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35話 戻れない

紅くツヤのある長い髪。ドラゴンらしさが残っているのは頭から生えている巻き角ぐらいか。見た目には二十歳そこそこの年齢に思える姿。一言で言うなら、とても綺麗なお姉さんがそこにいた。


「人の姿にもなれるんですね」


「そりゃあ、長く生きていると、いろいろな魔法を扱えるようになるものだよ」


「長くですか? 女性にこういうのを聞くのはどうかと思うんですが、その、年齢を聞いてもいいですか?」


「ちゃんとは覚えてないんだけど、多分二百は超えていると思うんだよね。ドラゴンは千年近く生きるからまだまだ子供のようなものだよ」


ドラゴンってもっと獰猛なイメージがあったのだけど、よくわからないけど長命種ほど性格も穏やかでのんびりな性格になるのかもしれないとフレデリカを見て考えを改めた。


「朱里姉さん、とりあえずは父さん達に報告をお願いできるかな。僕はフレデリカとしばらくここで話をしているから」


「そうね、帰りながら話はしておくわ。きっと臨戦態勢をとっているはずだもの」


「……あと一応なんだけど、フレデリカが島で暮らせるように準備だけしておいてもらえる?」


「うーん、あの門、エビルゲートをくぐって元の世界に戻れるというのは厳しそうだものね」


フレデリカはまだ諦めていないようだけど、僕も難しいのではないかと思っている。



僕ですら、門からは繋がっている先の情報は何もとれていない。


それは、門が開いている時点で他の世界との繋がりが切れているのではないかと想像できてしまうのだ。



「藍之助、ここは水の世界なのかい?」


「いや、水が多いのは間違いないけど、人が住んでいるのは陸地だよ。ここから少し離れた島に僕たちは住んでいるんだ」


フレデリカは、スンスンと匂いを嗅ぐように顔を上にして情報を集めている。その鼻先は御剣島の方角に向けられている。おそらく島の位置までわかっているのかもしれない。こういうところを見ると人っぽくないよね。


「たくさんの生き物の匂い、それから強烈な潮の香りというのかな。これはとても大きな海だね」


「海は多くの恵みを与えてくれる。島育ちの僕にとって、ここは飽きることのない遊び場ですね。魚や貝を採ってくると島の人たちも喜んでくれるますし」


「なるほど、この世界はいい匂いのする良い場所だよ。間違いなく闇の世界なんかではない。……藍之助、ゲートから出てきた精霊たちは、みんなさっきのように獰猛な表情、性格をしていたのかい?」


「うん、そうだね。例外があるとしたらフレデリカ、君だけだよ」


「そうかー。闇の世界だと思っていた場所が、ただの異世界だった。そして、あの穏やかな精霊たちがゲートを抜けることで邪悪な者に変わってしまう。私が変わらなかったのはイフリートに姿を変えていたからなのだろうか?」


分裂していたから邪悪な者に変化しなかった? それとも、フレデリカの包有する魔力量が変化を防いでいたのか。現状で考えられるのはこの二点ぐらいだろう。


「フレデリカ、次に門が開いたら……」


「うん、イフリートの姿に分裂して戻ってみるよ。ちゃんと戻れたら、またすぐに遊びにくるからね。だから、その時はいきなり攻撃しないでくれよ」


「ああ、もちろんだよ」


もしも戻れなかったら? 今の時点でそれを聞くことはできなかった。


精霊たちを助けようとしてこの世界にやってきた心優しいドラゴン。


難しいかもしれないけど、可能性が少しでもあるならば無事に戻れることを祈りたい。


その後も、この世界におけるたわいもない話をしながら過ごしていたら、再び門が開くタイミングが訪れたようだ。




「フレデリカ!」


「う、うん。イフリートに分裂だ! じゃあ、藍之助ちょっとばかし行ってくるよ」


ゆっくりと半分だけ開く門からは舌をチロチロと出しているサラマンダー。前足が出て、後ろ足も出てきたタイミングで、十体のイフリートが飛び込む。


まだ、門が開き切る前だ。これ以上ないタイミングでイフリートに扮したフレデリカが門を抜けていった。


「行ったのか!?」




しかしながら、門の中に入ったはずのイフリートたちは門の裏側。つまり、ただ裏側に抜けただけだった。


確かに門の中に入っていった。


それは間違いないのだけど、まるで何かに弾かれたかのように、はたまた、予めそこに門がなかったかのように全て無かったことにされてしまった。


ショックからなのか、十体のイフリートの姿から再びドラゴンの姿に戻っているフレデリカ。


「このドラゴンの姿が政府に見つかったら問答無用で攻撃されそうだよな。あとは、実験とかいろいろ大変な目に合いそう。いや、政府にフレデリカをどうにかできる力はないか。それにしても、ちょっと可哀想になってきたな……」


夕日が沈みはじめたエビルゲートの前で、フレデリカの後ろ姿からは何とも言えない哀愁が漂っていた。

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