01_追手
「そっちに逃げたぞ、追えっ!」
「クソッ、すばしっこい女だな!」
はっ、はっ……
自分の息づかいに混じって、ヒュッと空気を裂く音が聞こえた。
反射的に横に飛ぶ。視界の端。キラリと光る矢が自分の肩を掠めていくのが見えた。
「あっぶないな!もう!」
よけなかったら背中に当たってたし!
女の子一人に何てことすんの!
舌打ちして、迷路のように入りくんだ通路をひたすら走る。
あたしが逃げ回ってる迷宮のようなこの場所は、辺鄙な森の中の古い遺跡だ。何故こんなところで追われているかというと、あたしの職業に関係する。
あたしは遺跡の盗掘を生業とする、盗賊なのだ。
当然だけど非合法。過去、警備隊に捕まりそうになったことも一度や二度ではない。
でも、今日という今日こそは、本当にダメかもしれない。
ここで待ち伏せしてたヤツらは、今までで一番の手練れだった。
この遺跡に来る前に、頭に地図叩きこんどいて、ほんっとに良かったわ。逃げるのに必死で、地図を広げてる暇なんてない。
背後をちらりと確認する。
追手は騎士団小隊が五人と、宮廷魔術師が一人。いずれも精鋭揃いで、猟犬のように執念深い。
そんな彼らに追い回されて、あたしは半泣きで逃走中だ。つらい。
騎士団がここまで本気を出してきたのは────あたしが、盗掘専門の盗賊として有名になってしまったからだろう。
こっちは知名度なんて心からどうでも良かったのに、仕事をガシガシこなす内に、遺跡を荒らす悪党として名が売れてしまったらしい。そのため、騎士団の上の方に目をつけられたのだ。
おかげで、ついに本日、遺跡に忍びこんだところを待ち伏せされ、現行犯で捕まりかけている。そういう状況である。
あーやだやだ。ほんとついてない。
息を切らしながら、心の中で悪態をつく。
……別にあたしだって、最初から盗賊をやってたわけじゃない。盗賊に身を落とさざるをえなかったのは、それなりに事情があったのだ。




