第2話~標的~
「……ンフフッ!」
「……」
「ンフフフフフフッッ!」
「満足か? そろそろ本題に入りたいのだが?」
呆れ顔のヤプを尻目に、魅了されっぱなしの私。
鏡の中は『美』で溢れていた。
「本題? 転生は成功したのだから、もう終わったでしょ? 言葉も問題なく通じるし、長い間お疲れ様。ありがとね、ヤプ」
まさかの異世界ではあるが、顔面レベルも最高ランクに生まれ変わり、晴れて勝ち組となった。
こうしてライリー・キュラスは、いつまでもどこまでも幸せに暮らしましたとさ。
完――。
私はこれから始まる輝かしい人生へ、早々に気持ちを切り替えていた。
「いや……申し訳ないが、その器(体)は『条件付き』だ」
ヤプの台詞に、妄想が一時停止をする。
「……は? 何ソレ? 聞いてないんだけど!?」
「転生前は教えない決まりなんだ。期限内に条件をクリアできなければ、例外なく処刑される。高価な器ほど難易度は上がるが、欲を出して要望を加えたのはお前自身……クレームや返品は受けないぞ?」
「騙された気分だわ……けれど仕方がないわね。条件を教えて!」
生命が飛び交う世界。
やはりそう簡単に理想の人生なんて、手に入らないか……。
それでもヤプの言う『欲を出した自分』に後悔は微塵もない。
(ならば、その条件とやらをクリアするまでよっ!)
「相変わらず覚悟が早いな。条件は2択――1つ目は『婚約』だ。但し相手は『王子限定』で、しかもゼロからのスタートになる」
「婚約!? それは無理っ! 2つ目は?」
「女王だ。王家を乗っ取り、この国の頂点に立つ」
「女王って……」
知識が乏しい私にでも分かる。
異世界とはいえ、到底不可能だ。
「まあ薦めるのは婚約だな。王の息子は4人……その中から好きなのを選べる」
「でもなぁー」
好きでもない男と結婚――。
転生した意味がなんもない。
(今の見た目だったら、真っ向勝負でイケるのにっ!)
森で出会ったイケメン紳士が、脳裏を過る……。
モォォー、諦めるしかないのか?
「よく考えてみろ。婚約だぞ? 目標を達成したら上手く破棄に持ち込めばいい」
婚約? 破棄? 上手く? ……そうかっ! 結婚をするワケじゃない……今後の生活や家へ影響が及ばない程度に婚約破棄をすれば、彼(自由恋愛)が私を待っている!
「婚約で行く! 期限は!?」
「ライリーが19になる誕生日迄だ。もうすぐ18だから、期限は約1年だな」
「1年……短かっ! しかも私、今17なの!?」
己の胸を鷲掴み、改めてサイズと感触を確かめる。
24才で幕を閉じた2コ前の前世より、顔も体も立派な大人だ――。
若さと美貌……武器は充分!
後は攻撃あるのみ!
「この世界に年齢詐称は無い。ホレ、これがターゲット候補の写真だ」
「!?」
ヤプの念力で空中に並べられた、4枚のセピア写真。
その中の1枚に、私は強烈な『運命』を感じた。
他の写真が、霞んで(ゴミに)見える程に――。
「彼にする! 婚約破棄なんて、勿論しないわ!」
「そう言うだろうと思った」
ヤプは、紳士改め『森のプリンス』が単体で微笑む写真を、興奮余って鼻の穴を広げているであろう、伯爵令嬢(私)へ渡した。
「写真もイケ……ん? 『0』から?」
若干不快な数字が、記憶に甦る。
「もはや過去になったが『出会いから始めろ』という意味だ。0どころか、パンツ丸出しの『-』スタートらしいな? まあ頑張れ」
「げっ……」
すっかり忘れていた。
木にぶら下がったままのパンツ丸出しで、私は彼(王子)と出会ったんだ。
しかしこういう場合、容姿の力で第一印象がプラス域……いや、せめてプラマイ0くらいには、回復していないのだろうか?
……駄目だ。
美女歴、数時間の経験値では、予測も想像もできない。
「どうしよう!? 知恵を貸してっっ! ヤプ!」
「一応お前には恩もあるし、そもそも担当だからな。挽回のチャンスを用意した」
「さすがはベテラン妖精! それで? 私は何をすればいいの?」
「ベテランは余計だ! 10日後に城で開催される『舞踏会』の招待状を手に入れた。後は分かるだろ?」
「舞踏会!? 素晴らしいわ、ヤプ! そこで私は『美』を武器にアプローチをすればいいのね! でもドレスを着るのよね? この世界の流行が分からないわ。それにダンスも初めてだし……貴方の仲間に、詳しい子はいないの?」
「その為の伯爵令嬢だろ? 有能な使用人に頼ればいいだけの話だ……おっ、ちょうど来たな」
自室のドアが2回ノックされる。
「ライリー様、体調はいかがですか? ハーブティーをお持ちしました」
やわらかな女性の声。
ドア越しにその美声を聞いただけで、不思議と気持ちが落ち着く。
(……? もう1人、男性が居るわね)
「どうぞ」
「失礼します」
「……失礼します」
年齢は2人とも、少し上かな?
入室したのは『癒やし』を具現化した様な、編み込み金髪美女と、お約束と言わんばかりの瓶底メガネを掛けた、短髪黒髪の長身イケメン(仮)だった。
次回、第3話~専属使用人~