表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/97

第1話~転生意義(前半にプロローグを含む)~

 私は今……開始されたばかりの()()()()()で、命の危機に晒されている。


 季節は秋。

 場所はぼっちの森。

 目の前には(いのしし)

 おまけに、熊よりデカイ。


 奴の(したた)るヨダレから察するに、どうやら私は食料と認定されたらしい。


 (ていうか、こんな『肉ナシのまな板女』相手に食欲なんて湧くのか!?)


 その流れで、何気なく自身の胸元に視線を落とす。


「えっ!? マジッッ!? なんでっっっ!?」


 なんという奇跡!

 恋い焦がれたバストが、見事に実っているではありませんか!

 己の女性らしい肉体や、桜色が美しいロングのつや髪を指先で確認後、私は敵から目を逸らさずに立ち上がった。


 (この難局さえ乗り切れば『今度こそ』幸せになれるっ!)


 しかし身なりは白いドレス……違う? 生地の質からして寝巻きか?

 勿論、武器はなんも無し。


 さて、どう戦う?

 いや、逃げるか?


「……よしっ! 登るっっ!」


 私は速攻で、すぐ側にある木に飛びついた。


「痛っっ!」


 ささくれ立った木の皮が、素足に刺さる。

 隙を突かれた猪が寝巻きの裾を引きちぎり、中身のデカパンが(あらわ)になる。

 しかしそんなことはお構いなしに、私はより高さを求めた。



 数分後――。


「ガルルルルル……」


 悔しそうに、下から獲物を睨む猪。


「アンタに木登りは無理でしょ? 諦めなさいっ!」


 安全を確保した私には、すっかり余裕が生じていた。


「……ドスンッッ!」 


「何っ!?」


 敵の頭突きで木が大きく揺れる。その威力からして、折る気満々だ。


「ひぃぃぃっ!」 


 数撃で斜める命綱(木)に、私は情けない悲鳴を上げる。


 (嘘……私の容姿端麗な人生、もう終わりなのっ!?)


 地上の猪まで、後1メートル足らず。

 私の命が、()()果てる直前だった――。


「グギャァァー!」


 たった1本の矢で、奇声を発した巨体が簡単に倒れる。


「大丈夫ですかっっ!?」


 折れかけた木の先端にて、ナマケモノと化した女。

 そこへ躊躇なく差し伸べられる、紳士の手。


「ハイ、大丈夫です……」


 非常に分かりやすい展開だか、単純な私の脳内には、秒で花が咲き乱れた――。





◇◇


「ちょっと何なのっっ!? やっと()()が成功したのに、あの方が来なかったら、あっさり死んでたじゃないっ!」


 死亡回避から2時間後――。


 森からそう遠くない屋敷の()()で着替えと傷の手当てを終えた私は、到着したばかりの()()()相手にクレームをつけていた。


「いや、スマン。転生先が()()()だったもんで、準備や書類作成に手間取ってな? 迎えに行くのが遅くなった」


 手のひらサイズのおっさんが、角刈りの白髪頭を掻く。

 そう……このつなぎ服を着た小さな彼が、私の担当妖精『ヤプ』だ。

 私はヤプの()()で、中世ヨーロッパ風味の異世界へ転生――そして現在に至る。


 ……ん? ヨーロッパ? 屋敷の廊下で動物を模した日本の()()()()()()を見た様な気がするが、あの時は『前世の影響』からまだ脳がバグっていたのだろうか? 今は正常に戻っているといいが……。



「で? 此処はどこ? 私は誰? 屋敷住まいなら当然、お金持ちよね?」


 ほぼ勝ち組で確定だか、()()()()()を思うに、一応確認は必要だ。


「場所はセレクタント。この国の王が住まう城から少し離れた、まだ自然が多く残る長閑(のどか)な町さ。そしてお前の名は『ライリー・キュラス』……キュラス()()夫妻の1人娘だ」


「ふーん、まあ合格ね。鏡はある?」


「そこだ。まさかお前が()()()()()()()()……」


「えっ、なに? よく聞こえない」


「いや、なんでもない……」


 少し疲れた様子で飾り棚に置かれた手鏡を指差す妖精。   

 私は深呼吸をした後、()()()の最終事項と向き合う。


 種族 人間

 性別 女性

 身分 貴族

 スタイル 良き

 バスト かなり良き


 残すは『顔面レベル』……これが最も重要だ。


 ()()()の顔はフルメイクを施し、ひいき目に見て中の下。おまけに体の方も、凹凸無しの残念なポテンシャルだった。

 ()()は……もはや『人』ですらない。

 ()()()の直前『要望があるなら3秒以内に言え』と、流星群を背にしたヤプから説明を受けた私。


『女!』『巨乳!』


 コンプレックスの呪縛もあり、そう叫ぶのが精一杯だった。


 そして今回。

 モォォー、失敗は許されない。

 これが定められた、最後の転生だ。


『人間、美女、金持ち』


 厳選した欲まみれの言霊(ことだま)に、私は全てを賭けたのだった。

次回、第2話~標的~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ