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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

永続転生記

令嬢、しがらみを捨てて旅に出る

作者: 天原 重音

菊理のとある世界でのお話です。

魔法が存在しない世界での、菊理にとってはよく似た人生の一幕です。

※R15は念の為です。

 現在の名前は、アニューゼ・リナルディ。年は十八歳。グリージョ王国所属、リナルディ伯爵家の長女。

 貴族だったのだが、執事に頼んで除籍の届け出を代理でやってもらった。届け出はそろそろ受理されている頃だろう。

 受理されれば身分剥奪され、平民扱いとなる。

 坂月菊理という前世の記憶を持つ身としては、貴族という身分はどうにも邪魔なのだ。

 前世の力の取戻し具合に関係なく、記憶を取り戻すと二十半ば当たりの年で老化(成長ともいう)が止まり不老となる。年を取らない人間は目立つ。平民ならば定住さえしなければどうにでもなる。

 だが、貴族だと難しい。子供が産めないというわけではないが、定住しなくてはならない。加えて閉鎖的かつ排他的な貴族社会では、誤魔化しがやりづらい。

 なので、どこの世界に転生して記憶を取り戻しても貴族で居続けることはまずない。

 王族だと協力してくれる時があるのだが、今回は王族と縁がない。王族との縁は普通の貴族なら喉から手が出るほどに欲しいものだろうが、生憎、自分の場合は不要なのだ。

 自分は前世の記憶を持つ転生者で、この世界にない知識や力を持っていると知った場合、協力しろと迫られることが多かった。

 権力には興味がない。面倒なしがらみが多そうなので断った。

 まぁ、王族の中には『欲しいものは必ず手に入れる』主義の者が結構な率で居たので、逃げるのに苦労した。

 故に、今回はかなり楽な方だ。

 除籍の手続きを終わっている筈だから、路銀が尽きるまでのんびり旅行と洒落込む。

 王都と外を繋ぐ門を目指す。出てしまえば、如何に公爵の伯父といえど見つけるのは難しくなるだろう。

 快晴の下、不審に思われない程度に急ぎ足で歩いた。



 激動の二ヶ月だった。

 荷物を持って家を出て、歩きなれた王都の道を歩いていて、ふとそんなことを思った。

 怒涛という言葉がピッタリなほどに、あっという間に時が過ぎて、気付けば学院の卒業式の数日前だった。やり残しはないかと紙に書きだそうとしたが、なかなか出てこなかった。思い当たることは特にない。

 ならばいいかと、考えるのをやめた。

 そして、昨日卒業式を迎えた。一応貴族の子女が通う(国の法律で決まっている)学院なので、夕方から王城で卒業パーティーが行われた。パーティー自体はあまり好きでは無い為、ほとんど壁際にいてたまに料理をつまんだ。

 中座ができればよかったのだが、パーティーの主賓である卒業生の一人である為、できなかった。

 結局終わりまでいたのだ。

 壁際にいたというのに、腫物を扱うような視線に晒され続け、正直疲れた。

 そして疲れた顔をして家に帰れば、親鳥を見つけた雛鳥のように近づいてくる存在がいる。三日前から馬鹿な父のごり押しで同居することになった人物だ。

 金の髪に青い瞳の十代半ばの少女。容姿も整っている。美少女と言っても違和感はないだろう。平凡レベルの自分より上の容姿だ。その手に持っているのはお茶菓子の包み。疲れた顔をした人間を誘う気なのか。よくもまぁ、自分は嫌われていない、と思えるものだ。

「お義姉様」

 純真な目を向けてくるが、彼女の背後から侍女の一人が、気を制するように声をかけてきた。

「おかえりなさいませ、アニューゼ様。浴室の準備はできております」

「ええ、ただいま。浴室を使っていいのなら、化粧を落として、湯を浴びたいわね」

 侍女との会話に少女は、あ、と小さく声を漏らす。どうやら出迎えの挨拶をしていないことに気づいたらしい。毎度のことながら、自分のやりたいことに一生懸命で周りが見えていない。

 今回もそうだ。先の台詞の続きは、お話がしたいのでお茶しませんか、というつもりだったのだろう。

 ちなみにお義姉様で分かるだろうが、三つ年下の異母妹である。一つ下の異母弟もいる。

 加えて言うと、この義妹とお茶などしたことがない。

 元々、家を出る気満々だったので家族ごっこなどしたくもなかったからだ。

 ドレス(一人で着られないタイプ)を脱ぐ為に足早に部屋に向かう。先の侍女もついてきた。義妹は一人取り残される形になったが、継母らしき女性の声が聞こえてきたので、無視した。

 


 昨夜起きたことについてそこまで回想すると、ため息を吐きたくなった。

 継母に言われているのか、あるいは自発的なのか、義妹はよく自分に付きまとうようになった。話しかけるなと事前に何度言っても、効果が無かった。無視すると泣きだすので始末に負えない。

 正直に言って義妹は嫌いだった。

 義弟と継母はこちらがどんな状況だったか知っている(恐らく、執事や使用人から聞いたか聞かされたのだろう)のであまり話しかけてこない。

 だが、義妹は想像力が無いのか、説明を受けても父はそんなことをしないと思い込んでいるのか、こちらがどんな状況だったか分からないらしい。

 純真無垢といえば聞こえはいいだろうが、無自覚に他人に喧嘩を売っている癖がついているので、身分にうるさい輩からも性格面で学院でもかなり嫌われていた。

 鈍感なのか、精神力が高いのか、あるいは話せば分かると思っているのか、折れないのは見事だった。

 なお、義弟はそのあたり上手くやっていたのか、あまり嫌われなかったらしい。

 継母は婦人同士のお茶会でいじめに合い、陰口を聞こえるように叩かれ続け、家に引きこもっている。家に引きこもっても使用人一同からよく思われていないので、外とあまり変わらない状況だ。

 そして、父は非常にまずいらしい。このままだと没落するとか。まぁ、すぐに没落しなかったのは母の娘である自分がいたからなのだろうが。

 その自分は家を出る。家の没落は確実だろう。罪悪感は無い。使用人達の職を奪う様で申し訳ないと思うが、すでに何度も話し合っている。

 それに、全ての原因は父親にあるのだ。



 全ての始まりは二ヶ月前、母が自殺した日だった。

 十三年近く本邸に父が帰ってこず、愛妾のいる別宅に通い続けるという現実に耐え切れなくなったからか。あるいは父に捨てられたという現実から逃げ出したくなったのか。もしくは、その両方か。遺書には父への文句がびっしりと書かれてあった。恐ろしいことに便箋百枚近くもあったのだ。母を溺愛していた伯父の目の前で父に渡し、その場で読ませた。その後伯父が読み、父が殴られたのは言うまでもなかった。

 文句を言うのではなく即座に殴られたのは、もう一つ原因がある。

 母の葬儀の喪主を務め無かったことにある。

 訃報の連絡はしたのだが、父がこなかった為代わりに自分がやったのだ。恐らく父は、自分を呼び寄せる為の嘘だろうと思ったのだろうが、事実確認を怠ったので、擁護はできない。

 葬儀が終わり、母が土の下に逝き、伯父以外の参列者が去った頃に血相を変えた父がやって来た。誰かに言われてやって来たのだろうが、最悪だったのはその時の父の第一声だった。

 そう、おまえは誰だ、とそういったのだ。

 娘の顔を忘れている。その事実にため息しか出てこなかった。喪服を着た十代の女で、自分の義理の兄と共にいるところから、自分の娘であるということぐらい推測できてもいいと思うのだが、無理だったらしい。

 伯父に睨まれ、挨拶をしてから名前を口にしようとして、今度は固まった。

 どうやら、名前を忘れたらしい。

 こんな愚かしい男が父親だったのかと思うと、ため息すら出てこない。

 案の定、伯父は怒った。口から唾を飛ばし、父の胸ぐらを掴んで、怒鳴っている。

 介入する気はないので、伯父に一言挨拶をしてから、墓場を去った。

 母の遺品整理をやっていないのでそれを理由にした。去り際に父がこちらを見たが、存在そのものを忘れさられていたので助ける気にならなかった。



 それから数日後。

 母の遺品整理を終え、諸々の届け出を執事に指示を出して行ってもらった。休校日だが、通っている学院で喪に服していた間の授業内容の補習を受けに行く。制服に着替えて一息ついてから出発しようと思い、淹れてもらった紅茶に口をつけた時に、父だった男がやって来た。

 執事を筆頭に使用人全員が、今更何しに来た、と一斉に見た。

 責めるような視線を浴び一瞬怯むも、自分は貴族、相手は平民という認識からすぐに立ち直った。随分と安いプライドである。こんな安いプライドでよく伯爵に成り上がれたものだ。

 自分は無視して紅茶を啜る。父の顔が歪むが気にならない。執事から十三年ぶりですが何用ですか、と話しかけられ、顔が一気に赤くなった。自宅に帰ってきて何が悪い、と執事に怒り出すが、使用人たちの、あれが旦那様なのか、といったひそひそ話を聞いて口を閉ざす。十年以上家に帰ってきていないのは事実だ。その間に婚約が決まって去り、補充としてやってきた使用人が何人かいる。ある意味、この家の主は部屋に引きこもって出てこなかった母ではなく、毎日のように顔を合わせていた自分なのだ。

 執事に再び用件を尋ねられ、今度は苦虫を噛み潰したような顔をした。表情がころころと変わるので見ていて飽きないが、そろそろ出発せねばならない。

 紅茶を飲み干し、淹れてくれた侍女に美味しかったと礼を言ってから、鞄を掴んで立ち上がる。

 この男と話すことはない。

 父の横を通りがかった瞬間、なぜか呼び止められた。

 胡乱な眼差しを送れば、父は一瞬震えるもこちらを睨むような表情で、阿呆なことを言った。

「別邸を引き払う。今月末から本邸で全員で暮らす」

 なるほど、母を溺愛していた伯父対策か。そんなことを思った。

 返す返事は当然、拒否である。それ以前にまず謝罪をしろ。

「嫌です」

 父の顔も見向きもせずに答えて、家を出て学院に向かった。背後で父が何か喚いていたが無視である。

 母の墓前で自分の名前が言えたら少しは譲歩しようかと思っていたが、それすらできない男だったのだ。譲歩する必要はない。関係は悪化するだろうが、全ての原因は父にあるのだ。



 そもそも、父と母は表向き恋愛婚だったが、実際は政略婚だった。

 当時子爵だった父が成り上がる為に、外務大臣の娘であった母に近づいたのが始まりである。策を尽くして母との婚約をもぎ取り、義理父の手伝いを重ねて、伯爵の爵位を得たのだ。

 上に行く為の手段を問わない男が父だったのだが、はっきり言ってこれは悪手だった。過去の父に一言アドバイスを送るなら、相手の性格を調べてから近づけ、と言いたいぐらいである。

 そう、母は弩級に重く、重度の束縛女であったのだ。父の態度から自分の知らないところで会った人物が、男か女か言い当てるぐらいに。母はよく父に詰問していたのだが、仕事都合だ分かってくれ、それしか言わないので父の駄目っぷりが分かる。

 更に、母と婚約する前から愛妾がいたらしい。それを隠して母に近づいたのだから、自業自得としか言いようがない。

 ちなみに母との間に子供がいないと、さすがに母の実家である公爵家がいい顔をしないので、しょうがなく子供を作る、そんな男である。それで生まれたのが自分だ。

 父と最後に会ったのは五歳になったばかりの頃。その日、自分の誕生日を忘れられて母は怒っていた。父は謝罪したが、その場しのぎなのがまる分かりな態度だった。それは、母の怒りの炎に油を注ぐも同然の行為であった。

 母は怒り狂い、父も徐々に怒りをぶつけ始め、大喧嘩となった。そして、父は去った。

 玄関で話しかけたが無視された。代わりに執事に頭を撫でられた事を覚えている。

 名前すら呼ばれず、頭を撫でてもらったことも、抱き上げてもらったこともない。そもそも会話をした覚えがない。話しかけられても無視される。それが父だった。

 この日以降、父は帰ってこなくなった。母は部屋に引きこもり、毎日泣くようになった。

 四歳頃に、坂月菊理という前世の記憶を取り戻さなければ、自分も母と同じように狂っていただろう。そう思えるほど母の精神状態は酷くなっていった。

 自分に、なぜ男ではないのだと、当たり散らす。暴力を振るい、暴言を吐くようになった。使用人に当たり散らし、手をあげるようになった。あまりの酷さに、執事の判断で食事に睡眠薬を混ぜるほどだった。

 睡眠薬のおかげである程度は静かになったが、それも長続きせず、数日前に自ら命を絶った。

 さすがに自殺したと公表でき無い為、表向き心を病んで亡くなった、ということになっている。

 とはいえ、母の実家には真実を話さなくてはならなかった。

 しつこく前置きをしてから話したが、想像以上に荒れた。主に伯父が。父はどうやら、伯父にはいい顔をしていたらしい。その時潰すという黒い発言が聞こえたが、深く考えるのはやめておこう。



 そんな訳で何度も繰り返すが、父が悪い。

 擁護はできない。継母と義弟と義妹三人は見方を変えれば、ある意味被害者ともいえる。とはいえ、同居するまで一度もあったことが無いのも事実なのだ。いい感情はどうしても持てない。

 加えて子供が二人もいることも知らなかった。これに関しては調べる気が無かったとも言える。

 これまでのことを思い出しながら歩いていたからか、気付くと王都の西門は目の前だった。

 門番に出ていく用事を聞かれたが、隣町の親戚に見舞いの品を届ける為といえばすんなりと通れた。

 そこから更に歩き続ける。

 どれくらい歩いたのか。周囲から人がいなくなったところで、後ろを振り返る。

 王都があった。十八年間過ごした場所。そして、帰る場所ではなく、通り過ぎるだけとなった場所。

 寂しくないと言えば嘘となるが、早く出て行きたいと思っていたのもまた事実なのだ。

 何とも言えない微妙な気持ちを抱えて、再び西に向かう。

 やることがあるのだ。



 男物の服に着替え、荷物を道具入れの指輪に収容し、重力制御魔法で空に飛び上がる。ある程度の高さに到達した時点で、自分の周囲に迷彩の幻術をかけ、水平に落下する要領で空を飛ぶ。幻術をかけるのは、空を飛んでいる人間が見つかったら騒動になるからだ。空中移動用の乗り物が存在するのだが、気分で使うのは止めた。

 グリージョ王国の王都において貴族の家はレンガや石を使用した造りの物が多かったので勘違いしそうになるのだが、この世界には、所謂『魔法』と呼ばれるものが存在しない。

 なので、魔法の使用には細心の注意を払う必要がある。

 


 魔法という名称だが、神秘を一括りに魔法と言っているだけなので、転生先の世界に合わせて名称を変える時がある。ごくたまに、魔法の定義が決まっていて、定義に当てはまらない物は魔術と呼ぶという世界もあった。それでも、魔法という名称が多かった。

 


 久しぶりに魔法が存在しない世界に転生したからか、そんなことを思い出していると前方に町が見えた。頭上を見上げる。太陽はまだ高い位置にある。町の上を避けてカーブするように飛ぶ。迷彩の幻術をかけているが何が要因で見えるか不明なので、魔法が存在しない世界では町の上は極力飛ばない。

 面倒でも、自分のような存在は目立たないようにする必要があるのだ。

 


 それからしばらくして、日も大分傾いて来た頃、自分は大きな街の宿にいた。いや、大きな街というのは間違いか。街の中央に城が存在する。

 遡ること数時間前。

 久々の飛行だったのでスピードを上げた。上げ過ぎて、国境を越えて隣国の首都に着いてしまった。

 日の傾き具合を考えて、隣国の王都で宿を探すことにしたのだ。

 道具入れの指輪から荷物を取り出して、外壁と街をつなぐ門をくぐる。

 その際に、門番に宿はどこがいいかを尋ねたら、教えてくれたのでそこに泊まることにした。

 グリージョ王国とはまた違った雰囲気の王都を歩いて宿に向かった。着いた宿は清潔そうな宿だった。内装も落ち着いていて、一階は食堂となっている。食事を取っている客が見えたので、客の服装を確認する。スーツに似た格好の客が何人かいた。身綺麗な男性ばかりだ。洗練された食事の作法などを見るに、恐らく貴族や豪商が多いのだろう。

 ここは貴族向けの宿らしい。その推測を裏付けるように、受付には女性ではなく男性がいた。

 受付の男性に門番のお勧めできたというと、旅の合間にようこそおいでくださいました、と慣れた対応をされた。ちなみにこの男性、この宿の支配人だった。

 幸いにも一人部屋の空きが有り、宿泊料金も朝夕二食付きで良心的な額だった。日本円で一人一泊一万五千円ぐらい。

 今後の予定を立てる為に少しのんびりとしてもいいだろう。路銀にも余裕がある。

 観光で来たわけではないので一泊で部屋を取った。料金は後払いである。

 部屋の鍵を手に、案内しますと、歩き始めた支配人の後を追いながら、食堂の利用時間とチェックアウトの時間を聞く。三階の一部屋に着くと、それぞれの部屋にお湯の出るシャワー室があると教えてくれた。

 シャワー室があるのはいい。毎日お風呂に入るのは贅沢なのだ。平民では水を浴びるだけらしい。

 支配人に案内の礼を言ってから案内された部屋に足を踏み入れた。



 そして、現在に戻る。案内された部屋のベッドの上で寝転がっていた。

 グリージョ王国のリナルディ邸の私室のベッドに比べるとやや劣るが、宿のベッドとしてはいい方だろう。

 ふかふかのベッドの上で、疲れを癒やすと、荷物を開ける。中身は下着と着替えの服が数着程度なのだが。本当は道具入れにすべて入れておけばいいのだが、旅行客を装うには旅行の荷物があった方が怪しまれないのだ。

 金銭も道具入れに入れているのでスリの心配はない。

 なぜ開けたかというと、着替えた際に女物の服を適当に入れたことを思い出したからである。綺麗好きでも潔癖という訳ではないが、皴のある服はちょっと目立つのだ。

 改めて畳み直して仕舞う。今度は道具入れからいくつかのものを取り出した。

 最初に手に取ったのは懐中時計に酷似した、方向を示す一本の指針が付いた――羅針盤。

 この羅針盤は転生先で読んだ本(漫画とかラノベとかゲームとか)を参考に作った逸品である。いいアイデアありがとう厨二好きの作者。羅針盤以外にも似たものを参考に作ったものが大量にある。

 この羅針盤は特定の九人を探すことに特化したものだ。

 この世界にいるか、いないか、概念転移式の魔法で行ける範囲にいるか、いないのかが分かる。

 欠点として大量の魔力を消費する。

 魔力消費量を軽減する為に、龍頭のところに魔力を溜め込む機能をつけているのだが、それでも大量の魔力を使用する。魔力は体力に似ているので大量に使うと疲れるのだ。フラフラな状態で移動は避けたかったので、グリージョ王国の王都を出たところで使用しなかったのだ。

 王都にいた間に使わなかった理由は、今の身体に馴染ませる為と龍頭に魔力を充填していた為である。

 今の身体に馴染ませるというのは、簡単にいうと準備運動のようなものだ。

 いきなり長距離を走って筋肉痛になる様に、前世の記憶を取り戻して以前と同じように動くと、身体に負荷がかかり過ぎて支障が出る。どれくらい前だったか忘れたが、身体に馴染ませる前に過去のように動いて失敗したのだ。

 魔法で治したが、非常に痛かった。脱臼するし、筋が切れるわで、思い出したくもない。

 その失敗を活かす為に、記憶が戻ったら今の身体にしっかりと馴染ませてから動くようにしている。

 おかげで、真面目な子だと思われるようになった。割と面倒くさがりで、不真面目で、楽したがる逆の性格なのだが。

 でも、悪いことはなかった。完全に馴染ませた後、昔よりも動けるのは結構楽しい。

 それはともかく。

 龍頭にこれまでに溜め込んだ魔力を確認し、起動させる。

「起動、探索開始」

 目を閉じて集中する。念じるだけでいいのだが、あえて口に出し、無心になって羅針盤に魔力を注ぎ込む。

 


 探索の結果、この世界には誰一人としていないことが判明した。概念転移式の魔法で行ける範囲にもいない。グリージョ王国にいたらどうしようと思ったが、杞憂だった。

 誰か一人でもいたら探し出して会いに行く予定だったが、その予定も完全に無くなった。

 以後は路銀がなくなるまで、グリージョ王国の西を中心に、当てのない気ままな旅行となる。すぐにこの世界を去ってもいいのだが、気ままな一人旅はなかなかできないので、長期休暇としてのんびりとすることにした。

 なお、グリージョ王国の西を中心に旅を行うのは理由がある。

 グリージョ王国は大陸北部の中央部にある。北部の東側は三つの軍事国家が日々、鎬を削っており、国境周辺ではよく小競り合いが起きているらしい。西側は広大な平野が広がり、農耕地に適した土地が多く、観光地も存在する。農業国と観光国しか存在しない。

 大陸の中央には国が存在せず、これまた広大な砂漠地帯が大陸を分断するように広がっており、遊牧民族が暮らしている。

 南は複数の軍事国家が存在する為、東側と同じような状況だ。

 要するに、のんびりと旅をするのであれば、西に行くしかなかったのだ。

 


 一階の食堂で食事を取って部屋に戻り、シャワーを浴びてからベッドに座ると、眠気がやって来た。

 このまま寝たいが、防犯装置を起動させないとどうにも心もとない。

 部屋と窓の鍵を確認し、カーテンを閉め直す。

 荷物を道具入れに収容し、防犯装置を枕元に置く。防犯装置といっても、簡易結界を張るだけの装置だ。どこの世界にも不法侵入者はいる。用心するに越したことはないのだ。

 明かりを落とし、簡易結界を張り、今度こそベッドに潜り込む。

 目を閉じると意識が遠のく。魔力を大量に消費したからか、普段よりも早かった。

 

 

 こうして、家を出た初日は終わった。

 今頃家はバタバタしているだろうが気にならない。

 自分が薄情なのかは不明だが、父に愛想を尽かしているのは事実だ。

 考えるのは止めよう。

 明日から、当てのない旅になる。



 夢を見た。

 母の葬儀が終わってから半月後。

 初めて、継母と義弟と義妹に会った日。

 休校日だったこの日は自室で勉強をしていた。卒業試験が近いのに、母の葬儀の喪主を務めなくてはならなくなった為、学院を急遽数日休む羽目になった。授業の遅れが出ていないのが幸いである。

 自室のドアをノック音を聞いてから時計を見る。ちょうど昼食の時間だ。

 部屋に侍女が入室してきたが、何が起きたのか眉間にしわができている。

 聞けば、父が継母と義弟と義妹を連れてきたらしい。今月末から一緒に住むとか言っていたことを思い出す。今日はその顔合わせで連れてきたのだろう。

 内心でため息を吐いてから、試験勉強に集中したいので部屋で取りたいと侍女に告げる。侍女は分かりました、とだけ言って退出した。眉間のしわが消え、頬が若干緩んだように見えたので、自分が何と言うか気にしていたのだろう。

 自分の都合で母を死に追いやった父に譲歩する気はない。

 それからしばらくして。

 再び試験勉強に集中していると、今度はノックなしで部屋のドアが荒々しく開け放たれた。

 教科書から顔を上げて、出入口を見やると、見たことのない形相の父が立っていた。

 部屋に入るのならノックをしてから入って、と言えば父の額に青筋が浮かぶ。親しき中にも礼儀ありと言わないのか、自分の思い通りにならない事に怒り心頭なのか。どちらでもいいが、こっちの都合も考えて欲しい。

 顔を背けて、教科書に視線を落とす。父の我が儘に付き合っている暇はないのだ。卒業試験の追試受験者は名前が公表され、それなりに恥をかく。プライドの高いものが多い貴族は、ここで名前が公表されると卒業後も陰で笑われる。

 恥云々以前に、何度も試験を受けたくはないので、何としてでも一回で終わらせたいのだ。

 父も同じ学院の卒業なので、それは分かっているはず。はずである。

 足音を立て歩み寄って来て、机に拳を落とした。机の上のペン立てが倒れるほどに大きい音がした。ついでに怒声も響く。

「勉強などいつでもできるだろう!」

 訂正。分かっていなかった。

 この男はどれだけ自分優先なのだ。眉間にしわを寄せて肩を落として盛大にため息を吐く。

 歯ぎしりと右から風切り音が聞こえてきたので、右腕を上げて飛んでくる何かを防ぐ。鈍痛と破裂音。右腕は父の張り手を防いでいた。

 癇癪を起して手を上げるとは、何を考えているのだ。

 こういうところは似たもの夫婦だな、などと思っていると、執事が血相を変えてやって来た。父の張り手を防いでいる状況を見て、目を細める。父は慌てて手を下げた。

「お嬢様。お怪我はありませんか」

「防げたから大丈夫。あえて受けて伯父上に相談するか、食堂にいる人たちに見せた方がよかったかしら?」 

 袖を捲くって、右腕の状態を確認しながら、執事の問いに答える。ちょっと赤くなっているが問題ないだろう。

 一方、父はこちらの考えを聞いて、さっと顔を青ざめさせた。

 この様子から推測するに、伯父から何か言われているらしい。執事を見れば、笑顔で頷いた。後で伯父に話を聞きに行ってくれるようだ。

 そして、笑顔のまま父を引きずって部屋を出て行く。入れ違いで侍女が昼食を持ってきてくれた。

 礼を言って昼食を取り、皿を下げてもらう。

 食休みを取った後、再び勉強を始めた。

 どれくらい教科書に向き合っていたのか。

 喉が渇いたので、お茶を貰いに居間に向かった。階段を降り、一階の廊下に足を踏み入れると、侍女が何人かこそこそしているのが見えた。

 位置的に、ちょうど居間のドアの前にいる。

 近づくと、談笑が聞こえてきた。聞き覚えのない男女三人と父の声である。ここまで楽しげな父の声は初めて聴いたな。

 侍女たちがこそこそしているのは、単に覗き見ているのだろう。

 壁を軽く叩いて侍女たちを振り向かせる。ささっとこちらに歩み寄って来たので、お茶が欲しいと用件を告げる。了解の応答をし、一礼してから侍女たちは去った。

 部屋に戻ろうと踵を返したところで、小さくドアが軋む音が聞こえて来た。碌な事にならないので振り返らない。

「あ、あの、待って、待ってください!」

 声音は少女のもの。恐らく義妹の声だろう。無視して歩くと呼び止める声が半泣きになって聞こえてきた。足早に歩き、階段に足をかけると、今度は父のいい加減にしろと言う怒声が響く。

 まったく。いい加減にして欲しいのはむしろこっちなのだ。

 今まで放置していた癖に、今になって父親面か。没落を防ぐ事しか考えていないのだろう。女は道具か何かにしか見えていないのか。面倒な、と思っていると追加で聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「父上、今の怒声は何ですか?」「どうしたの?」

 階段を登りきり、吹き抜けから視線だけ動かして階下を見る。忌々しそうにこちらを睨む父と、泣き顔の金髪の少女の顔が見えた。対照的な二つの顔を無視して部屋に戻る。

 まったく、憂鬱すぎる。

 


 夕方。

 あの後、屋敷を抜け出し、王都の城下町に散歩に出た。

 帽子を被り、腰まである髪を首の後ろで一つにまとめ、簡素なワンピースとブーツという服装に着替えたので目立ってはいないはずだ。もちろん、認識阻害のペンダントを首から下げた。だから問題ない。

 まぁ、散歩と言っても城下を一周するように歩き、買い食いしただけだ。

 城下一周は軽い運動になった。良い運動だった。憂鬱な気分が晴れる程度には。

 日が大分、傾いてきたので、抜け出した時と同じようにこっそりと屋敷に戻り、急いで着替えた。

 ちなみに屋敷内では簡素なドレスを着ている。本当はワンピースなどがよかったのだが、貴族に転生してしまったが為に諦めた。代わりに、ドレスは人前に出ても問題ない程度に簡素なものを選んでいる。

 公の場でもないのに、一人で着られないようなドレスは、着たくはなかった。ちょっとした譲れないこだわりである。

 勉強の続きでもするかと机に向かうと、ドアがノックされた。

 返事をすると、入室してきたのは執事だった。また何かあったのかと首を傾げると、執事は憂鬱そうに口を開いた。

「公爵様が、お見えになりました」

 公爵――つまり、伯父がやって来たらしい。詳しく聞けば、今日リナルディ家で継母と義弟、義妹と会う約束をしていたらしい。それで連れて来たのかと一人納得していると、後ろから一人の侍女がやって来た。多分、着替えの手伝いだろう。

 伯父が来た以上、居間に向かわなくてはならないだろう。その推測通り、執事も伯父が自分も一緒に話を聞くと良いと言っていると告げた。

 了承の意を伝えると、執事は退出した。自分は侍女と一緒にドレスを選んで着替えた。そして、階下の居間に向かうと、言語にしがたい重い空気が漂っていた。

 ソファーに座る伯父は、無言で対面の父を睨んでいる。父は蛇に睨まれた蛙のように、脂汗を流しながら硬直している。身動ぎしない父の背後には三人の男女が立っていた。ハラハラとした表情で父と伯父を見ている。

 中央の金髪の女性は、外見年齢が母と同じなので、恐らく、彼女が継母のはずだ。その左右に、父と継母を十数歳若返りさせたような容姿の男女がいる。こちらの二人が義弟と義妹なのだろう。

 何をどうしたらこんな状況になるのか。

 天を仰ぎたい気分になったが、ここは堪える。十中八九父が原因だろう。

 関わりたくもないが、異様に重い空気の払拭と部屋への退却の為に、意を決して伯父に声をかける。

「伯父上。アニューゼ、参上致しました。本日は如何されましたか?」

「おお、アニューゼ。久しい、いや、半月ぶりだな」

 伯父がこちらに顔を向け、表情を和らげる。お久しぶりです、とドレスの端を摘んで、淑女の一礼をする。所謂、カーテシーというやつである。世界によって違うが、この世界では上体を前傾させて、身体を上下に動かす。身体を上下に動かすこの動きは、慣れないとよろめく事が多いので、習得が難しかった。なぜ、ドレスの端を摘まんで片足を軽く引き、上体だけで軽くお辞儀をするとか、そういう簡単な動作ではないのか。そう思った事は一度ではないが、上手に出来るとやたらと褒められるので、習得の達成感は良かった。現に、伯父も一礼を見て満足そうに頷いている。

 ここまで忘れていたが、父はこちらを睨もうとして、伯父に感づかれた為、視線を彷徨わせている。父の背後の三人は、こちらの一礼に合わせて、頭を下げてきた。父とは大違いである。

 伯父からソファーに合わせたスツールに座るように勧められたので、何も言わずに従う。長い話になりそうだ。

 自分の目の前に紅茶が注がれたティーカップが出されてから、改めて、伯父の訪問理由を尋ねる。

 重いため息を吐くように、今後のリナルディ家の扱いについてだ、と言ってティーカップに手を伸ばした。

 今後の家の扱い。

 父のやらかしたことを考える。

 愛妾がいることを隠し、公爵家を騙して公爵家令嬢を娶り、妻と娘を十数年間放置し、愛妾とその子供だけを構い続けて、妻を死に追いやった。

 公爵家を謀ったとして訴えられそうだな。実際、公爵家のコネで伯爵に成り上がっている。恩を仇で返すを地で行くことをやっている。

 今すぐ潰されそうだ。潰れるのが今日明日でなくとも、没落コースは確定だろう。

 湯気が立ち昇らぬほどに冷めた紅茶を飲み干した伯父は、続きの言葉を紡いだ。

 リナルディ伯爵を詐欺罪、謀殺罪、妻子の虐待で訴えた。

 手続きは終わっており、爵位と身分の剥奪の決定は全て国王が決める為、近い内に登城することになる。

 現在の職務は解任。これまでの功績はすべて白紙。以後は文官として扱わない。一領主の扱いとなる。

 そして、国王との拝謁の際は自分も同席。なぜなんだろう。

 自分が疑問に首を捻っている横、父の顔は血の気がなくなっていた。ガクガクと震えているようにも見える。意味が合わないが、砂上の楼閣が地震で今にも崩れそうな光景だ。

 いくつか伯父に確認することがある。

 登城の日程が決まっていないのは分かるが、卒業試験の日程と被らないか。

 拝謁は父一人で十分。自分の同席理由が不明。

 一領主の扱いとなると、領地の別邸に移る必要が出てきそうだ。今月末から父、継母、義弟、義妹が本邸に移って来る。そのあたりどうすればいいのだろう。

 などなど、その他諸々を伯父に尋ねる。

 まず、登城の日程は卒業試験の後になるらしい。そのあたりは考慮してくれたそうだ。

 次に、自分の同席理由だが、父の代わりに喪主を務めたからだそうだ。なんと面倒な。

 そして、領地の別邸に移る必要は無いそうだ。ただし、これまで通りに別居が望ましいそうだ。だが、四人が今月末に移って来ると知ると、伯父は父を睨みつけ、説明を要求した。伯父対策以外に、理由など無いのだろう。口を開いて固まった。

 父の様子に伯父を見ると、伯父もこちらを見た。伯父と顔を見合わせてから、二人して肩を落とした。どうやら言い訳のネタが尽きたらしい。

 しばしの間、父を眺めていると、父の背後で眉を顰めていた義妹が口を開いた。

「家族なのに、同居の何がいけないのですか?」

 何を言っているのだ、この女は? 馬鹿なのか? どこに自分の家族がいる? 父はいないも同然だったのに、それが分からないのか? そもそも、いきなり家族扱いとか、何を考えているの?

 伯父だけでなく、継母を挟んで立つ義弟も愕然としている。

 自分と伯父が呆れ返っているようすが気に食わないのか、眉を吊り上げて、叫ぶように疑問を口にする。

「家族は一緒に住むものなのに、同居に何の問題があるのですか!?」

 伯父と一緒に頭を抱える。気付いていないことがある。少しでも考えれば気付くだろうに、なぜ気付かないのか?

「家族は一緒に住むもの? では、なぜ妹とアニューゼは本邸に放置されていたのだ? その理由が分かるのだろうな?」

「一緒に住むから家族であるなら、私の家族はあなた達ではなく、亡き母と執事や使用人の皆だと思う」

 父と継母と義弟が慌てているが、この際無視して、言葉を続ける。

「それに、私はそこの男から名前すら呼ばれたことがない。会話もない。話しかけてもずっと無視された。私や母のことを忘れた。私の顔も名前も存在も思い出せない。母に対する最低限の義理である喪主も、私に肩代わりをさせて謝罪もない。母と私を利用して好き勝手やっている男が、あなたの父親。今まで散々放置しておいて、家族も何もない。今も、私を利用して、状況の悪化を少しでも防ごうとしている」

「で、でも……」

「でも、じゃない!」

 馬鹿なことを言い始めようとした女の口を、一喝して止める。聞くに堪えない、現実が理解できていない女の言葉など聞きたくもない。

「十年以上も時間があったのに、なぜ今まで会ったことが無いのよ! なぜ、ずっと放置だったの! 私が、あなた達の、家族と認識されていないからでしょう! なぜ、それが分からないの!? 家族だから一緒に住む? 私からすれば、あなた達は赤の他人も同然。今更、家族面しないで。あったこともない他人を、父親が同じだから家族として受け入れろ? どうして、私が受け入れることが前提なの!? どうして、受け入れてもらえると思っているの! そもそも、相手に我慢を強いることがなぜ平然とできるの!?」

 腹が立つ。今まで散々放置しておいて、困ったから助けてくれ? 娘の名前も思い出せない男など、助ける価値もない。

 スツールを蹴倒して立ち上がり、怒りのままに一気にまくしたてる。目を潤ませ、頬を膨らませて、怒っている義妹の姿が更なる自分の怒りを誘う。

「それとも、状況が分からないの? そこの男が、悪いことをした加害者。私と伯父は被害者。悪いことをしたら怒られるのは、当然でしょう。それとも、父がそんなことをするはずがない、とでも思っているの? 悪いことをやった証拠があって、悪いことをやったから、今の状況になっているの! 目の前の現実を、自分の都合のいい妄想に置き換えないでくれる?」

 隣の伯父が頷いている。なぜか、継母と義弟は頭を抱えている。父は居心地が悪そうだ。

 義妹が言葉を口にしようとして、義弟に止められた。

「止めなさい」

「だ、だって」

「だってじゃない。いいか。現状を鑑みるに、謝罪の一つもしていない、父が全面的に悪い。お前が口を挟むと、状況がより悪化する。父の説明責任はこの後果たしてもらえばいい。それに、だ。この十数年間、毎日、向こうの家に帰って来ていた。それは、この家に帰ってきていない証拠だ。それは、俺達が父を奪ったという扱いになる」

「う、奪った、なんて」

 なぜ、自分に都合の悪い部分に反論しようとするのか。おつむが悪すぎやしないか?

 ちらりを横を見れば、伯父が怒りを通り越して呆れ果てている。

「喋るな。続きを聞け。いいか、俺達は父を奪った人間として、憎まれてもしょうがない状況なんだ。いきなり押しかけて、家族だと言っても受け入れてもらえる訳ないだろう。それに、同居するってことは、他人と一緒に住むってことだ。向こうからすれば、俺達は家族を名乗る素性不明の他人。しかも、父が原因でよく思われていない。どうしてお前は、この状況でも自分に都合良く、自分はよく思われていると考えることができるんだ?」

 本当だよ。義弟の言葉に伯父と頷く。だが、この女は分からないらしい。なんで、どうして、と泣きそうな顔をしている。どれだけ馬鹿なのか。

 これ以上の会話は不毛だ。侍女の誰かが起こしてくれたスツールに座り、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す。

「こちらにも予定があるので、同居は嫌です。その様子ではしつこく構ってと、こちらの都合を無視する気満々なのでしょう」

 父と馬鹿女が睨んで来るが、睨み返す。

「相手のことを考えることができない人と一緒に住むのは嫌。別邸はまだ引き払っていないのでしょう? さっさと帰って、四人で家族団欒に勤しんだらどうですか」

 継母が唇を噛んで僅かに俯く。義弟の表情も険しい。馬鹿と父は怒り顔だ。

「貴様が原因だろう! その顔は何だ!」

 伯父の怒声に父の顔が引き攣る。馬鹿は伯父を睨んでいる。

「伯父上。同居拒否の要望は言いました。卒業試験まで日があまりあるわけでもないので、退出してもいいでしょうか?」

 意訳:同居は嫌。部屋に戻って勉強してもいい?

「下がってよい。追試を受けるのは恥だからな」

 伯父から退出の許可を取り、立ち上がる。頭を下げて素早く脱出する。

 呼び止める声は無視した。

 侍女の一人と共に部屋に退避し、部屋でドレスからいつもの簡素なワンピースに着替える。侍女に夕食は部屋で取ると告げ、退出してもらった。

 ドアが閉まってから、ベッドの端に腰かけ、背中から倒れ込む。

「とんだ災難だった」

 目を閉じて、階下であったことを回想する。交通事故よりも最悪だった。

 そして、同居は不可能であることが分かった。自分の妄想が正しいと思っている馬鹿な子と住む? 冗談ではない。嫌だし、無理だ。それに、これまでの過去での経験が、頭で激しく警鐘を鳴らしている。

 自分の人生――記憶が戻る前と、記憶が戻った後――を滅茶苦茶にした奴らと同類だと。

 男女問わずに、あの手の馬鹿が原因で、自分の人生は何度も狂った。本人は自分にとっての良かれだろうが、こっちからすると最悪だ。善意一色で動いているので、質が悪いことこの上ない。

 関わらない方針でいたいのだが、今日の様子を見ると無理っぽい。

 家を出るしかないか。

 その結論に至ったところで、ドアがノックされた。返事をすると、侍女が夕食を持ってきてくれた。

 料理長が作ってくれた料理を有り難く頂き、完食する。皿を下げてもらう際に、後で夜食用の軽食が欲しいと侍女に伝える。

 侍女は返事を返すとスッと下がる。気のせいか、心なしか嬉しそうだったな。

 気分を入れ替え、机に向かったところで、ふと気付いた。

 自己紹介をやってない。



 ――そこで目が覚めた。

 カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。見慣れない天井、否、宿の天井をしばし眺めた。

 夢を見た。夢の内容をはっきりと覚えている。

「なんて夢を見るんだ」

 独り言ちてから上体を起こす。身体に倦怠感はない。夢が原因で気疲れはあったが、問題はない。

 寝る前に展開した簡易結界を解除し、身支度を整える。

 一階の食堂にまで下りれば、既に朝食を食べている宿泊客が何名かいた。こちらも同じ客なので気にせず朝食を取り、部屋に戻って荷物の確認をする。

 手荷物を持って受付に向かい、支配人と朝の挨拶を交わし、部屋の鍵を返却して、料金を支払う。

 料理が美味しかったので、機会があったらまた泊まりたい。

 別れの挨拶をしてから、宿を出る。朝の清澄な空気が心地よい。

 王都内を歩く。色んな人がいる。老若男女問わず、皆表情が明るい。そんな人混みの中を歩く。

 ――人でありたいのなら、人と共に生きよ。それができなくなった時、お前は人ではなくなる。

 不意に、今となっては顔も思い出せない男に、言われた言葉を思い出す。

 どんな状況で、どんな風に言われたのか、それすらも覚えていないが、言葉だけは、記憶に残っている。

 天を見上げる。雲一つない青い空が広がっている。

「羨ましい」

 自分の心は曇っている。湧き上がる感情もない。ただの何となくで、日々を過ごす。

 自由はいい。でも、ある程度の束縛があるからこそ、いいものに見える。束縛のない今の自分は、流されるだけで、どこにでも行けるが、どこにもいられない。

 ――束縛が居場所でもあった。

 頭を振って思考を追い出す。気付けば止まっていた歩みを再開させる。

 家を出て僅か二日目で、ホームシックとは情けない。

 旅はまだ、始まったばかりだ。



 家を出て数ヶ月後。大陸北部の、西の端の国に辿り着いた。

 自然が美しい観光立国である。

 この国に来るまでに立ち寄った国も、平和でよかった。平和ボケしそうだった程だ。

「……飽きた」

 現在、リゾートホテルの一部屋に泊まっている。台詞はベッドでごろごろしながら呟いた。

 平和であることはいいが、やることがない。

 こんな台詞が出てきてしまうほどに、自分は平和に馴染めないのか。

 もちろん、平和の獲得と維持の難しさは知っている。だが、今の自分は維持する側ではない。そうであるが故に暇なのだ。

「どーしよう」

 観光しようにも、有名どころは大体回った。知る人ぞ知る、なんて観光地は存在しない。

 退屈を持て余しごろごろとしていると、視界の端にカレンダーが入った。

 二日後、自分の誕生日なのか。

 誕生日と言っても、アニューゼ・リナルディとしての誕生日である。意味がないわけではないが。

 これまでの誕生日を思い返す。

 執事と使用人一同から祝われ、料理長が作った食事を立食形式で皆で食べた。

「皆どうしているのかな?」

 自分がいない以上、伯父は間違いなくリナルディ家を潰すだろう。父が路頭に迷う分には別に構わない。そこに関して罪悪感はない。

 それ以前に、罪人として捕まっているだろう。

 執事たちの様子は気になるが、見に行くわけにはいかない。行ったら公爵家に連れて行かれるだろう。

 しばし悩むが、明日決めようと、丸投げした。



 夢を見た。

 何となしに顔をあげると、煉瓦とは違う石を積み上げたと思しき壁が視界に入る。

「どうした?」

 右隣に男がいる。なぜか、顔がぼやけて誰か判断できない。誰か分からないのに、なぜ男と判断できたのだろうか。

 少し考え、低い声と、見上げる動き、こちらの手を包むように掴む手の大きさから、判断したのだろう。

 何でもないと返せば、そうか、と返事が返って来る。

 手を引かれて歩く。歩いていた間ずっと無言だったが、不思議なことに心地よかった。

 何か話題を――かつての自分なら、この沈黙に耐え切れなかっただろう。

 孤独な時間が永過ぎたせいか、誰かと無言で一緒にいる時間が辛かった。何か喋らなくてはならない。口を開いて嫌われることが多かった。今思えば、自分の殻に閉じこもって、相手を無視すればよかったと思う。

 しばし歩き、部屋に辿り着いた。

 ドアの左右に二人の兵士らしき男が二人いる。兜は被っているが鎧を身に着けていないので判断が難しい。しかし、腰に短剣を帯び、男の身長よりも頭一つ分長い槍と小振りな丸型の盾を持っているので、多分兵士だろう。実際、近づいたら直立不動で敬礼をした。緊張というよりも、ここに立っていることが名誉だという顔をしている。

 二人に労いの声をかけて部屋に入った。

 


「……」

 なぜかそこで目が覚めた。二度寝を考えたが、眠気はない。ベッドから降りて、カーテンを開ける。空はまだ暗い。曙というには暗く、暁というには明るい。

 窓を開けて朝の清澄な空気を浴びる。冷たい空気が心地よい。深呼吸をして肺の空気を入れ替えるが、気は晴れない。先ほどまで見ていた夢が原因だろう。

 部屋の明かりを点けて、備え付けの茶器でお茶を淹れる。この国では、あまり紅茶が飲まれないのか、ハーブティーの茶葉が置いてあった。

 コーヒーは存在しない。グリージョ王国にいた頃に飲んだ飲料は、水と紅茶、果物を絞ったジュースだけだ。たまに、甘い炭酸飲料が恋しくなる。ちなみに、発泡酒も存在しない。

 カップにポットからハーブティーを注ぎ、小さな壺からを角砂糖を取り出し何個か入れ、スプーンを使って溶かし混ぜる。

 出来上がった熱々かつ甘いお茶を口にする。熱湯が喉を焼くような感覚が心地良く、多く入れ過ぎたのか砂糖は舌で甘みをこれでもかと主張し、すっきりとした香りが鼻腔を抜ける。

 いつもなら、これで多少気分が変わる。変わるのだが、

「やっぱり、長居し過ぎたのか?」

 気が晴れず、変わらない原因といえば、これくらいしか思い浮かばない。

 長居――この世界に何の目的もなく、長居する。

 長期休暇気分で過ごすのも、たまには悪くないかも。そう思って長居していたのだが、逆効果だったらしい。

 カップの中身を飲み干して、目的を考える。そう、永く、何度も続く、転生の旅の目的を。

 ――旅の終わり。自分が消えるという、完全な終焉の探求。原因の捜索。

 目的を思い出し、この転生の旅はなぜ起きたのか思い返す。

 ――あの男。身勝手なあの男の実験に巻き込まれ、私達十人は、終わらない旅を続けている。

 過去何度か探し、運よく一度会うことができた。だが、それ以降は会えなかった。

 どういうわけか、望んだものの位置を特定するという、特殊な魔法の羅針盤を創っても、見つからない。他の九人に聞いても同様だった。

話し合いの結果、『あの男は見つからないように念入りに隠れている。会えるかどうかは運次第。会えたら即殺す』という結論に至ったのだ。

 復讐者のような、否、復讐者としか言いようのない帰結だが、だれも異論は挟まなかった。

 ――長すぎる旅路は心を疲弊させる。目的はあったほうが良い。

 これには賛成した。これまでに、何度も投げやりになりそうになったのだ。いつまで続くのだ、と。

 再びカップにハーブティーを注ぎながら思う。現役のシスターと医者も同意するのだから、どの程度恨まれているか理解できるだろう。

 大陸南部と北部東の軍事国家地帯にいるだろうかと思うが、その考えをすぐに打ち消す。

 そもそも、あの男に出会うには、偶然という可能性に賭けるしかないのだ。ならば、探し出す必要はない。

 あったら即座に殺せるように、鍛錬を欠かさなければいい。

 ここまで考えていると気が楽になってきた。

 物騒極まりないが仕方がない。

 小さくため息を吐いてから、無糖のハーブティーに口をつける。

 ちょっと苦かった。



 それから翌日の夕方。

 再び中央にまで戻って来た。中央といっても、グリージョ王国南隣の王国の王都にいる。

 さて、どうしてここにいるのかというと、地図を思い出しながら、北部で寄ったことのない軍事国家じゃない国はないよね~と思っていたら、一国だけ寄っていない国があったのだ。

 西に向かって飛んでしまったために今まで忘れていたが、グリージョ王国の南側にも国が一つだけ存在する。グリージョ王国と比べると、国土の三分の二が人の住めない山ばかりで、南部は砂漠化が進み、更に住みにくくなっている。

 人口の減少自体は起きていないが、そう遠くないうちに起きるだろう。

 それが起きる前である今はまだ快適だった。

 王都の造りは、グリージョ王国に似ている。例の如く、王都の門番で宿について尋ね、現在宿の一部屋にいる。

「これでいいな」

 魔力充填作業の手を止め、手に持った宝飾品を見る。

 これはただの宝飾品ではない。れっきとした魔法具である。魔法が存在する世界なら、伝説の国宝級とされるほどの自慢の一品である。用途を考えなければだが。

 宝飾品は――現役のシスターがいたので――ロザリオのような形をしている。十センチ程度の大きさの銀の十字架の頭頂に、各自の魔法光と同じ色の石を十個、数珠のようにつけたものだ。

 自分の石の色は赤だ。だが、現在の自分の魔法光の色は、変色してしまった為違う。オーロラのように揺らめき、虹のように複数の色が混じったような色をしている。

 決して、赤色単色ではない。

 魔法光の色が変わった原因も分かっている。  

 苦々しく思ってしまう。なぜこんな色になってしまったのか、――被害者なのに加害者扱いされ、救助者なのに加害者扱いされ、どんな世界でも用済みになったら迫害され、

「やめやめ」

 その先を思い出してはならない。

 見捨てた人間は思い出さないと決めたのだ。たとえ家族であっても。

 息を吐いて気分を変え、今後の予定を思い出す。

 明日は、アニューゼ・リナルディの誕生日。そして、この世界から去る日でもある。

 ロザリオを道具入れにしまい、荷物をまとめ、夕食を取ってから、眠りについた。



 作業のおかげか、夢を見ることなく熟睡した。目覚めはすっきり爽やか、というわけでもないが。

 朝食を取った後、荷物を持って宿を出た。

 王都内ををしばし散策し、昼食を取り、それなりに繁盛していそうな喫茶店に入りケーキセットを注文する。路銀に余裕はあり、珍しいことにパフェが存在したので注文を考えたが、食べ過ぎだと思ってやめた。

 支払いを済ませ、北――グリージョ王国に向かった。



 日は沈み、血の様に赤く染まった空を視界に収め、自分は墓地に歩いていた。夕暮れ時である為、自分以外の姿はない。ここは王都郊外とは言えの墓地である。人気が無いのはある意味当然だろう。

 人々は夕餉の準備の途中であったり、家路に着くものばかりだ。旅人も宿を探す頃合いだ。 

 自分の様に、帰る場所がなく彷徨う人間はいないのだろう。

 ――永い旅、放浪の果て、終焉に得るのは己の死なのだろうが、その過程で得るものにどんな価値と意味があるのか。

 そんな事を考えている内に、目的の場所に到着した。

 白く、周囲のものよりも新しい墓石。まだ一年、否、半年も経過していないのだ。周囲の、どの墓石よりも、新しく見えるのはある意味当然だろう。

 墓石に刻まれた名は――ヴィルジニア・リナルディ。数か月前に自殺した、母の名が刻まれていた。

 手向ける花はない。自分もこの女は嫌いだった。

 坂月菊理の記憶を取り戻した原因も、この女だからだ。

 四歳の頃、中々父が帰って来ない事に発狂した母の手で、首を絞められ――自分は記憶を取り戻した。

 割って入った使用人に救助されたが、救助してくれた使用人は、雇用主に逆らったと、追い出されてしまった。執事が手を回して再就職できたそうだが、当時の使用人達はさぞかし怖かっただろう。

 自分が産んだ子供を平然と殺そうとする発狂女に、助けて悪者扱いされ、いつ暴力を振るわれるか分からない恐怖に負け、再就職先も決めずに何人もの使用人が去っていった。本邸の最古参は執事だけである。

 以後、自分は母に近づくのを避けた。自分の身と使用人達を冤罪から守る為に。最も、自分を助けて追い出される頻度を減らす程度の効果しかなかったが、やらないよりはましだった。

「何でなんだろうな……」 

 墓石の前で片膝を突いてしゃがみ、刻まれた名を指でなぞる。指先に伝わる溝の凹凸が、この女がここで生きていた証の様に思える。

 ――自分は、名を刻む墓すら持てないというのに。どうして、この女は持てるのだろうか。

 何を思っても、溜息しか出て来ない。

 嘆き、怒り、悲しみ、憎しみ――血のつながった両親から与えられたものは負の感情ばかり。逆に、血のつながりのない使用人達からは喜びを始めとした正の感情を与えられた。

「どうしてあたしは、血のつながった家族と上手くやっていけないんだろう?」

 どこの世界に転生してもそうだった。

 血のつながった両親、同母姉弟姉妹、同父兄弟姉妹と仲良くできなかった。異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹でも、上手く行きそうな時が何度かあったが失敗した。自分に原因があるかもしれないが、上手く行った試しは、覚えている限りほぼない。

 血のつながった家族に忌み嫌われ、敵意を向けられ、捨てられて――自分は彼らを見捨てた。どこに行っても、家族を見限り、縁を切らねばならなかった。そう、自分を捨てておきながら、困った助けてくれと、縋り付かれても、切り捨てた。

 苦痛ばかりだった。

 何せ、記憶を取り戻す大体の原因が、家族から受ける暴行などの虐待だったからだ。

 記憶を取り戻せば大体どうにかなる。世間体をどうするかで頭を悩ませることはあったが、記憶に干渉する魔法で乗り切ることが多かった。

 記憶を取り戻さなかった人生がどうだったか不明だが、自分が望んだありふれた人生であっただろう。

 そこまで考えて、家族と呼ばれるものの縁の無さに苦笑してしまう。

 何んとなく空を見上げると、大分暗くなってきた。

「頃合いか。――さよなら。一発殴りたかったよ」

 引っ叩きたかった亡き母の頬の代わりに、墓石を指先で軽く小突いた。

 ロザリオを道具入れから取り出す。荷物と道具入れを宝物庫――魂と縁をつないだ亜空間――に収容する。

 去る準備は整った。

 ロザリオを手に、転生魔法起動用魔法具の起動詠唱を行う。

「因果の果て、旅路の終焉を求めて、我は往かん」

 虹色に変色した魔法光に包まれる。あれほどまでに嫌いだった赤色ではなくなったことを思い出し、気分が沈む。

 体は軽くなり、立っているのか浮いているのかすら、判断不明になる。

 恐怖はない。痛みはない。

 次はどんな世界に転生するのか、そんな好奇心も湧いてこない。

 この転生の旅が早く終わればいいのに。そんな渇望しかない。

 ロザリオを持っていた感覚が消える。役目を果たして、宝物庫に自動収容されたのだ。

 目を閉じて、叶うことの無い願いを思う。

 

 ――今度こそ、ありふれた家族が与えられるといいな。


 意識が途切れる。

 次はどんな世界に流れ着くのだろう。





 こうして、アニューゼ・リナルディとしての人生は幕を下ろした。

 たまに転生する、魔法が存在しない世界でよくある人生だった。

 アニューゼ・リナルディとしての人生は、坂月菊理からすると、ありふれた人生の一つに過ぎず、そう遠くない内に永い記憶に埋もれて忘れるだろう。

 故に、今後、思い出す事はない。

 転生しても、記憶を必ず取り戻すかは定かではない。

 転生の旅は終わらず、これからも続く。

 心が壊れ、慟哭を響かせても、終わりは見えなかった。


 Fin




お読みいただきありがとうございました。

リハビリとして最初に書いた小説です。

菊理の大まかな人生設定はここから始まった。

回想に出てくる人物も、機会があったら一覧を作って投稿を考えています。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
 それから翌日後、夕方。 翌日後がググっても出てこない。 翌日午後だったのをやっぱ夕方と修正した時に衍字になったとかでしょうか?
このシリーズが好きで、完結しているものから繰り返し読んでいます。 ただ、この話もそうですが、読んでいて気になる点が。義姉、義弟、義妹の使い方が間違っています。義◯は、血の繋がりがない場合(再婚などで、…
[一言] とりあえずまともそうだった義弟には幸があるといいね
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