第17話~想定外の反応~
『文化的交流会協議』から、5日後の休日――。
澄んだ空とまあまあ暖かい日差しに誘われた私は、屋敷の庭へ出る。
「フゥー」
そして手に持っていた緑色の球体を地面に置いた後、大きめの深呼吸をした。
これはユーセ作の、草製サッカーボール。
弾力性のある蔓植物を毛糸玉を作る要領で、ボール型にした物だ。
「……おっ!?」
足先で軽くリフティングをすると、ボールは予想を越えて大きく弾んだ。
それから数分――。
程よく体が温まったところで、空を見上げた私はこう呟く。
「どうしよう……クッッソ忙しい」
「ちょっと! サボってんじゃないわよ! 誰のせいで、こんな事になっていると思ってんの!? 馬鹿なの!?」
私の口真似をするようになり、最近は益々態度が悪くなったネム。
今日もまた鬼の形相で、主を見据えている。
(しかし、怒るのも無理ないか……)
今、屋敷内は戦争並みに大騒ぎだ。
文化的交流会の出し物をめぐり、延長ホームルームとなったあの日――。
協議(言い合い)の末、売り言葉に買い言葉的な空気に負けた私は、つい『ゴミカス案』を口走ってしまった。
おかげで我が家だけではなく、今頃はクラスメイト全員が家族や使用人を巻き込んで準備に追われているだろう。
(誤算だったわ。まさか貴族令嬢が商売に興味を持つだなんて……)
以下、ホームルームでの発言を猛省する為の回想――。
「ライリー様はどうなのでしょうか? 委員長に協力をするお気持ちが既にあるのですから『案』をお持ちだと解釈をしても、宜しいのですか?」
「うっっ! それは……」
あるクラスメイトの言葉に『当然でしょう!』的な眼差しで、教室内の生徒全員が私を注視する。
「もっ、勿論ありますわ! その名も『使用人サロン』です!」
「使用人サロン? それは何ですの?」
「私達が使用人となり、お客様をお茶で『もてなす』のです。きちんと相応の対価を頂いて、その利益を学院へ還元するのはいかがでしょう?」
「えっ!? 私達がもてなす? 利益? 還元?」
ザワつく教室。
よし! 狙い通りだ。
(『もてなし』なんて、令嬢のプライドが許さないでしょ! 『商売』に至ってはもう、未知の世界……実現する筈がないわ!)
私はわざと難色を示す(却下される)であろう『いわゆるメイド喫茶』案を提示した。
後は適当に、展示系の催しあたりで決めてもらえればありがたい。
「素晴らしいです……考えた事もありませんでしたわ!」
……は?
「私達が『経営』だなんて……なんだか胸が高鳴ります!」
えっ? 興奮するの?
「せっかくですから、最高級の『おもてなし』を披露して差し上げましょう!」
教室のボルテージが、一気に上がる。
ヤバい……。
「ちょっとまっ……」
「では決まりですね! ライリー嬢の『案』で計画書を提出します……宜しいでしょうか、先生?」
アケビが上機嫌に最終確認(締め)へ入る。
「はい、問題はありません。初の試みですが、私も早急に学院長の許可が下りる様、協力します」
静かにヤル気を見せる担任の了解を得て『使用人サロン=メイド喫茶』は決定した。
その翌日――。
学院長の許可が速攻で下りてからは、まさに地獄だった。
これまで不自由を知らずに贅沢を尽くしてきた、生粋のお嬢様達。
衣装の生地や装飾品、茶葉に御茶請け、ティーセット等々。
どれも『通常感覚のまま』に経費をかけようとするので、お茶1杯の価格設定が一般国民1ヶ月分の生活費(しかも4人家族)……又は新作ドレス1着分となった時には、さすがに目眩がした。
私の助言を待たずとも、委員長がキレる。
「これでは貴族とはいえ、お客様が入らずに経営が破綻してしまいます! 経費は限界まで押さえてくださいっ!」
それからは、商売の仕組みを何故かよく知っている委員長主導で、準備が進められている。
各自が担当する内装、衣装、飲食等、超低予算を条件に、お嬢様方は絶賛奮闘中だ。
えらく大変な事になってしまい、私は『後悔と猛省』に押し潰されそうだった。
しかし計画書を3日間寝ずに作成し、更に運営の全てを引き受けた1番キツイ(私なら逃げる)筈のアケビには、涙ながらに礼を言われた。
(何故に? どして感謝をされるの?)
よく分からない……異世界は非常に謎だらけだ。
次回、第18話~終了のホイッスル~




