表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オオカミ娘の転身とモフりたい魔術師  作者: es


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

05_再会

 街道沿いを暫く歩くと、麓の村からさほど遠くない、リゼットという街にたどり着いた。


「ふわぁ、つかれたぁ」


 リゼットは森林の畔にある。最近拠点にしてた街だ。大きくもなく、小さくもなく、わりと何でも揃う。

 リゼットの一角に借りた隠れ家に寄ったあたしは、久しぶりのベッドでぐっすり眠った。

 そしてシャッキリ目覚めた、次の朝。


「盗賊から足を洗おう」


 あたしは本気で決意した。

 遺跡で命懸けの鬼ごっことか、二度と御免だ。

 騎士団や宮廷魔術師を相手にするなんて、個人でやってる盗賊には荷が重すぎる。命がいくつあっても足りない。無理。


 今回助かったのは単に運が良かっただけ。運と実力を混同するほど、あたしはバカじゃない。


 ……そうだ、運命を司る星神さまに感謝しとこ。験担ぎは大事。

 いそいそと窓辺に立って祈りを捧げる。それを終えると、深くため息をついた。


 廃業したいと思うに至った理由は、それだけじゃない。数ある裏家業の中から盗掘を選んだのは、荒事や殺しが苦手だったからだ。

 必要とあらば相手を叩きのめすし、「暗殺者向きの能力だよね」と盗賊仲間に言われたこともあったけど、あたしは流血沙汰があまり好きじゃない。


 戦闘狂の盗賊だっていることはいるけどね。でもあたしは至って穏健派。

 ど田舎生まれで、鹿や猪はよく狩ってたけど、食料として山の恵みをいただくのと、ひとごろしはやっぱり違う。追手と血みどろの戦いをしてまで、盗掘したいとは思えなかった。




 ────というわけで一念発起して、あたしは転職先を探しはじめた。しかしこれが……全然うまくいかなかった。

 なんでかって?

 あたしの手配書が、町中にばらまかれてたからだ。おのれ、騎士団……


 食堂の張り紙見て、配膳係に応募したら、面接で待ち構えてたのが警備隊とかさぁ……

 どんな圧迫面接だよ……


 とりあえず、その面接からは死ぬ気で逃げた。

 そして考えた。こうなったら、顔も名前も割れてない、遠い国に移動する以外にないんじゃないか、と。


 ……ただ、現実はキビシイ。

 今回の、盗掘の成果はゼロ。つまり売れるものがない。武器も防具もない。

 ないない尽くしで財布はカッスカス。旅費どころか、今月の食費さえ危うい。


 どうにか資金を稼がねば……とあたしは熟考した。

 解決策はひとつ。最後の盗掘でがっぽり稼いで、有終の美を飾って国外逃亡だぁ!


 あたしはさっそく、近場の遺跡の情報収集を始めた。短剣も一本購入。騎士団の動向を含め、入念に下調べして、リゼットの東にある古神殿に潜ることに決めた。


 どうでもいいけど、あたしは双剣使いなのに、剣一本しかないってダサすぎる……

 貧乏しんど……




 ++++++




 前回の盗掘から、三週間後。

 森に埋もれるように佇む古神殿跡を見上げて、ぐっと拳を握りしめる。


「……よっし、がんばるぞー!」


 国外逃亡して脱・盗賊したら、おしゃれなカフェの店員さんになりたい。そして優しくて素敵な恋人をつくるんだ!

 壮大な夢を胸に、深呼吸して辺りの気配を窺う。……うん。近くにトラップはない。騎士団の拠点も遠いから、ここはノーマークのはず……


 目線を上げれば、視界に映るのは、古びて苔むした大きな石門。それから、巨石を割るように這う、大木の根。ここはかつての裏門だ。


「おじゃましまーす……」


 あたしはそろーっと門をくぐった。

 木の根や風雨に浸食された石門は、ここがはるか昔の建造物であると、静寂のなかに物語る。

 荘厳だなぁとは思うけど、どの時代の、何を祀った神殿かは定かではない。正直に言うと、そこはどうでもよかった。

 大事なのは、お宝があるかどうか。それが盗賊基準だ。


 ちなみに、遺跡探索そのものは大好き。

 遺跡に入る瞬間なんて、すごくワクワクするよね。どんなお宝に会えるのかなって想像したら、胸が高鳴って仕方ない。


 そうだなぁ……

 最高ランクのお宝は、神世の聖具。すっごいレアアイテムだから、簡単には見つからないけどね。

 きれいな絵付けの古皿も良い。知人にコレクターがいるから、高値で買い取ってもらえる。


 とにかくお金になるもの頼みますよ……と祈りながら、古神殿の敷地に侵入する。そして門を通り抜けた瞬間。

 ────足元で突然、魔方陣が光った。


「うっえぇええ!!?」


 しまった、と思った時にはすでに遅かった。ムギギギ……ともがいても、魔方陣にがっつり捕らわれて身動きが取れない。


「さっきはトラップなんて感知しなかったのに……!」


 どんだけ入念に隠したんだよ。"人狼"の感覚に引っ掛からないなんて相当だ。くそっ。


 もがいているうちに、魔方陣は真ん中から新たな紋様を描きはじめた。瞬く間に、元の紋様を上書きしていく。

 うげー。二段トラップなんて聞いてないよ。

 半分パニックになったあたしの目に映る景色が、ぐるりと歪む。転移魔術だと気づいた時には、もう、見知らぬ場所に飛ばされていた。




 +++++




「なに。どこ、ここ……」


 気がつくと、どこかの部屋の床に呆然と踞っていた。

 ……薄暗いその部屋は、壁一面が作り付けの本棚になっている。誰かの書斎だろうか。

 本棚には古めかしい蔵書がぎっしり詰まっていて、棚に入りきらずにあふれた本が、床やテーブルにたくさん積まれていた。まるで本の森だ。


「……あの魔術書、高値で売れそう」


 きょろきょろ辺りを見回して、表紙に高そうな魔石をあしらった本に目を留める。

 すると本の山の隙間から、呆れかえった声がした。


「……僕の前で物色するとは、お前は本当にいい度胸だな」

「……!?」

「三週間ぶりだな、盗賊ファル」


 書物で埋もれた机に座ってあたしを見下ろしていたのは、何と────あの小部屋に一緒に閉じこめられた魔術師、眼鏡男だった。


 おー、無事に脱出できたんだ、よかったね!

 でも別に再会とかしたくなかったな!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ