9とらわれる人
南条隼人から連絡が来た。
次の木曜日に会えないか、との内容だった。
特に断る理由もなかったので、いいよと返事をした。
なんだろう、
正直言って彼はもうこれ以上私に関わろうとしないと思っていた。
私に好意こそ持っていたものの、私と関わることにめんどくささを感じていると思っていたから。
そう、私はめんどくさい。
いつも、いつまでもめんどくさい。
過去に囚われ、大事な人を大切にすることが出来ない。
南条くんはいい人なのに。
どうして、自分はひどいことを考えてしまうのだろう。
ため息をついて、私は月曜日と火曜日と水曜日の夜を越した。
どの日も家の外には出ない、つまらない日々だった。
南条隼人と会ったのは大学の教室でだった。
2人とも午後からの授業があったので、昼前に合流した。
私は先ほど階段の前で訪問販売をしていた弁当屋から買ったおにぎりを、彼はコンビニで買ったという弁当を持っていた。
講堂の前の方の列に2人隣に腰掛ける。
「久しぶりやね」
「うん、もう2週間くらい?会っていなかったもんね。」
昼食を食べる準備をしながら、少しずつ話し始める。
課題ちゃんと出してるの?
最近バイト先の先輩とちょっと出かけたんだよ。
実は今日の課題はあんまりちゃんとやってなくて、ついさっき気づいたから。
オアシス21の下?にジャンプショップがあるんだよ、すごくびっくりした。
私がおにぎりを1個食べ終わったくらいだろうか、
彼があのさ、と切り出した。
・・ミズノトウヤ、さんってさ
私は驚きを隠せなかった。
それが彼にも分かったのだろう。
なぜ、君がその人の名前を。
私は口にするつもりはなかったが、口に出してしまっていたのかもしれない。あるいは、顔が語っていたのかもしれない。
いや、違うんだ、あやさんから聞いて。
安藤が、小学校の頃親しかった人のことで辛いかもしれないって。
今も、もしかしたら苦しんでいるかもしれないって。
俺はなんにも知らない、その、ミズノさんについて。
でも、君はその、、多分親しかったんだよね?
多分、連絡が取れていなくて、行方も分かっていないんだよね、その人の。。
あの、本当にこないだ、こないだ聞いて。や、その。
彼が言うことの後半は何にも頭に入ってこなかった。
ただ、私は彼に哀れまれているのだと思った。
南条くん、君は私を哀れんでくれるんだ、
出会って、そう時間も経ってなくて、
一度ご飯に行って、
冷たいことを言われて、
でも、こんな自分をおそらく君は好きになって、
そうしたら、偶然、私の弱い部分を知ったんだ。
それを私の前で話すんだ。
私は、今、この状況が辛い。
しばらく何も言わなかった私に、焦りなのか不安なのかを感じた彼は目を細めて私をうかがってきた。
私はめんどくさい人。
そして、こんなことで頼る人を求めない。
それなら私は、、
「南条くん、」
「そうやお、うん。私はね、水野燈夜をずっと探しているの。」
「だから、君も手伝ってくれる?」