愛する人ができたので婚約破棄したいと王太子殿下に相談されたので、有責でない私から婚約破棄に対するメリットとデメリットを提示してみた件について
「真実の愛する人ができたので、婚約破棄したい」
「いいですわよ別に」
私は婚約者の王太子殿下の申し出にはいと頷きました。あまりにも簡単に言われると面食らうといわれましたが。
「だって私、殿下が浮気をしているのは存じていましたし」
「え?」
「町にお忍びでいかれた時、屋台の売り子をされていたメリッサさん十五歳ですわよね。栗色の髪に瞳の愛らしい方だそうで」
「どうしてそれを……」
「殿下の身辺調査をするのは王太子の婚約者としては普通ですわ」
「……普通」
「常識ですわ」
私はお茶を飲みほし、これくらいは常識ですと頷きました。
戸惑う殿下を後目に婚約破棄した場合のメリットとデメリットについてお話合いしましょうと私は笑ったのです。
「まず婚約破棄のメリットは、真実の愛に生きられるということですわね」
「ああ……」
「まあそれももって20年ですか……」
「え?」
「真実の愛に生きた伝説の人のなれの果てがうちの両親ですから……よい見本がいますわ」
私は20年前に男爵令嬢と公爵令息が運命の恋のやらとひかれあい、壮絶な婚約破棄の上、結婚したのをご存じですわよね? と問いかけました。
「ああ君の両親だよね」
「ええ、そして20年後ですけど、父は容色が衰えた母に愛想をつかし、若くかわいい愛人とやらを作り家にはほぼ戻りませんわ」
「はあ?」
私はふうとため息を一つつきます。
ロマンスの上結婚したはずなのに、うちの両親は今家庭内別居状態です。
「あの当時、母は16歳、父は18歳、愛らしくかわいらしいと評判の母に恋した父は侯爵令嬢との婚約を破棄し、母と結婚しました。蜜月は長くは続かず…私を産んでから太りだした母は容色が衰え、もう今は見る影もなく……」
「……」
「あの白豚と言われているわが母はご存じですわよね?」
「……ああ」
私は殿下が黙って遠い目をするのを見ました。私は母は20年前、王国の花と言われた愛らしい少女でしたのよと言いますと、面影は君にあるなと言います。
「私は父に似てますわ」
「そうか」
私はどうしたって愛は永遠じゃないのですわと語ります。
「母は結婚して4年後に私を産んで、そこから太り始め……今は見る影もなくでっぷりです。シミもしわも」
「ああ」
「そして……父は白豚の母に愛想をつかし、若くかわいい愛人を運命の恋から6年後に作りました」
私は両手を上にあげます。物心ついた時から父は家に帰ってきたことはほぼなかったですから。
私は母も同様ですけどと遠い目で殿下を見ました。
「お母上もか?」
「若い愛人を作ってはべらしてます。お金だけはうちありますし」
「……」
「跡取りの弟が生まれてからもう二人とも顔を合わせることもありません。義務は果たしたと言ってました」
「……」
「ふふ、これがメリットですかねえ」
「……そんなことになっていたのか」
「ええ」
ロマンスを聞かせるたびに嘘だろうと思っていましたけどね。
だって物心ついたころからあれでしたし。
「父はもう髪も薄くなり、お腹も出てますから、似た者同士だとは思いますけど」
「……」
デメリットを一緒に語ってしまいましたわねと私は謝罪しました。
どうしても両親のロマンスをお話しするときは一緒になってしまいますの。
「いやいい」
「デメリットはまあ、容色は年月とともに衰えるということです。愛らしさ、美しさ、かわいらしさ等々は一時のもの」
「……」
「氷の貴公子と言われた父も禿の豚ですし」
「そこまで言わなくても……」
「物心ついた時からろくにあったこともない他人より縁がないひとですもの」
かわいげのない娘と言われて十数年、父は外に娘を作ってますし、腹違いの妹とやらに私はよく小ばかにされてますわ……。
殿下にメリットはもって20年ですかねと言うと、ロマンスが遠いと殿下は上を向いています。
「あとは婚約破棄をした後の父の評判は地に落ちましたわ」
「……」
「あとは慰謝料、かなりの金額を払いました。まあ所領の一部を売った程度で済んで幸運でしたわ」
私はあのロマンスに生きた男の娘と小ばかにされています。
侯爵は大臣まで務めた家柄でしたからねえ。そのご令嬢を振って男爵の娘なんかとくっついたらそりゃ評判も悪くなりますわ。
「私、レダン侯爵の家からかなり睨まれてます。殿下の婚約者に選ばれたことで少しは緩和されましたが……」
「されたのか?」
「ええ、さすがに身分が上のものにたてつくのをよしとしないあっぱれな人でして」
「……」
かなり人生苦労してきましたわ。
やっと人並みになれたと思ったら婚約破棄ですかまあ可能性としてはあるなと思ってましたけど。
殿下が冷や汗とともにお茶を飲んでますわ。
「慰謝料についてはこれくらいで」
「こんなに!」
「これでも額は抑えていますわ」
「……」
私は慰謝料をお支払いいただき、あとは私に非がないという誓約書を一筆書いていただければ婚約破棄に同意しますと頷きました。
黙り込む殿下と、これに一筆をと誓約書を差し出す私。
私だってこんなことしたくはないのですが婚約破棄された公爵令嬢なんて次の縁談が決まりにくくなるのですわとお願いします。
「レダンの家のご令嬢は次の婚約が決まるまで2年かかったそうですし」
「……」
「恨まれるのも仕方ないですわよねえ」
それくらいですかねえと私が言うと、デメリットが多すぎると頭を抱える殿下。
「上にたつものというものは制約は確かに多いですわ。でもそれを癒してくれるのが愛だというのならどうぞ、でも制約を打ち破ってもなしえたいという情熱がなければやめておいたほうがいいということですわ。うちの両親のように……」
私だって冷たい言い方だなとは思いますけど、両親のせいでうちの弟だってかなり苦労してますのよ。
婚約者が見つからないのはあれのせいでもありましたし……。
「少し考えさせてくれ」
「わかりました」
私は容色というものはなくなりますが、知性と教養などはなくなりません。そのあたりを研鑽してまいりましたが、殿下の愛を得ることができず残念ですと笑いました。
「君は悪くない!」
「でも愛を得られないのは事実、私の非があるとすればそのあたりですわね。かわいらしいところがないというか、その辺りに欠けてました。申し訳ありません」
私はドレスの裾をつまみ一礼しました。
殿下は椅子に座り込みずっと考え込んでおられました……退出した私はこれからどうしようかなと人生について考えていたのでありました。
「婚約は破棄しない、私が悪かったエルシー」
「はい?」
「真実の愛とやらは撤回する。上にたつものがそんなことで婚約者を悲しませるようでは王太子失格だ」
私は殿下の手のひら返しに驚いていました。いや燃え上がった恋は鎮火はできないものですからこれからの対処について考えていましたのに。
「一応、これを」
「慰謝料か、君の心を悲しませた罪としてこれの三分の一を支払わないとだめだな」
「……よくご存じで」
「ああ。婚約破棄を撤回した場合のことについても調べた」
私は予想が覆ったので、次の手を打たないとと考えていました。
だって一度心変わりをした人は信用できませんもの。
わかりましたとにっこりと私は頷いたのでありました。
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