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未曾有の世界で恋をした  作者: 志名崎三実
2/9

2桃乃との出会い

隼人は桃乃に、そう、恋をした。

大学へと向かうバスの中で隼人はぼんやりと自分の想い人について考える。

桃乃、本名は安藤桃乃。隼人と同じ大学の1年生だ。隼人は桃乃に初めて会った時のことを鮮明に思い出すことが出来る。いや、会ったというより、あれは、画面越しに映る桃乃を見ていただけだったのだが。


5月の上旬、GW明けの5月7日。その日初めて、隼人は大学生になった。

というのも、今年の4月は、入学式もなければ、新歓もなく、それどころか授業も始まらなかった。4月も下旬にさしかかったころ、大学から山ほどのメールと添付ファイルが届いた。そしてその後、意味も分からぬまま1年の授業を選択したのだった。


あの日、初めて大学の授業があったのだ。オンラインで、ではあるが。

1限目、なんとなく講義の名前が楽そうだった『野草を知る』という教養科目。その時はまだ授業にちょっとワクワクしたりして、ドキドキしたりして、開始1時間前の8時には、パソコンの準備を終え、ちょっとキレイな服を着ていたのだ。今となっては考えられない。


授業が、始まった。


はい、みなさん、初めまして~、、いや~慣れないですね、このオンラインは。いや、もう昨日からずっとバタバタで、、、え?チャット?あー、音が小さい?ちょっと待ってくださいよ、、、、。あ?見えてます?うん。うん。じゃあ、もう一度。おはようございます、、、。じゃ、画面共有?ってのをしてみますね。このPowerPointを開いて、、え?見えてない?えーっと、、、、、。え?ハウリング?誰かの声が聞こえる?私語はしないでくださいよ、、、、。



長い。なんか拍子抜けだ。授業の前に、挨拶の前に、話が進まない。いくら初めてのオンラインとはいえ、なんていうか、もっとこう、インパクトのあるような。大学生っぽい授業とか。かっこいい何かを期待していたのに。諦めて俺は、スマホを開き、ちょっとたまっていたLINEの返信をし始めた。


そんなこんなで、30分も経ったころ、画面の向こうの教授がとんでもないことを言い出した。


え~、では、みなさんもお友達が出来なくて寂しいでしょうし、私の話だけ聞いていてもつまらないでしょうから、このブレイクアウトルームっていう機能を使ってみたいと思いまーす。はい。みなさんをこれからグループに分けるので、5人ずつくらいかな。自由に自己紹介をしてくださーい。時間は10分です。なんか、10分でこの全体のグループに戻せるそうで、、。いや~すごいですよね。こんなことが出来るなんて。はい、それではどうぞ~。




いやいやいや、ちょっと待ってください、教授。オンラインでのグループで、10分自由な自己紹介なんて。けっこう無理ゲーっていうか、絶対やばいやつ、、、。




思った通り、ブレイクアウトルームの先は地獄だった。なんと10分間誰も何も話さなかった。ひたすら画面に映る見知らぬ人を片目にいれながら、うつむきがちにしているのが、みんな、精一杯だった。


地獄の時間が終わって、全体のzoomに戻された。戻すよう動くパソコンが動くのを心から安心しながら見ていた。


はい。みなさん、お友達はできましたかね。はい。では、今日は他にすることもないので、、どうしようかな。もう1回別のグループで自己紹介してみますか。はい、ちょっと待ってくださいね。



このとき受講していたすべての学生が思っただろう。やめてくれ!と。しかし、オンラインでは、表情で教授に訴えることは出来ず、新しい機能を覚えてウキウキしている教授には悲痛な学生の願いは聞き届けられなかった。


また、隼人はブレイクアウトルームに飛ばされた。先ほどはグループ2だったが、次は6になった。


最初、誰とも目を合わせないように少しうつむいていた。きっと絶対、気まずい空気になるから。でも、自分から、話しかける勇気なんて、ないから。


「えーっと、初めまして。自己紹介、、、しましょうか。私、安藤です~。安藤桃乃。法学部の1年生なんです。よろしくお願いします。」



女の子の声が聞こえた。彼女の話し方は軽くて、明るくて、でも、丁寧で。それは、俺にとって、久しぶりに聞く同年代の、女の子の声で。なんだか、すごく安心した。


少しだけ顔を上げて、その声の主を確認しようとすれば、両の手のひらをくっつけて口元に寄せながら、眉を少し下げて小さく微笑む女の子が映っていた。


あれが、桃乃を初めて知ったときだった。



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