしょう? ネム」
先輩使用人の暴露によって、少女は一瞬で茹でダコになった。
「……で、何なのよ? 『手伝って欲しい事』って?」
少し落ち着いたところで、ネムが渋々話を聞く。
「本の『写し』をしたいの! 読み上げてもらえればいいから!」
「本ですか? どの様な……わあ、懐かしい!」
ユーセの声が一段上がった。
(……懐かしい?)
「ほんとに……よく手に入れたわね?」
ネムは魔法書を手に取り、ページをパラパラとめくる。
「2人は知っているの? この本」
「はい! 幼少期に『魔法使い』は、必ず読みますから」
「それより、こんな絵本の内容を写してどうするの?」
使用人達の発言に、主の脳は混濁した。
「えっ、幼少期? 絵本? ていうか貴女達……『魔法使い』なの!?」
「ええ、そうですが……お伝えをしていませんでしたか?」
「してないっっ!」
「それは、大変失礼を致しました。私やネム、クガイの3名は魔法使いです。旦那様と奥様は承知しておりますが、他の方々には『内緒』ですよ?」
(……ほう)
口元に悪戯っぽく人差し指を立てるユーセに、見とれている場合ではない。
今度は私が、彼女達へ説明を求める番だ――。
次回、第23話~晩秋の朝~




