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未曾有の世界で恋をした  作者: 志名崎三実
3/9

3木曜の3限、桃乃は対面授業のため、学校に来る。

隼人はバスを降りた。バスを降りたのは、隼人1人だった。


俺の通う大学は最寄りのバス停からも、地下鉄駅からも結構歩かなくてはいけない。バス停からだと5,6分。地下鉄からだと15分。それを知ったとき、俺は迷わず、バス通を選んだ。でも、バスは、定期代が学割きかなくて、さらに土日はまた別で払わなければならないから、お得ではないことを最近知った。


何も考えず、まっすぐ大学へ向かう。1人ぼっちで、暗い、陰キャに見られないよう、わざわざイヤホンで音楽を聴きながら歩く。誰も、周りに人なんていないけれど。



桃乃はバス通ではない。ついでに、地下鉄を使っているわけでもない。桃乃はチャリ通だ。しかも、名古屋駅から40分くらいかけて大学までやってくる。たまに、ひどい雨の日とかはバスを使うらしいが、小雨くらいなら平気でチャリに乗ってくる。始めにそれを聞いたときには、驚いた。このあたりは地下鉄が充実しているからチャリを使う人は少ないから。


きっと今日もチャリで来るのだろう。いい天気だし。俺もいつかチャリ通にしたいなと思ってしまう。いや、それは、桃乃に合わせたいっていう目的だけでなくて、健康的な意味でも。


大学に着いた。相変わらずとても静かだ。構内にいる学生が数人、目に入るがみんな、1人でいるようだ。

スマホで時間を確認すると、12時32分という表示が見えた。少し早すぎたかもしれない。3限は13時からなので、早く来る生徒でも15分前にしか教室に入らない。困ったことに、どこで待機していいかも分からない。


無機質なアスファルトの大通りをゆっくり歩く。うつむきながらゆっくり歩く。俺の居場所のないことがばれないように。



「あ、南条君だ。」


不意に声が聞こえた。


「こんにちは。」


桃乃がいた。チャリに乗りながら、斜め前の角度からこちらの顔をうかがっている。

「あ、うん。」

びっくりして、挨拶も出来ない。音楽を聴いていたから後ろから来る自転車に気がつかなかった。

会えた。ちゃんと、会えた。


「後ろ姿でなんとなく、南条君かな~って思ったんだけど、やっぱりそうやったね。」


桃乃はチャリに乗ったまま、話しかけてくれる。ずいぶんと笑顔なような気がする。チャリを漕いできたからだろうか、息が切れていて、顔が少し赤い。運動していたから、マスクも外している。マスクをつけていない桃乃を見るのは久しぶりだ。

「そ、っか。」

なぜか、まともな返事が出来ない。もうちょっとなんか、マシなことを言いたいのに。


「あれ?南条君って4限じゃなかった?中国語。」

「うん。そうなんだけど、、、ほら家にいても、つまんないし。」

「そっか!本当そうやおね!私も行き帰りくらいチャリで運動しないと、もうストレス溜まっちゃうから(笑)。」

桃乃はチャリに乗ったままだが、俺の歩くペースに合わせて、話を続けてくれるようだ。もう少し何か話したい。

「えっと、次3限だよね、、安藤は。」

我ながら変な台詞だ。そんなこと百も承知なのに。それに、また安藤って呼んじゃった。同じ学部の奴には下の名前で呼んでいる人もいるから、俺も、、ほら、桃乃って呼ぼうとしているのに。

「そうそう!中国語だよ!先生厳しいから、ちゃんとやんないと・・ね。ふふ、南条君もがんばりゃあよ」

「うん。分かってるよ。ちゃんとやるよ、、、、はは、やっぱり、安藤は方言が強いね」

桃乃は岐阜出身だ。思っていたより、岐阜の方言は強いらしい。それに名古屋弁と同じところもある。名古屋人であんまり名古屋弁を使う人はいないから。今時名古屋弁を使う人は市長くらいのものだと思っていた。

桃乃のそんな話し方を、ちょっとかわいらしいと思ってしまう。


「あはは、知ってるよ~、もう。しょうがないんやもん。」

「はは、また出てるよ。・・・別に、いいと思うけど。」

「はいはい、フォローを丁寧にありがとね。じゃあね!」


桃乃はチャリを再び漕いで行ってしまった。裏の駐輪場に止めに行くのだろう。

俺は1人、その颯爽とした後ろ姿を見ながら、うん、じゃあね。と小さくつぶやくしか出来なかった。



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